なぜうつ病の人が増えたのか

なぜうつ病の人が増えたのか (幻冬舎ルネッサンス新書)

なぜうつ病の人が増えたのか (幻冬舎ルネッサンス新書)

ここ10年でうつ病の診断を受け、治療を受ける人が増えている。

2005年に自分が診断を受けたときも心療内科の待合室は人でいっぱいだったが、その後さらに人が増え、2007年あたりから一ヶ月先の受診予約もできなくなった。私が行っているところは午後の診察が整理券配布による順番制なので、今はもっぱら午後受診している。

なぜうつ病の人が増えたのかを、新薬の認可とその後の製薬会社の販売促進に端を発する、「SSRI現象」という独特の切り口で解明してみせたのが本書。

これを受けて「薬を売るには病気を作れ」ということか! と憤る人もいるが、本書ではそこまで製薬会社やそこから便宜を得ている医師を責めるような論調にはなっていない。

むしろ、受診の機会を逃していた比較的軽症の「うつ」の人が、医療の支援を得られる機会が増えたのは悪いことではない、と著者は考えているような印象を受ける。それでも受診しないほどの軽い「うつ」の人は3ヶ月ほどで自然治癒するというので、どんなに軽くても「うつ」なら受診すべき、とは主張していないが。

著者はむしろ、SSRI現象でうつ病の「入り口」が増えたのに対し、復職支援などの「出口」が充実していないと指摘している。本書の最終章はその「出口」に関する論考に当てられている。

SSRI現象の問題を指摘していないわけではない。

まず問題にされているのが、抗うつ薬の効果。

「薬がうつ病に効く」ということが判明し、薬物療法が始まったのは、うつ病で治療を受けている人が入院を必要とするような重症の人が主流だった頃のこと。

が、比較的重症なケース(HRDS平均25点程度)に対して、抗うつ薬の効果が検証されており、プラセボとの差が実はあまりないという。イフェクトサイズで0.32という数値が出されている。「効果がある」とはっきり言える値は0.8程度とのこと。

最近増えてきた軽症の患者に対しては、抗うつ薬の効果はさらに低いのではないのか、と本書では書かれている。参考として、イギリスでは軽症の患者に最初に出す薬として「勧められない」とされている事例を示している。

また、革新的新薬と謳われたSSRISNRIだが、従来の三環系抗うつ薬(TCA)に対して効果が高いとは言えないという。副作用が少ないという点についても、比較対象が副作用の強いアミトリプチリンであり、アモキサンなど副作用の改善されたTCAとの違いは不明とのこと。

個人的な経験からも、抗うつ薬は服用して「効いた」という実感はない。三環系、四環系、SNRIドグマチールのいずれも飲んでみての感想。SSRIは未体験だし、さほど大量に処方されたこともないのだが。

なお、副作用は、三環系のアモキサンが一番きつく、便秘に悩んだ。SNRIトレドミンはさほどの副作用は感じず、少々便秘気味になっただけだった。

SSRI現象のもたらしたものとして、「非定型うつ病」の増加も指摘している。「うつ」で病院を訪れる人が増えた結果、「憂鬱」という現象だけが共通で、従来型のうつ病とは違ったものが「うつ病」と診断されるようになってきている。これに対し著者はDSM-IVの記述の問題点を指摘しているが、「新型うつ病」そのものに対する詳しい論考はとくにされていない。それらは最近は他の人が多く本を書いている。

抗うつ薬の効果と絡めて、「うつ病が治る」とはどういうことか、精神科医の視点がどのようなものか書かれている(P.144)。

なお、ここでの”回復”の定義は、「抑うつ、不眠といったうつ病の症状がほとんどなくなった状態」というレベルである。「病前と同じように仕事ができる」といった社会機能までは評価していない。

医師の言う「うつ病は治る」、「たいてい三ヶ月〜六ヶ月でよくなる」といった場合の「治る」はこういう意味だと捉えたほうがいいようだ。当然、「症状がほとんどなくなった状態」は服薬を続けている上でのこと。

うつ病の診断を受けて休職となった場合、「三ヶ月も休めばまた元に戻れる!」、という期待はしない方がいい。

服薬の必要がなくなるのは何年もかかることが珍しくない。

上で本書で抗うつ薬の効果が否定的に書かれていることを紹介したが、抗うつ薬が再発を防止する効果があるらしいことは否定していない。抗うつ薬が長く処方されることはやむを得ないことのようだ。

そして、仕事に復帰しても、病気にかかる前と同じペースで仕事をすると再発する可能性が高いということは、自分の経験からも、かなり確かなこと。うつ病を患った場合、復職するにも、仕事のやり方はどうしても見直しをした方がよい。

最後に、著者の暖かいメッセージを紹介したい(P.261-262)。

 うつ病で休職したことで今後の会社でのキャリアを過剰に心配する人もいるが、一度メンタル休職したぐらいなら全く問題ない、というのが実感である。職場は、うつ病の既往があろうがなかろうが、コミュニケーションがある程度できて、誠実に仕事をする社員を重宝する。うつ病がキャリアに及ぼす影響を心配するよりも、何でもよいから仕事に面白みを見出して、目の前の仕事に取り組んだ方がよいと思う。

休職を何度もしている自分も同じ会社の同じ部署でまだ仕事をさせてもらっているので、一度休職の診断書をもらったぐらいでは仕事のことをあれこれ心配しないで、とにかく安心して休むことに専念した方がよいと思う。

ただし、よほどのパワハラなどが仕事の原因としてあるようであれば、そういうのは正直に職場のしかるべきところに話して改善を図った方がいいだろう。