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精神科医がうつ病になった

精神科医がうつ病になった―ある精神科医のうつ病体験記

精神科医がうつ病になった―ある精神科医のうつ病体験記

ある精神科医うつ病の療養を経て仕事に復帰する、というストーリーなので、リハビリ出勤中の参考になるかと思い拝読した。

タイトルは「そのものずばり」だが、読んでみると中味は多分に小説になっていた。読みやすく、1日あれば読みきれる。

うつ病の症状、特に希死念慮自殺念慮)を「これは症状なんだ」と自分に言い聞かせて耐え、抗うつ剤を最大限飲んで無理に診療を続けるところは迫力がある。

若い精神科医が激務からうつ病になり、療養後また精神科医に復帰した、という本書の肝の部分は事実なのだと思う。しかし、本書は多分に、事実を元にしたフィクションなのではないかと感じられる。

仕事に復帰するための参考にと思って読んだが、むしろ文芸として楽しめた。

ちょうど『秘めたる空戦』(松本良男、幾瀬勝彬著、ISBN:4769821360)という太平洋戦争の空戦記を思い出した。

もっとも、うつ病の療養に関して参考にならない、ということはなく、むしろためになる部分が少なくない。うつ病を「心の風邪」ではなくむしろ「心の肺炎」だと指摘するところもはっとする。「適切な治療を受けないと確実に命を落とす」(P.135)とある。

仕事への復帰についても、序文にこのように書いてあるのが参考になる(P.6)。

 医師は、薬物療法だけでなく、患者が安心して休息をとれる環境を調えたり、患者の不安な気持ちを受容的に聞きながら、患者を安心させるように精神療法を行います。それにより、今までよりも肩の力をぬいて仕事や柔軟な思考ができるように、少しずつ促していきます。
 したがって、精神科で「治る」というのは「元に戻る」のではなく、「負担の少ない新しい生き方」を、主治医も家族と一緒になって探していくものだと考えていただきたいと思います。もとの状態に無理があって発病したわけですから、もとの状態に戻れば再発の危険が高くなるのです。

本書のストーリーでは、泉医師は3ヶ月の療養とリハビリ的な勤務形態を2ヶ月行い、その後常勤の医師として復帰できたとある。Amazonの批評にもあるように、これはうつ病の療養期間としては短いように感じられる。

しかし、本編はたしかにそういう結びではあるものの、後書きを読むと、その後が順調だったとは言いがたいようだ。うつ病を経験してから医師として働くことは、やはり相当に大変なことだったのだろうと推測される。復帰して勤務することになった病院も、発病時に勤務していたところより仕事の負担が少ないところだと書かれている。

予想していたノンフィクションとしての「闘病記」とは違った形ではあったが、得る物の少なくない本で、ネットで取り寄せて読んだ甲斐があったと思う。