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うつと気分障害

うつと気分障害 (幻冬舎新書)

うつと気分障害 (幻冬舎新書)

ネットの評判がいいので読んでみた。これは濃い。

うつ病および気分障害の全体像とその分類。うつ病の原因に関する簡潔ながら比較的新しい知見の紹介。そして気分障害を克服するための助言などが書かれている。新書一冊ながらかなり読み応えがあった。

双極性障害が意外に多い

双極性II型障害の生涯発生率が5〜11%という調査結果が紹介されている。従来は1%弱と言われていた。「きわめて身近な疾患ということになる」と書かれており(P.28)、「ソフトバイポーラー」という言葉も後で紹介されている。

双極性障害は、単極性のうつ病と異なり、抗うつ薬のみを処方するのはよくない。気分安定化薬などの処方が必要で、うつ病とは治療方針を変えないとまずいことになる。うつ期については抗うつ薬を処方してよいかどうか議論があるという。

うつ病の回復と治療

誰かに指摘されるまでもなく、うつ病は薬だけで完治は望めない。それは医師もよく分かっていて、190ページからのうつ病治療の節は、真っ先に「焦らず、十分な休養をとること」とある。

192ページから薬物療法だが、いきなり「三分の一は、回復に手間取る」とのこと。薬が効いて良好に症状が改善されるのは全体の三分の二だという。

抗うつ薬は重症の患者に対しては有意に効果があるが、それでも劇的な効果のある薬ではない。そして軽症の患者には効果があまりないことが分かってきている。

そこで「抗うつ薬でうつは治らないんだぁ!!1!」と短絡するのは素人。専門家は着眼点が違う(P.194)。

 また、ことに軽症例では、プラセボでも抗うつ薬に匹敵する改善効果が得られるということは、心理的なファクターの重要性を間接的に示しており、うつ病の治療に関しては、心理社会的なケアが重要と言えるだろう。

薬に重点を置いた治療は急性期の症状が重いときで、症状が改善して軽症になってきたら、脳の病気(これは恐らく間違いないが)というより、心の病気として、治療のアプローチを見直す方がよいのかもしれない。

少なくとも、抗うつ薬は効果がないとか副作用が危険とかやたらと不安を煽り、医師と患者の信頼関係を傷つけるような言説は、うつ病の人にとって有益ではなかろう。そういう人はうつ病の人の回復より自著や代替医療の売り上げでを優先していて、「うつ」を食い物にしていると非難されてもしかたがない。

この本ではそういう人たちとは違い、現代医療を否定することなく、薬の種類や上手な使い方についてこの後色々書かれている。

うつを防ぐ採集狩猟民の食生活

231ページからのこの項は見出しがどうかと思う。

採集狩猟民にうつ病が少ないとして、ライフスタイルや社会と労働のあり方など、現代の文明生活と違うことが多すぎる。食生活の違いなどもはやささいなことだろう。また、採集狩猟生活は十分な食事が確保できるか怪しいので手放しで礼賛するのはどうかと思う。

とはいえ、採集狩猟民のように、肉食を忌避せず野菜も沢山とる食事がいいという。

その食生活で豊富に取れるオメガ3脂肪酸「うつ」にいいという研究成果があるという話と、食のアドバイスが書かれている。なぜ脂肪酸かというと、脳の材料は脂肪だから。そのうちオメガ3脂肪酸は体内で合成できない。

オメガ3脂肪酸はサプリで取るのもいいのでは、とあるが、サプリの販促本ではないので、この本に書かれている配合の商品(EPA:DHA=2:1)は探したがちょっと見つからなかった。

試しにDHAを主成分とするサプリを買ってみたが、2週間調子がよかったものの先週調子を崩して1週間休んでしまった。まあ、「あれを食べればいい」というたぐいの情報の確度はこの程度ということだろう。もともと成分が違うし、たとえ科学的なデータがあっても各個人に効くかどうかは確率の問題で絶対ではない。そもそもDHAサプリは魚が嫌いな人向けらしい。普通に魚は食えるので自分には不要だった。

運動には抗うつ効果がある

234ページから運動の話。

 週に三日、三十分歩くだけで、抗うつ薬を投与されるのに匹敵する改善効果があるだけでなく、抗うつ薬を投与されたケースよりも、再発する率が三分の一と少なかったという報告もある。週に三日運動することができるケースは軽症であろうから、それが運動の効果か、軽症のケースが選別された効果かは、判定が難しいが、運動がうつの改善に役立つことは、多くの研究が裏づけつつある。<略>

どれだけ効果が低いのかと>抗うつ薬

それはそうと、自分の経験からも、30分程度歩くのを習慣にしていると、調子がいいときが多いような気がする。一方、調子が悪いときも無理に外出して回復を遅らせているケースがあるかもしれないので、いちがいに「運動がいい!」とは言えないが。歩いて疲労感が強かったり頭が重ければ休むべきで、気分がよければもっと歩く、そんな感じでいいのかもしれない。

おわりに

うつ病生活習慣病としての側面があるというのが本書の認識(P.256)。

<略>気分障害は、生活習慣やライフスタイルの問題、考え方の偏りに起因する面もあるということを、本書から汲み取っていただき、今後の生活に生かして貰えればと思う。

双極性障害は遺伝的な要因も少なくないとは言うが、発病後の症状の改善のためには、やはり「生活習慣やライフスタイル」、「考え方の偏り」に気を使うことが必要なのだろうと思う。もちろん服薬も重要。

ストレスで罹患したうつ病は、なおさら上記をよく考えないといけない。ストレスコントロールに留意する必要があり、認知のあり方を改善して刺激が何でもストレスになる傾向を改めるのも重要。

うつ病はたとえ寛解しても、再発しないことは誰にも保証できない。「うつ」になりやすい自分と上手に付き合ってゆくことが大切だと実感している。