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もっと長い橋、もっと丈夫なビル

もっと長い橋、もっと丈夫なビル―未知の領域に挑んだ技術者たちの物語 (朝日選書)

もっと長い橋、もっと丈夫なビル―未知の領域に挑んだ技術者たちの物語 (朝日選書)

ヘンリー・ペトロスキー氏が『アメリカン・サイエンティスト』誌で連載していたエッセイをまとめた本。長大橋、高層ビル、ダムなど土木・建築について主に書かれてあり邦題が内容をよく表している。

『橋はなぜ落ちたのか』(http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20090324/p1)と同じく朝日新聞社から出ているが、訳者が変わっていて読み易くなっている。しかし、『橋は〜』に比べて写真や図が少なく、アラミージョ橋あたりなら知ってるからいいようなものの、多くの橋や建物は名前だけ出されてもイメージできなくて戸惑うことが多かった。

和訳が2006年出版で、原書が書かれたのも最近のため、高層ビルの話としてWTCのことも出ている。テロにより破壊されたビルとして。

218〜219ページ。

 鋼鉄のビルには耐火性があるものと考えられているし、世界貿易センタービルもそう思われていた。しかし「耐火性」というのは誤解を招く言葉で、一定の時間の間、鋼鉄に火の熱が及ばないように断熱するということにすぎない。ただし、その時間は、完全に鎮火しないにしても、火災を制圧できたと言えるほどまでは十分とれるようにされている。残念ながら、水などの従来の消火手段は燃えるジェット燃料にはほとんど効果がない。実際は、燃料はすぐに燃え尽きてしまって、それによって火がついたオフィスの調度や置いてあった製品が燃え続けていたと考えられている。その火を相手にする水は、衝突の後、使えなかった。それで火は衰えずに燃え続けていた。構造本体の鋼鉄製の梁や柱の一部は、融点を超えなくてもそこに近いところまで熱せられていたものと推測されている。

 鋼鉄は高温に長くさらされると、融けないまでも膨張し柔らかくなり、たわんだり曲がったり、亀裂が入ったりする。強烈な熱はコンクリートの床にも影響し、もはや衝突前のきちんとした構造によって適切に支えられていない状態では、ひびが入り、砕け、ぼろぼろになって、構造の各部分の協調的な作用を損なう。ずれない床による安定させる作用がなくなってしまえば、まだ無傷の鋼鉄の柱も建物上部の負荷にだんだん耐えられなくなる。局所的に損傷を受けて柔らかくなった構造が上にある部分の重さに耐えられなくなると、下の階に向かって崩れていく。ビルの上層階からの力が下層階に伝わっていき、鋼鉄の柱がそれ自体を伝った熱である程度柔らかくなっていくと、「パンケーキ・クラッシュ」と呼ばれる連鎖反応が起こってすべてが次々と崩れ落ちていく〔一度ふくらんだパンケーキがぺしゃんとしぼむときのようなときのような崩れ方なのでこのように言われる〕。後から衝撃を受けたタワーの方が先に崩壊したのは、飛行機が当たった場所が低く、損傷部から上の重さが大きかったせいもある(タワーの上の方にある部分が崩れると、その重みで下の階も崩れるという現象は、本を積み重ねて置くだけなら耐えられる小さな台でも、その上の本の塊を高いところから落とせばつぶれてしまうのと同じ理由で生じる)。

WTCの崩壊は、細部では確かに分からないこともあるであろうが、大筋としては、このようなストーリーが受け入れられていて別段謎というのはない。また、WTC陰謀論者が言う「鉄骨は耐火性がある」という部分への反論になっている。純粋水爆とか小型水爆の出番はまったくない。