- 作者: 八木秀次
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2003/04
- メディア: 新書
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工学部出の私にとっても分かりやすかった.正面からの書評はAmazonの読者レビューに同意できるものがあったのでそちらに譲ろう.
本書は保守の側からの憲法の解説書であり,現行憲法に関する通説や護憲派の方々の憲法解釈について色々ツッコミがある.それらがとりわけ面白かった.
明治憲法を以前ざっと読んだとき,意外に現行憲法と違わないのではないかと思ったが,本書でもその指摘がある.例えば立憲君主制,議会制民主主義,信教の自由等諸々の臣民の自由など.立憲君主制はスペイン,ネパールやカンボジアの憲法が参考にしたという.それはもしかして現行憲法九条以上に世界に誇れるものだったのではなかろうか.明治の先人達に敬服する.
よく明治憲法が天皇の神格化だと揶揄されるのが「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」(第三條).これも立憲君主制,すなわち天皇の政治権力を憲法が認めないことと関連する(P.140).
<略>今日の学校教育では、「これは天皇の神格性をあらわす表現である」という記述も見受けられますが、伊藤の認識によると、これは立憲君主制の国家においてはありがちな規定で、立憲君主としての天皇の無答責すなわち政治的・法的無責任の条項に過ぎません。第五五条と対になるものなのです。
天皇は現行憲法下と同様に,政治権力を行使できないのだから,政治に関する責任も問われない.確かに理にかなったこと.逆に,「昭和天皇の戦争責任」を問う人々は本当に憲法を理解しているのだろうか.
もっとも,政治と軍が対等で文民統制が明記されていない欠陥が昭和の軍部独裁を招く.そういう問題点の指摘も本書にはある.
国民の自由に関しては確かに今の方が明治時代より進んでいるが,これは「公共の福祉」の捉え方が当時と今とで違うということによるのだろう.
現行憲法の改正にあたり,明治憲法を知ることは重要だという主張に同意する.
社会契約説の否定に関してはちょっと違和感を感じたがそれについては以下で批判されている.
http://www6.plala.or.jp/Djehuti/393.htm
社会契約説は近代国家の国民と国家の関係をうまく説明できる理論だと思う.憲法が国家の成り立ちを社会契約説で説明することの是非と社会契約説の是非はまったく別だろう.
あと,一ヶ所指摘.
http://album.nikon-image.com/nk/NImageAlbum.asp?key=72.291111&src=5279268&un=55875&m=0&pos0=1