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地球大進化第4集

NHKの番組地球大進化の第4集.「大量絶滅

このシリーズ,どうもイデオロギーくさいところが気になる.この回では哺乳類は爬虫類に対して優越するというイデオロギー

この回は,95%の生物種が絶滅したと言われる古生代ペルム紀末の大量絶滅と,その際の環境の変化が生物をどう変えたかを扱っている.

2億5千万年前のこの大量絶滅の後,地球は約1億年にわたって酸素の濃度が低い時代が続いたという.

番組では,哺乳類が低酸素の環境で確実に子孫を残すため,「酸素を確実に胎児に届けられる」胎生を獲得したのだという説を紹介する.哺乳類は素晴らしい.

しかし,「胎生」「酸素」などでぐぐってみるとどうもこの説は有力なものとは思えない.酸素が少ない時代に,本当に卵は不利だったのだろうか.違うと思う.なぜなら,恐竜は私の知るかぎりすべて卵生なのだから.

「胎生」というのはそんなに特別なことではない.陸の爬虫類ならマムシの仲間に胎生のものがいるし,海ならサメにも胎生のものがいる.古代の爬虫類では,魚竜や首長竜が胎生だったと言われる.それらの海生爬虫類は,有羊膜卵が水中では窒息してしまうという制約下で胎生を獲得し,陸に上陸できない海に完全適応した体を獲得した.ペルム紀が明けた一億年の間に,低酸素の環境で本当に胎生が有利であるなら,間違いなく恐竜は胎生を獲得していたであろう.

低酸素の環境が陸の爬虫類の呼吸システムの改革を促した.大いに繁栄した恐竜は「気嚢システム」を獲得していた.哺乳類の祖先は横隔膜を獲得し,腹式呼吸のため肋骨を失った腹部はやがて「授乳」という機能を獲得して哺乳類へと進化する.

こう番組のストーリーを追ってみると,どうも「胎生」に関する説明は蛇足に思えてならない.

恐らく,番組担当者が,爬虫類に優越する哺乳類の特徴として「胎生」を譲りたくなかったのだろう.確かに人が子供を産むことは心を動かす.しかし,卵生か胎生かは酸素の濃度だけで一意に決まるものではない.科学番組としては胎生に関するエピソードは不要だったと思う.

上にも書いたように,胎生の生き物は哺乳類でなくても沢山いる.また,哺乳類でも単孔類は卵生だ(カモノハシやハリモグラ).哺乳類が本当にユニークなのはむしろ,乳で子供を育てること.「哺乳類」の名前の通り.番組ではそこに焦点を当てて欲しかった.授乳という特性が,単に繁殖の戦略だけでなく,低酸素の環境がもたらしたものだというのは面白い.

私は「進化」の物語では多様な枝がどう広がっていったか,その中で特に面白い枝はどれか,ということが気になるのだが,番組担当者は人類につながる1本の枝にしか興味がないように思える.その1本の枝のみが価値あるものだと言わんばかり.「進化」を扱った番組はたいがいそういう作りなので私は物足りない.

NHKスペシャル 地球大進化 46億年・人類への旅〈4〉大量絶滅

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