Great Spangled Weblog

コメントははてなにログインすると可能になります(SPAM対策です)

北朝鮮に備える軍事学

北朝鮮に備える軍事学 (講談社+α新書)

北朝鮮に備える軍事学 (講談社+α新書)

北朝鮮問題を軸に語る日本の安全保障。

中身はこんな感じ。

  • 1章 核&ミサイル ホントの脅威度
  • 2章 北朝鮮軍はどれほどの実力があるのか
  • 3章 米軍「戦争計画」の全貌
  • 4章 どこまで分かる? 日本の軍事インテリジェンス
  • 5章 日本の「備え」
  • 終章 国防政策見直しのススメ

1章「核&ミサイル ホントの脅威度」の肝はここだろう。

Q「北朝鮮がどこまで核武装すれば日本への脅威となるのか?」
A「ノドンに搭載できるまで核爆弾を小型化する時点」

これを受けて5章「日本の「備え」」はこのように結ばれる(P.206)。

 中途半端な敵基地攻撃力は、完全な抑止力にはならない。しかし、少なくとも、日本の核武装だとか長距離渡航爆撃機だとかミサイル防衛だとかの方策よりは、対北朝鮮で日本が持てる軍事力としては、もっとも”安上がり”で、かつ”実効性のある”兵器であることは疑いない。
 アメリカの同盟国でもほとんど一心同体といえるイギリスにしかこれまでトマホークは配備されていないが、日本も本気で導入を目指してもいいのではないかと思う。

敵基地攻撃能力を整備することは現行憲法下でも違憲ではないという結論が出ているのだから、これは前からもっと本腰を入れて整備すべきだったものだ。ようやく空中給油機が今年から、精密誘導爆弾が来年から配備というのでは遅すぎる。何より、北朝鮮への断固とした意思を示せない。これでは核ミサイルの脅威だけでなく、拉致問題にもマイナスだと思う。6ヵ国協議にあたりF-117やF-22を極東にもってくるアメリカをもう少し見習うべきだろう。巡航ミサイルの配備とかをほのめかすぐらいのことはしてもいいはずだ。

終章「国防政策見直しのススメ」では、(P.212)。

「ノドンへ搭載できる核弾頭の完成」が日本にとってのレッドラインだと書いたが、現実的に、北朝鮮はいずれこれを実現するだろうし、それを阻止する手立ては日本にはない。

とあり、これを受けて日本の今後の施策についてはこう書かれている(P.213)。

 危機管理とは最悪の事態に備えることともいうが、日本はもはや、数発程度の核ミサイル飛来の可能性をゼロにはできない事態を覚悟しつつ、北朝鮮が核量産態勢を築くことを抑える努力もしなければならない。外交上でも、軍事上でも、である。

核兵器の量産態勢>は、本書ではアメリカにとって許容できないレッドラインのひとつとされる。日本にとってのレッドラインに対して、日本は特に何もできず、アメリカのレッドラインに合わせて行動しなければならない、という結びはやるせないものがある。

はっきりとは書いていないが、著者は6ヵ国協議のような話し合いだけでは、北朝鮮核兵器開発は阻止できないと考えていると伺える。2006年12月時点でこんな展望(P.173)。

 ただし、北朝鮮の6ヵ国協議復帰表明で多少薄らいだ緊張は、ただの時間稼ぎだったことが明白になるにつれて再び高まってくるだろう。

北朝鮮寄りで楽観的な展望にもこのように釘を刺す(P.212)。

「アメリカが妥協して北の体制保証を約束すれば、北は核を放棄する」という意見の人もいるだろうが、希望的観測に過ぎない。金正日の考え方は誰にもわからないわけだから、あまりこういう議論をしても意味があるとは思えないが、過去の北朝鮮の政策パターンだけを検討材料とすれば、北朝鮮は一貫して核武装を追求してきていることが明らかである。それはもう「揺るぎない国是」といってもいい。

話し合いだけで何でも解決できれば軍事力は必要ない。逆に、北朝鮮は軍事力しか信用していない節がある。力を信奉すればこその核兵器開発。そこで、北朝鮮問題を考える時には、本書のように軍事的な要素を扱っている資料は特に必要だろう。