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あゝ青春零戦隊

小高登貫:『あゝ青春零戦隊』(ISBN:4769820151)

若きエースの痛快な空戦録.

小高上飛曹は大正12年(1923年)生,初陣は昭和18年2月(1943年)で恐らく19歳.セレベス島のマカッサル海軍派遣基地での初出撃はいきなりB-24を撃墜.戦闘機乗りとしてきわめて優秀でいくつもの激戦を果敢にくぐりぬけ大戦を生き延びている.

読んで印象に残った点をいくつか.

まず空戦.

できるだけ高度をとり,優位な高度から敵の後部上方に襲いかかるという戦法に徹している.基本に忠実だからこそ戦果も増え,生き延びられたのだろう.

もっとも,先輩の門田上飛曹と中島飛行機の飛行場でアクロバット飛行やったり木更津基地で壮絶な模擬空戦をやって陸軍や新人の搭乗員のど肝を抜いてみたり,操縦や射撃の技量もただならぬものがあるのが分かる.空中戦も最初の一撃は優位からの「据え物斬り」としてもその後乱戦になるとのことなので,その時にはこの技量がものを言ったに違いない.

空戦でもう一つ基本に忠実な点.敵を追う際に後方確認をきっちり行っている.確認を忘れていて振り向いたら敵が迫っていたというハラハラするシーンもあるが,それでも難を逃れているところはやはり技量の高さによるのだろう.

神風特別攻撃隊

昭和19年10月,セブ島の201空にいた小高上飛曹は,他の搭乗員と同様特攻隊に志願する.彼らの間で「靖国神社で会おう」という言葉が本当に交わされる(P.205).

「きょう一日の命である。今夜は酒を飲もう」
 私たちはおたがいに待機の間に作ったパパイアの塩漬け、マンゴ、赤砂糖でつくったカルメ焼きなどを持ちよって、ささやかな宴を張った。アンペラの上にご馳走をならべて、向かい合っての酒宴だった。
「第一回の特攻隊には誰が選ばれるだろうか」
「おれも早く行こう。そして靖国神社で会おう」
「さびしい気持ちは、飲んで忘れよう」
 これが最後と、みんな思いきり飲んで歌った。だが、だれいうともなしに、故郷の話、父母、きょうだいの話などが出て、涙を流して語り合い、そして、靖国神社で会うことを誓い合った。

最初の特攻出撃は10月21日,久納好孚中尉の指揮する大和隊.記録によるとこのとき出撃したのは久納中尉と国原少尉の2機と戦果確認機1機とされるが(例えばhttp://www.terra.dti.ne.jp/~akimasa/html/itidaiki/kamikaze.htm),本書ではこれに対し「それに下士官兵が一緒に出撃していたのである」(P.207)と書かれており,特攻機6機,戦果確認機1機の計7機だったとしている.

小高上飛曹の出撃は第4回の特攻出撃.ただし,特攻機ではなく戦果確認機.恐らく上層部はその技量を惜しんだのだろう.軍事的合理性を超越した特攻出撃.隊員達の決意は等しく崇高なものなのに,上層部の妙に理にかなった判断はいささか釈然としないものがある.そのような合理性が残っているのならなぜ体当たり攻撃を命じるという最後の手段を,もっと後に回せなかったのか.

本書でも上層部への不満が以下のように書かれている(P.206).

 だが、そうした雰囲気の中で私たちが不満だったのは、私たちに対する命令の与え方であった。
「命令、きょうの攻撃は、駆逐艦巡洋艦である。特攻機はいずれも、その艦の煙突の中に命中するんだぞ」
 なにか品物でも捨てるような口調だった。われわれは、たしかに消耗品であったかもしれないが、これは、みんなのカンにさわった。そのためにセブ島ではなかったが、他の基地ではこうした扱い方に激しい抵抗を示して飛び立って行った特攻隊員もあったという。だが、考えてみれば、そのくらいでなければ、こんな戦争のルールを踏み外したような命令はできなかったかもしれない。

3機の特攻機とともに出撃する小高機.3機は全機敵に命中し駆逐艦輸送艦を轟沈させる.この前後の描写は強く胸を打つ.特に特攻出撃する搭乗員を「生き神さま」と表現しているのが心に残る.

343空での戦いぶり.

表紙が翼の20mm機関砲を撃ちながら逆落としに急降下する紫電改であるが,技量抜群の小高上飛曹は本土に戻ると練習航空隊の教官を経て(その間にも艦載機襲撃に対し零戦で迎撃してF6F2機を撃墜)343航空隊に配属される.技量の高さを示すエピソードに,紫電で着陸する際,片方の脚が伸びきらない状態でありながら無事に着陸するシーンがある.脚の故障は紫電の泣き所だというのに,この人にかかるとなんでもないことのよう.

昭和20年3月19日の松山上空の空中戦では小高上飛曹も紫電改で出撃.ここでも有利な高空から後上方攻撃をしかけ,たちまちF6F1機とF4U1機を撃墜する.52機とされるこの日の撃墜戦果のうち2機が小高機によるものである.このうちF6Fは墜落を確認しているため,確実度が高い.

P.254にB-29に対する攻撃法が出ている.背面飛行で前上方から接近,そのまま降下,突入して射撃する.カバーイラストはまさにその前上方攻撃.攻撃後退避する際高速で引き起こすのだが,このとき3機の紫電改で胴体が折れたという.「これまで三十六本のビョウで止められていた胴体を、四十八本のビョウで止めることになったが。それからは空中分解はしなくなった」(P.255)とある.この事故では搭乗員の犠牲は出なかったらしい.

この胴体が折れるという話は初めて知った.他の資料も当たってもう少し調べたい.