- 作者: 大泉楯
- 出版社/メーカー: 技報堂出版
- 発売日: 2002/02
- メディア: 単行本
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橋の景観設計の教科書。いわゆるデザイナー、工業意匠を専門とする人向けというより、橋を設計する技術者向け。彼らに美的な素養を身につけさせることを意図している。そこには、理にかなった構造そのものが美しさを備えるという現代的な思想がある。
以下気になったところをメモ。
土木構造物の美しさは、環境・機能・構造・感覚4つの視座から利用者に納得してもらう必要があるという。土木構造物の美の構成として(P.26);
- 環境的納得性――周辺環境に調和しているか
- 機能的納得性――便利で,それらしい形をしているか
- 構造的納得性――力学的に明快な形をしているか
- 感覚的納得性――五感に心地いい形をしているか
36ページでは、「橋の美しさの基本は技術美」として以下のように要点をまとめている(数字は丸数字)。
- 美のために安全性・経済性・機能性を犠牲にしない.
- 力の流れと機能を明快に見せる.
- 機能,構造の究極を追求する.
- 健康な骨格美を本領とし,装飾の使用は最小限度に抑える.
- 自然光線による光りと陰の効果を重んじる.
- スケール感,プロポーションを重んじる.
64ページに「設計に臨む望ましい基本姿勢」として以下の10項目を挙げている(数字は丸数字)。
- 設計の基本精神は謙虚さと優しさ
- 美を考える四つの視座――環境・機能・構造・感覚
- 個体美と風景美の意識
- 個体美は技術美――機能・研ぎ澄ました構造・感覚
- 風景美は馴染み――環境・感覚
- ニュートラルで経済的なデザイン
- 上からの発想と積み上げの発想
- 自制のデザインと高揚のデザイン
- 類似の事例調査
- 技術の追求と挑戦
橋の景観設計で意匠の専門家(本書では「彫刻家や建築デザイナー」を挙げている)と技術者がどのように組めば成功するか、その傾向を定性的に次のように記している(P.79)。
うまくいく場合は人材に恵まれたケースで,構造的センスをもったデザイナーか美的センスに恵まれたエンジニアのどちらかが加わった場合です.
優れたデザイナーは構造物を意識してエンジニアの意見を聞こうとしますし,優れたエンジニアは力学や経済性に根ざしたデザイン観を主張します.
うまなくいかない場合というのはその逆で,構造を理解しようとせず自分のデザインを押しつけようとするデザイナーと,単なる計算屋のようなエンジニアが組み合わされた場合です.この場合,エンジニアはデザイナーに振りまわされ,デザイナーのやりたい放題の要求に奉仕する役割しか果たせません.おまけに,今日の構造技術は解析面・材料面・施工面において非常に優秀で,力学的不安定系でない限り,それが技術的にあるいは経済的に望ましくない無謀な形態であっても,デザイナーの要求を可能にしてしまいます.
今の技術では「無謀な形態」でもモノが出来上がってしまうというのは確かに怖い。下手なデザインでも構造物ができてしまいそれがその後ずっと残ることになる。デザイナーも技術者もいいものを残すように気をつけなければいけない。デザイナーは構造の素養を、技術者は美の素養を身につけるべきという主張は分かり易く説得力がある。
最後に、私がこれは美しい、と思った橋を一つ紹介。大分県の歩道橋、イナコスの橋。
http://www.jsce.or.jp/committee/lsd/prize/2005/works/2005n3.html