紫電改の主翼

『MILITARY CLASSICS』Vol.10。「紫電改」特集。P.45あたりの;

マフラーを翻し、肩で風を切って歩くのがここでの嗜み。ここはまさに益荒男の園だ!

こういうノリは楽しいし、林喜重大尉の読みが「はやしきじゅう」と知ったのも収穫だ*1

しかし、「層流翼」の解説は案外薄くて残念。これぐらいは押さえておいてほしい。

  • 前縁半径が小さいため失速特性が悪い。
  • 「L・B翼」のL・Bはライトブルーで、東大の制服の色。
  • 後縁側の絞り込みが大きいため、翼後縁で気流が剥がれやすい。

翼後縁で気流が剥がれやすいことは以前はあまり指摘されていなかったと思うが、『航空情報』別冊の『知られざる軍用機開発(上巻)』で鳥養鶴雄氏がこう指摘している(P.148)。

 では,なぜ「強風」や「紫電」には大きなフィレットが付いているのか。それはこの記事でハッキリした。初期の[LB翼]は水平巡航中でも主翼付け根の後縁側で大きく剥離している欠陥翼型だったのだ。おそらく2次元翼の風洞試験では問題なかったのだろう。「紫電」と「紫電改」は平面形は同じだが、翼型は再設計されている。だからフィレットも小さいものになった。

小さいといっても「紫電改」のフィレットはやはり相当なもので、ブレンデッド・ウイング・ボディかと思うほどである。

「強風」が「紫電」になってもフィレットを廃止できなかったのは、せっかく中翼にしたのに主翼と胴体が垂直になっていないため。逆に低翼でも翼と胴が直交していればADスカイレーダーのようにフィレットは不要になる。

「強風」・「紫電」の胴体断面は「火星」エンジンに合わせて寸法が決まっているが、上から操縦席に必要な高さを確保して、その下に主翼を持ってきた。このため中翼とはいえ主翼は胴体の中心より下にある。しかも、胴体は13mm機銃を収納するため上半分がふくらんでいる。水上機であるので胴体の後方はやや上に持ち上げている。以上により、主翼は後下方にすぼまったような面に取付けてある。

これに追い打ちをかけるのが、主翼の胴体への取付け角。なんと4°もある。零戦や「疾風」は2°。「飛燕」に至っては0°。

これらにより、中翼とはいえ翼と胴の間で気流が干渉し、フィレットが必要になった。

ここで、普通のフィレットでは乗り降りの際足をかけるところがなく不便なため、「強風」・「紫電」では凸面の独特の形状になった。「乾燥バナナ」とあだ名されたが、これは特に「紫電」の丸っこい胴体をさらに愛らしくしているように思う。

主翼の取付け角が大きすぎたことは川西も認識していたフシがある。「強風」〜「紫電改」の主翼の「ねじり下げ」は、他の機体が翼端部や翼全幅にわたって設けるのに対して、主翼の付け根をねじっている。つまり付け根から補助翼の間で翼の取付け角が4°から2°に減っている。後ろからみると翼の後縁は補助翼より外側で上反角がへり、弱いガル型に見える。

取付け角を減らそうにも「強風」の胴体の設計が進んでいてどうにもならなかったので、主翼でこのように対応したように見える。それなら「紫電改」設計時に取付け角をなんとかすればよかったのだろうが、今度は主翼に大改造が必要になるのでやめたのかもしれない。

紫電改」の大きいフィレットは、以上から、主翼の取付け角が大きすぎることと層流翼であることに起因する、後縁の剥離を防止するためと考えられる。

やはり同じエンジンの「疾風」と比べると「紫電改」の空力設計は一歩及ばないと言わざるをえない。それでもあまり性能が劣勢でないのは、「疾風」のプロペラが小さすぎたのと、「紫電改」の層流翼が案外効果があって翼の抵抗が少なかったことによるのかもしれない。プロペラ径の違いが空力設計の不利を補ったとは(主翼の取付け角の件も含めて)いつかの『航空ファン』で指摘されていた。

紫電改」は急降下時、高速で引き起こすと空中分解するという事故が相次いだという。これも翼つけ根後縁の気流の剥離が原因で、これが尾翼を叩いたことによるのではと推測される。

ところで余談ながらP.27。

なお本機は、当初から水上戦闘機として開発され、制式採用・量産された世界唯一の機体である。

Wikipediaの「強風」に関する記述。


なお本機は、当初から水上戦闘機として開発され制式採用・量産された機体として、日本はもちろん世界唯一の物である。

もう少しひねったほうがよかったかも。もっとも作者が同一という可能性もあるが。

知られざる軍用機開発 (上巻) (航空秘話復刻版シリーズ (1))

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