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水の健康学

水の健康学 (新潮選書)

水の健康学 (新潮選書)

藤田紘一郎先生は寄生虫学が専門で、『笑うカイチュウ』、『体にいい寄生虫』など面白い本を書いている。

これらの本は面白いのだけど、「寄生虫感染がアレルギーを防ぐ」、「寄生虫撲滅がアレルギー症が増えた原因」といった仮説は現在否定されつつある。そして、藤田先生の様子を見るとちょっとおかしい。検証されていないにもかかわらず寄生虫仮説をとり下げていない。そして、よく見ると血液型と性格に関係があるという本だとか、水と健康に関する本だとかを書いている。googleで「藤田紘一郎」と打ち込むと最初の候補に「藤田紘一郎 トンデモ」というのが出てくるという状況だ。

それでこの本。学者が書いた水と健康の啓蒙書、と思って信頼しない方がいい。

端的に本書のスタンスを言ってしまえば、アルカリイオン水は肯定してπウォーターは否定している本。完全に狂ってはいないけれど、まともとも言いがたい。まともなことも言っているがおかしいところはおかしい、というあたりの立ち位置。

アルカリイオン水は「いくつかの病気に効果」(P.112)とし、πウォーターは「ただの水にすぎなかったのだろうか」(P.120)と書いている。

また、クラスターの大きさと水の味や体への影響との関係ははっきりとは言えないとしながらも、雪溶け水には生き物を活性化させる作用があるとか、水を飲んで病気を治したり予防したりできるということは主張している本でもある。

水に関する悪徳商法では、クラスターの小さい水が体にいい、この浄水器クラスターを小さくする、という主張がされることがあるようだが、本書では、「おいしくて、健康にいい水は、むしろクラスターが大きいということが分かった」(P.80)と逆のことを言っている。また、クラスターの話の最後に、「私たちの研究では明確な答えを出すことはできなかった」(P.81)と正直なところを書いている。

クラスターが小さいのがいいとばかり主張するような「水商売」の一派とは、距離を置いているということではある。

しかし、アルカリイオン水はかなりべた褒めしていて、これは警戒したくなる。

「高血圧、アトピー、ぼけが治る、ガンに効果がある、現代人に不足しているカルシウムイオンを補って体質を改善する」(P.113)といった宣伝は薬事法にひっかかるとしながらも(P.113)、「「慢性下痢、消火不良、胃腸内異常発酵、胃酸過多」に有効なばかりでなく、便秘の改善も顕著だ」(P.113-114)、と、厚生省も認める胃腸への効果は確かにあるとしている。

また、脂肪代謝を高める、血圧の上昇を抑える、マウスが100日長く生きる、骨粗しょう症に効果があった、といった研究結果を、無批判で紹介している。

この件で一番問題がある箇所はここ(P.116-117)。

 アルカリイオン水が人のからだにいいことは、理論的にも納得のいく話なのである。人間の体はpH七・四の弱アルカリ性に保たれている。体液や血液、唾液などが弱アルカリ性に保たれていると、新陳代謝も活発で、内蔵に負担がかからなくなる。体内を弱アルカリ性に保つことが健康を維持するための基本なのである。

人の体液のpHは厳密にコントロールされているので、アルカリ性の水や食品をとったからといって、ただちに変わるというものではない。<体はアルカリ性だからアルカリ性の水を飲みましょう>というのは学者の発言とは思えない単純で不合理な主張だ。

「体液や血液、唾液などが弱アルカリ性に保たれていると、新陳代謝も活発で、内蔵に負担がかからなくなる」のくだりも、科学的な定説とは思えない言い回しで、学者の言葉とは思えない。