バンバン制御

ブレーキの遅れ

JR福知山線脱線事故

報道を聞きながら少々電卓を叩いてみて事故の様子を推測してみた。

運転士によるブレーキ操作が数秒遅れたことが直接の原因と思う。

鉄道運転規則によると;


(列車の非常制動距離)
第五十四条
 非常制動による列車の制動距離は、六百メートル以下としなければならない。

とある。当該列車の最高速度120km/hとすると、600mで停止するためには36秒間ブレーキをかける必要がある。1秒ごとに3.3km/h減速。

カーブの進入速度が108km/hと報道されているので、ブレーキ操作後3.6秒と推測される。ブレーキを6秒かけると車速は100km/h以下となり、9秒なら90km/hとなる。90km/hならば遠心力は108km/hの70%。転覆の危険性は大幅に減ったはず。つまり、ブレーキをかけるタイミングが5〜6秒遅れたことが微視的に見た場合の運転士の操作ミス。

90秒を取り戻すのは無理

直線路で停止状態から発進し、ゴールで停止する場合、もっとも時間を短くする運転方法は全力で加速し、次にフルブレーキングで停止する。いわゆるバンバン制御が最適解。例えば加藤寛一郎:『零戦の秘術』(ISBN:4062560917)参照。

yahooでJR福知山線の伊丹〜尼崎間の距離と快速電車の走行時間を調べると5.8kmを7分とある。平均速度は約50km/h。

非常に単純な割り切りで計算すると、伊丹駅から210秒かけて100km/hまで加速し、210秒かけて減速して停車すると、7分後に尼崎駅に到着する。

これを90秒遅れで出発する場合は、165秒かけて127km/hまで加速し、同じく165秒かけて停止する。加減速時の加速度は前者が毎秒0.48km/hなのに対し後者は0.77km/hで1.6倍。平均速度は3割弱しか増していないが、加減速は6割増しと大幅に増える。事故車の運転が相当乱暴であったという証言もうなづける。

電車の加速はそれほどよくないように思うので、急いでも加速は平常時と同じと仮定すると、もっと乱暴な運転が必要だという解が得られる。この場合、265秒かけて127km/hまで加速し、残り65秒で減速する。減速時の加速度は毎秒1.95km/h。平常時の4倍。というか非常ブレーキに対して58%。かなり無茶な減速を行わないといけない。

実際は、途中の2駅を通過するには減速する必要があるだろうし、行程の最後の約1/3はきついカーブなので制限速度70kmを大幅に越えるわけにはいかない。また、車両の性能上最大速度は120km/hが限界。このような条件を考えると、全ての加速を全開とし、全ての減速を非常ブレーキ並の急減速としても、この区間で90秒の時間短縮は不可能と推測される。現に、塚口を1分遅れで通過したと言われるので、30秒しか短縮できていない。事故を起こさなかったとしてもいいとこ時間短縮は40秒だろう。

7分の区間で40秒短縮というと約10%。時刻表からは事故車両は8分でこの区間を走行することになっていたとも考えられ、これによると8%程度。この区間での時間短縮はこれが限界だろう。

自動車を運転していれば急いで運転しても目的地に着く時間はいくらも早くならないことに多くの方がお気づきかと思う。電車もそうは違うまい。

ここで推測されるのは、JR西日本社内では、出発が遅れた場合、急いでも遅れを取り戻すことが不可能である場合が多いことを、運転士にきちんと教育してこなかったのではないかという疑念。むしろ時間厳守を優先し、速度超過など運転士の無謀は黙認する空気があったのではなかろうか。もしそうであるとすると、事故は起こるべくして起きたと考えられる。

推測をもとに相手を批難するのはよろしくないから、安全管理に関して何か具体的に批判するにはさらに情報を待つしかないけれど。

分かっていることとしては、70km/h制限のカーブに108km/hで進入したのは運転士の瑕疵。そして、記者発表してしまった133km/hを下まわったのに列車が脱線転覆したのは、つまり108km/h〜133km/hのギャップに関する瑕疵は、JR西日本にある。これにさらに、安全管理に関する瑕疵が加わってくるので、恐らく補償は全額JR西日本の負担となるであろう。刑事責任ももちろんJR西日本にもどっぷり来る。

TVあたりは「利益優先」がどうこうと分かり易い叩き方をしているが、むしろ言えることは、安全をおろそかにすると真の「利益優先」は不可能だ、ということ。最後にむにゅう氏の言葉を引用したい。


リスク対処は儲かりませんが、リスク対処を怠るともっと儲からないということです。

短いまとめ

思うにこの事故の根本原因はこれではなかろうか。

回復運転不可能なダイヤを組んでおいて回復運転を禁止しなかったこと。

話に聞くと運行時間遅れに関しては厳しい罰があったようだが、回復運転のための無謀運転には厳しく罰する様にはなっていなかったらしい。運行遅れに関する罰則が厳しすぎるとかいう話は興味がないが、これより無謀運転の罰則が厳しくないというのであればJR西日本はかなりおかしい。

  • A定時運行−利便性の問題
  • B無謀運転−人命の問題

上記においてA>Bという価値基準なわけである。交通機関を稼業として行う者として根本が狂っていると指摘せざるを得ない。

無謀運転に対する罰則が厳然とあり、実は適切に運用されていた、というのであれば上記を改めるにやぶさかではないのだが、報道からはそのようなものは見えてこない。

零戦の秘術 (講談社プラスアルファ文庫)

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