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切落としデルタ翼

航空機の用語でよく分からないのが切落としデルタ翼、またはクリップドデルタ翼

F-8クルーセイダーに始まり、F-15や日本のT-2/F-1など、超音速戦闘機/攻撃機でよく使われている。

しかし、ぱっと見、これはデルタ翼の改良型というより後退翼の改良型と呼んだ方がよさそうに思える。

デルタ翼の余分な部分を「切落とし」、その分を尾翼に回したもの、という説明を見たことがある。しかしどうも、実際の設計ではまずデルタ翼を設計し、次に余分なところを切り取って、などとはやっていないらしい。

世界の傑作機』などにある鳥養鶴雄氏の記事などを読みながら思うに、空力的に必要な後退角を決め、構造的に合理的になるようにテーパー比を決め、その結果が、いわゆる切落としデルタ翼になるようだ。要するにテーパーがきつい後退翼

飛行機の主翼はテーパーをつけると揚抗比が改善され、翼付け根の曲げが軽減されて軽く設計できる。しかし、テーパーがきつくなりすぎると翼端の翼弦が短くなりすぎ、翼端失速を起こし易くなる。例えば小さい紙飛行機は実機より失速し易く、最大揚力係数を十分稼げない。

後退翼を採用した初期のジェット戦闘機は、後退翼がただでさえ翼端失速し易いので、これ以上翼端失速する要素を増やしたくないため、主翼にテーパーをあまりつけていない。リパブリックXF-91のように逆テーパーをつけたものまである。構造の担当者は、ただでさえ直線翼と違ってねじりが作用してきついので、さぞやテーパーをつけて曲げを減らしたいと思ったことだろう。

ところが、後退翼にきついテーパーをつけても、翼端失速しない設計が可能だと明らかになった。『世界の傑作機』No.95、T-38/F-5A/Bの特集号での鳥養鶴雄氏の記事より(P.66);

十数%の厚翼を使う亜音速機では,テーパー比をきつくすると,翼端失速を起こしたが,デルタ翼に見られるように,大きな後退角と小さなアスペクト比を組合わせると翼端失速は起こさなくなる。とくに翼厚比数%以下の超音速機の翼では,剥離は前縁で発生し,その渦が上面の空気を安定させるので状況が大きく変わってくる。この特性がハッキリ認識されたのは,センチュリーシリーズの開発以後だった。

こういった記事から、切落としデルタ翼とは、軽く作れて失速しずらいデルタ翼の特徴を参考に、空力的に譲歩することなく構造を大幅に軽量化した、改良された後退翼だと考えることができる。

もとより、デルタ翼にしても、テーパー比が極端にきつい後退翼と見なすことができるわけで、後退翼と明確に線引きできるわけではない。とすれば、切落としデルタ翼というのは見た目通り、後退翼デルタ翼の中間と考えればいいのかもしれない。

鳥養氏の上記記事は、「直線翼」に分類されるはずのT-38/F-5の主翼の解説に続く。それによると、同機の「直線翼」は、性能から決まる前縁後退角と、構造を合理的にするためのテーパー比の組合わせでそうなったらしい。考え方としては切落としデルタ翼と同じで、たまたま前縁の後退角が小さく、後縁に前進角がついて、直線翼に見えるというだけ。ノースロップ社の社是は「戦闘機は直線翼とする」ではなく、もっと単純に、「後退角をできるだけ小さくする」ということらしい。

これで超音速戦闘機の主翼直線翼後退翼デルタ翼となだらかにつながることが見えてきた。

そうすると、F/A-18のようなストレーキつきの直線翼は、ダブルデルタ翼(内翼の後退角がきつい)の親戚と考えることもできる。ダブルデルタ翼の内翼も大迎角時に渦を発生させて最大揚力係数を改善するのだから、確かにストレーキと大きく違うものではない。

超音速戦闘機の設計は、直線翼後退翼デルタ翼という分類より、後退角、テーパー比、アスペクト比がどう選定され、組合わされているのかを読み解く方がよいようだ。アマチュアにそうそう読み解けるものでもないけれど。

T-38タロン,F-5A/Bフリーダムフ 世界の傑作機 NO. 95

T-38タロン,F-5A/Bフリーダムフ 世界の傑作機 NO. 95