- 作者: あかほりさとる,天野由貴
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/05/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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長時間にわたると思われるインタビューや酒の席にことごとくつきあって、しかもそのときあかほり氏が話した内容を、たった2時間で読める分かりやすい本に仕上げたライターの天野由貴氏の仕事は高く評価したい。
オタク系コンテンツのクリエーターというのは、その消費者として、やはりちょっとした憧れがある。どうすれば一消費者からクリエーターの側になれるのか。さらにいって、そこで一儲けできるのか。
本書ではそのノウハウがいくつも書かれている。
才能がないことが分かっていたので他で努力した
29ページ。
どうやらあかほりは、常にスタンドプレーで生き残ってきたようだ。しゃべりや発想で生き残る。密教ではなくインド神話でコンペを勝ち抜く。なんだよ、それってちょっとズルイんじゃないの? ウブな私などは、ついそんなふうに思いたくなってしまう。
「でも、川崎(ヒロユキ)みたいのが業界に一〇人いたら、俺なんか生き残れないんだから。普通のことしたってダメなんだよ。そこに気づけないヤツが、業界から消えていく。これ、すごく大事なことだから。このことに気づいたヤツだけが、どこの世界でも生き残るんであって……」
53ページ。
しかし、「自分は業界で一番の才能を持っていない」と考えるあかほりは、足りない部分を補うために積極的に動き回った。生き残りたいがために、実に積極的に。このへんの執着って、実は誰よりもオタク的なんじゃないだろうか。
確かに、自分には才能があると思って努力しないより、才能はないと思って努力するようにした方が、成金になるチャンスは多そうだ。普通、才能がある確率はない確率より極端に低い。
もっとも、「努力する才能」って、あると思う。本当の才能は、楽して傑作が書ける才能ではなく、才能がないと自覚して努力を怠らない才能なんじゃないかと思ってみたり。
書きたいものは売れてから書けばいいと思いまず売れるものを書いた
47ページ。
でもその前に……俺さ、とにかくまず名前を売ろうと思ったんだよ。理由は、早く世に出たかったから。ビッグになりたかったから。
48ページ。
だって無名の自分がオリジナルを持ちこんで、それが出版されたとしても、その作品が当たるか当たらないかっていったら、当たらない率のほうが高いんだぜ。だって無名なんだから。新人の頃なんて、何かでっかい賞でも取れば別だけど、そうじゃなきゃ出版社は宣伝なんかしてくれないぜ?
だったら、少なくともアニメになっていて、認知度のあるもののノベライゼーションから入ろうと。だから、名前を売るためのひとつの手法として、まずはアニメのノベライゼーションをすることにして」
一方、編集者から、もっと本が売れるよう、「いつもと違ったものを書いては」と言われて激怒した作家の人がいる。結局その先生は、売ることを第一としては自分の作家性が損なわれると考え、本を売って儲けるよりも、儲からなくとも書きたいものを書くことを決心した。この先生が成金になったかどうかは分からないが、結局ここ何年も本を出版できていないようである。
大事にすべきなのは「叱ってくれる人」
150ページ。
自分のことをちゃんと叱ってくれる人間って貴重なんだからさ。奢れる者は久しからずで、業界にいればいつかは底辺に落ちることもあるんだから。そのときは自分の力ではホントにどうにもならない。自分では冷静に自分を見つめ直すことができないからね。何が悪くて墜ちたのかわからないから。
でも、そんなときに助けてくれるのが、叱ってくれる人。だから、怖くて口うるさい編集さんがいるなら、ホントはそういう人と付き合ったほうがいいんだよ。
これは出版に限らず、もっと普遍性のある教訓ではなかろうか。
少なくとも、原稿に細々と注文をつけてくる編集者を、「読めてない」とかいって罵倒してはいけないだろう。
ワンアイデアにしがみつくな
170ページ。
アイデアはいいけど、作品は面白くないってよくあることだけど。やっぱ作品って、キャラであり、二番手にくるストーリーがしっかりしてなきゃ面白くないのよ。つまりアイデアなんてその程度なんだよ。だから、アイデアなんていくらでも出さなきゃいけねぇんだよな。
なのに、なんで彼らがそんなにひとつのアイデアを大事にするかっていうと、ワンアイデアあれば、それでみんな一生食えると思っちゃってるんだよ。それは大きな間違いだから。みんな『シックス・センス』で一生食いつなぐつもりらしいけど、そんなの無理に決まってるじゃねえか!」
素人としては、自分のアイデアはなんかものすごいもののような気がして、ワンアイデアに固執しがちだが、面白い作品を作るキモは違うところにありそうだ。
主なものをピックアップするとこんなところ。他にも「これは参考になる」ということがいくつもあった。
一方、176ページ、ライトノベルでは3万部のヒットを飛ばしても年収600万、これじゃサラリーマンの方がいい、という話は、私のクリエイターへの漠たる憧れを粉砕してくれた。そんなに厳しい世界じゃ、確かに余程好きな人間じゃないとやっていけない。そもそもヒットを飛ばす才能がありえない。
好きな人しか集まらないのではラノベの世界は先細りだという危機感ももっともだと思う。ラノベ業界はなんとかいまの状態からの突破口を見つけて、40代のおっさんでも読みたいと思う作品を頻発するようになってほしい。『七姫物語』みたいに、これはシリーズ全部読みたい、という本にまた会いたい。