Great Spangled Weblog

コメントははてなにログインすると可能になります(SPAM対策です)

サンクトペテルブルグ

Sonic Stageでもって最近Billy Joelの曲をまとめてダウンロードした。

「何かが足りないような」という気がしたのは、'Leningrad'が買えなかったため。それでどうしたものか、と考えつつ収録アルバムのジャケットをネットで見て思い出した。「"Storm Front"は持ってる」。ということで押し入れに眠っているのを無事見つける。聞くのは10年ぶりぐらいだろうか。

冷戦時代の米ソの対立。互いに敵対する国で暮らしてきた二人、VictorとBilly Joel。二人はレニングラードで出会い、親交を深める。Billy Joelソビエトツアーでの出来事を歌にしたもの。スローなバラードに重厚なアレンジがいい具合にソ連の雰囲気を出している。二人の友情を描いて結ぶ歌詞もなかなか感動的。

敵対する国どうしでの市井の人々の交流や、戦闘の場面外での兵士の親交などはドラマチックでありかつ心暖まるものを感じる。

ここで進歩的な方々の主張では、「国家があるから国家間の対立が生じる。市民どうしは友好的に交流できるではないか。国家を解体し、国境をなくせば国家間の紛争に類する争いはなくなるはずである」となろう。

例えば民主党の憲法改正に関する提言のように。


第1は、グローバル社会の到来に対応する「国家」のあり方についてである。

 そもそも、近代憲法は、国民国家創設の時代の、国家独立と国民形成のシンボルとして生まれたものである。それらに共通するものは、国家主権の絶対性であり、国家による戦争の正当化であった。これに対して、21世紀の新しいタイプの憲法は、この主権の縮減、主権の抑制と共有化という、まさに「主権の相対化」の歴史の流れをさらに確実なものとし、これに向けて邁進する国家の基本法として構想されるべきである。それは例えば、ヨーロッパ連合の壮大な実験のように、「国家主権の移譲」あるいは「主権の共有」という新しい姿を提起している。

他にこの記事では「地球市民」などにも言及しており、民主党の提言では、国家の枠組みを記述するはずの憲法が国家の解体を目指すという不思議な事態になっている*1

こういううまい話は用心した方がいいと思う。

ご近所の対立を解消するため垣根を取り払え、同じ家に住め、とは普通言わない。国家にしても同様だろう。国家はだてに「家」に例えられているわけではない。

国家運営が国民の思惑や利害と無関係などということはありえない。国家間の対立は、互いの国民の間に存在する潜在的な対立を国家機関が吸い上げ、目に見える形にして、その処理を試みている、というふうに解釈すべきだろう。

利害の対立は、それぞれの国家機関が代表して処理すべく動いてくれているので、庶民レベルではそんな問題を持ち出さなくてもよい。だからこそ、敵対する国どうしでも市民や兵士は特に憎しみも持たず、良好につきあうことができるのだろう。

国家を解体すれば対立がなくなるなどということはありえない。むしろそうすると、人々が互いに直接、利害の対立を処理しなければならなくなる。

国家間の敵対関係と、庶民どうしの心温まる交流という対称的な構図は、むしろ国家がうまく機能していることの証左なのだと思う。そうした状況の中で、否応なく見えてしまう、そして解消できない対立という絶望。そして庶民レベルでは仲よくできるという希望。ここにはそういう強いコントラストが描かれている。

Leningrad 訳詞

日本盤CDについてる対訳がけっこうひどいので拙訳を。ロシア人が「赤軍の捕虜となった」ってのはなんだそれは。

レニングラード

1944年の春、ヴィクトルは生まれた
そして父親の顔を一度も見ることがなかった
英霊の息子、戦争の落とし子
レニングラードに住む、父親がいないもう一人の息子
学校に行き、国家に奉仕することを学んだ
規則を守り、ウォッカをストレートで飲んだ
この国では、憎悪に溺れて生きてゆくしかない
ロシア人の人生はとても寂しい
レニングラードでの暮らしはそんなものだった

僕は1949年に生まれた
赤狩りの時代、冷戦の申し子
38度線で奴らを阻止し
黄色いアカどもを地獄にたたき込んだ
冷戦の申し子はしぶといんだ
防空演習で机の下に潜り込み
そこで戦争に勝ったと知った
だけど、僕らは一体何と戦っていたのか?

ヴィクトルはとある赤軍の軍都に送られた
満期除隊となって、サーカスのピエロになった
そこで最高の幸せを知った
ロシアの子供達を喜ばせること
レニングラードに住む子供達

レヴィタウンに住む子供達は
地下の核シェルターに避難した
ソビエトの船が引き返すまで
キューバのミサイル配備を阻止するまで
そして10月のまばゆい日差しの下で
僕らは少年時代が過ぎ去ったことを知った
僕は友達が出征するのを見送った
彼らは何のために戦いつづけたのか?

そうして、僕は子供を連れてここに来た
彼とじかに会うために
彼は娘を笑わせてくれて、そして僕らは抱き合った
レニングラードに来るまで
僕達はこんな友達を持ったことは一度もなかった


Storm Front

Storm Front

*1:民主党憲法提言へのツッコミはこちらもご覧願いたい→http://blog.livedoor.jp/f_117/archives/14532240.html