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金正日と日本の知識人

金正日と日本の知識人―アジアに正義ある平和を (講談社現代新書)

金正日と日本の知識人―アジアに正義ある平和を (講談社現代新書)

姜尚中氏が、「金正日のサポーター」、「独裁者の御用学者」と呼ばれボコボコに叩かれている。他にも金正日大好き「知識人」として、和田春樹氏、佐高信氏、水島朝穂氏が名指しで批判されている。痛快。

しかもこの著者は、いわゆる右派、右翼、国士とくくられる人ではない。『週刊金曜日』の創刊以来の読者でイラク戦争に反対し憲法改正に慎重で慰安婦問題にコミットしている、「人権派弁護士」という言葉から連想される通りの本格的に左翼の人。「人権」に正面から取り組んでいるため、結果として北朝鮮の独裁体制や中共などを厳しく批判することとなった。

逆に言えば、何かというと「人権」をかかげる人が北朝鮮や中国に甘いのは本当に人権に真剣に向き合っているのかどうか。

ただ、著者の人は軍事にアレルギーを持ち過ぎなように思える。イラク戦争が示すように、独裁体制を速やかに、かつ確実に排除し得るのは軍事力を他においてないだろう。この強力な力は味方にし、いかに有効に使うかを考えた方がいい。もちろん軍事力の行使は民間人の犠牲という強い副作用がある。使い方に慎重さが必要なのは確かではあるが。

国民を飢えさせてまで軍備に力をそそぐ北朝鮮の独裁体制。その暴発を押さえ、北朝鮮の災禍が国外に及ぶことを阻止しているのもまた軍事力。朝鮮戦争で韓国の赤化を食い止めた実積がある。

打倒金正日の国際世論が高まったとしても、その圧力を確実にするのもまた、北朝鮮を包囲する各国の軍事力あればこそであろう。

憲法改正に関して、<アメリカの軍事行動に巻き込まれる>などという不安は私には空が降ってくると脅えるようなものではないかと思う。9条がなくなれば自動的に日本はアメリカの尖兵にさせられるわけではない。その時々で日本にとって有利であればアメリカと組んで一戦やることもそれはあるだろうが、そうでない、「理不尽な戦争」(P.180)というのであればアメリカの軍事行動を批判することもあるだろう。護憲派のその主張には独立国家日本の意思の存在を無視している。「軍事力があるから戦争が起きる」という共産主義由来の唯物論の思考パターンの名残であろうか。

北朝鮮を締めつける軍事力を強めるためにも、拉致問題を真剣に考えるなら憲法改正にはいずれ賛成の立場に回ってくれるのではないかと期待される。すでに本書の護憲派への批判はかなり痛烈なものがある。

著者に対する姜尚中氏の反論で一ヵ所おもしろいところがある。

本書では以下のように書いてあり(P.33-34)、

 1960年代以降、ヨーロッパ、とくにドイツが、知識人工作の場として活用されていることが注目される。北朝鮮から工作資金を受けていたことを認めた宋斗律(当時の西ドイツで韓国民主化運動をしていたドイツ国籍をもつ学者で、脱北者黄長菀北朝鮮スパイとして告発した人物。韓国に帰国し、逮捕されたが2004年ベルリン大学での講義を口実に韓国からドイツへ戻る)は、その代表的な人物である。

 ちなみに、姜尚中は、1970年代後半から1980年代前半にかけて西ドイツ(当時)に数年留学し、2004年教鞭をとるためとして、日本を離れ、ドイツに長期にわたり滞在した(前掲『在日』第四章、エピローグ参照)。

姜氏がドイツ滞在中に北朝鮮の工作を受けた可能性を示唆している。

これに対し、<ドイツには行ったけど工作員とは会っていないよ>とは姜氏が決して言わないところ。工作員との接触を著者が証拠を掴んで証明することなど不可能なのだから、嘘でもなんでも「会ってない」と言い張ればいいのに、なぜかそれをしない。<わたしのドイツ時代を知りたいならNHKの番組を見てくれ>とは言うが、時間が限られている番組が姜氏のドイツ滞在中全期間のアリバイ証明などできるわけがない。また、2001年の番組は2004年のドイツ滞在について何も証明できない。

ということは、やはりドイツで工作員と接触したのだろうか。「御用学者」というのはイメージではなく事実なのだろうか。余計なことを言うばかりで肝心なことを否定してくれないから、疑惑は強くなるばかりである。

水島朝穂氏は自身のサイトで本書に反論している。

   だが、私が批判したのは、当時の安倍晋三官房副長官の一面的な手法である。拉致被害者を北に返せなどと主張したものではない。北朝鮮拉致問題については、小泉訪朝の直後に書いた「日朝首脳会談と拉致問題」で私の立場は明確にしている。

  講演のなかで私がいいたかったことは、国家が、引き裂かれた家族について、ある時は冷たく突き放し、ある時は過剰に介入する。中国残留孤児訴訟に関連して、安倍氏の祖父である岸信介首相(当時)が、1959年に「未帰還者に関する特別措置法」をつくって、日米安保条約改定を前に、対米関係を重視して中国とのパイプを切断したことを問題にした。拉致問題についても、北に残された子どもたちと帰国した拉致被害者5人が新たに引き裂かれないようにすることを考えて行った発言である。金正日の「メンツ」という言葉を使ったが、それは私が金正日の側に立って使ったものでないことは、「直言」での私のこれまでの発言からも明らかだろう。

   また、当時の安倍官房副長官について「駄々っ子」という表現を使ったことを、拉致被害者や川人氏の立場を「駄々っ子」といったと非難しているが、あまりにも勝手な読み込みである。北朝鮮の収容所のことを問題にしていないとか、拙著『憲法「私」論』で北朝鮮について十分に触れていないとも非難しているが、拙著は私が訪問した場所を中心に語るという本であり、まだ行ったことのない北朝鮮について書いたものを収録しなかったのは編集上の方針である。

http://www.asaho.com/jpn/bkno/2007/0716.html

「北に残された子どもたちと帰国した拉致被害者5人が新たに引き裂かれないようにすることを考えて行った発言」であるならば、それは次の2通りが考えられる。

水島氏が<北朝鮮にいる家族を呼び寄せよ>と発言した形跡はどこにもない。

したがって前者、「5人を北朝鮮に返せ」というのが水島氏の考えであると推測するのが一番無理がない。

拉致被害者を北に返せなどと主張したものではない」という言葉にまったく説得力がない。