ありえない!?生物進化論

ものすごく面白かったのだけど、ネットで全然話題になっていないので、わりと前に読んだのだが、あえて今書評を書く。

進化の各論より、本書の肝は、生物の系統進化をどのように考えるのが正しいか、という方法論。そこがまず面白い。詳しくはぜひ本そのものを読んで欲しい。

で、以下各論。

クジラ偶蹄目

この本で初めて知ったのだが、クジラの祖先はカバと共通らしい。したがってクジラというのは偶蹄目ということになる。なるほどと思ってwikipediaを見に行ったら、既に偶蹄目の上位に「鯨偶蹄目」という項目ができていた。

wikipedia:鯨偶蹄目

鳥の祖先は恐竜

これ自体は今は定説だが、かつては「樹上説」、樹上生活をする小型爬虫類が鳥に進化してゆく途中で、分岐して地上に降りた系統が恐竜になったという説が出されたことがある。

90年代になっても、オルシェフスキー氏のBCF(Bird Comes First)仮説というのが一時期面白いと紹介されたりしていた(この本ではこの仮説そのもには触れていない)。

wikipedia:ダイノバード

この本は、鳥は地上を歩く恐竜から進化した、という「地上説」の立場をとる。

まず、鳥に進化する以前から、恐竜には羽毛があり、そして翼もあったという。117ページの図などによると、現代のイワシャコのヒナが「翼を運動の補助として使」うことあたりが、羽ばたきの原型ではないか、これが後に飛ぶ機能の獲得に至ったのではないかとしている。「斜面登坂仮説」というとのこと。

節足動物の進化

節足動物の進化を調べてゆくと、いわゆるバージェスモンスターの、アユシュアイアとかアノマロカリスとかも、その進化の歴史の流れの中に並べることができるという。

ワンダフルライフ』でグールド氏が奇天烈動物とか言って分類不能とした生物も、今や収まる場所が定まりつつある。

面白いのは、節足動物がどこかの段階で、頭の部分がぐいっと下に折れ曲がり、そうして甲殻類などの頭部が形成されたのではないかという推測。カブトエビにはその名残らしきものが見られるという。この仮説を立てると、アノマロカリスの頭の前にあった触手がどこにいったかということが説明でき、節足動物の系統に乗ってくる根拠がひとつ増える。それでほかのバージェスモンスターもこの系統に加えられるという。

恐竜絶滅論争

「論争」というほどでもないか。

恐竜の絶滅に関しては、北村雄一氏は隕石説を支持する立場。

それを説明しているのが第3章なのだが、読んでいくと、どうも特定のある人のとなえる説を意識しているような気がしてならない。

それは金子隆一氏。著書も多く、アニメ『エレメントハンター』でSF設定をやった人。

金子氏は、『大絶滅』他いくつかの本で、恐竜の絶滅について、デカン高原に噴出したマントル・プリュームによる環境悪化という説を強く推している。隕石落下は事実だが、それは、衰退しつつあった恐竜に最後のとどめをさしただけではないかという。

これに対し、北村氏は140ページで、

いまではほとんどの研究者たちがこの仮説を受け入れている。受け入れていない人はごくわずかだ。

とジャブをかましている。

本書の後の2010年3月にも、複数の研究者の共同作業で、隕石説はやはり正しいらしいということが確認されニュースになった。

http://www.yamaguchi.net/archives/006910.html

137ページでは、マントル・プリュームがもたらす火山活動の説をきっぱり否定。

 火山活動とそれによる気候変動は、しばしば生物を滅ぼすと考えられてきた。だが、火山が地球の生物を皆殺しにしたと思われる事変はこれより以前、ペルム紀末期の大量絶滅しかない。火山活動が絶滅を引き起こすのには、多くの場合インパクトが不足しているらしい。なぜだろう? 規模が足りないということもあるが、いちばんの問題は時間がかかることだ。火山活動は数十万年、あるいは100万年といった長期間にわたって、しかも断続的に続く現象だが、これだけの時間があれば、生物は棲む場所を変えたり、さらには気候変化に適応して進化することができる。こんな長い時間におよぶ変動など、生物にとって恐るるに足りない。<略>

100万年もあれば、アフリカのマイナーなサルの一種が、地球全土を覆うほどに大繁栄し、環境に影響するほどの進化をすることができる。火山活動のタイムスケールなら、よほど最悪でもないかぎり、生物は「進化」で乗り切れるというというのはなかなか説得力がある。

地質年代は生物相の変化で区切りをつけられる。大きい区切りは大量絶滅にともなうものとされる。しかし、マイナーな区切りは、環境の緩やかな変化に生物が進化で対応した結果なのかもしれない。そこにも多数の絶滅があったはずだが、それは個々の種で時期が一致せず、生物が一斉に少なくなる「大量絶滅」はなかったかもしれない。

そして後になってこんな援軍も(前述のリンクより)。

一方、火山噴火は約100万年にわたったものの、環境に与えた変化は小さく、火山活動が最も活発だった時期には大量絶滅が起きていないことなどから、絶滅を説明できないとして退けた。また複数の天体衝突説も、白亜紀末を含む1000万年間のイリジウム濃集度を調べた研究から、この間の巨大天体衝突はチチュルブのみだったと結論した。

http://www.yamaguchi.net/archives/006910.html

恐竜が白亜紀末に向かって衰退していったのではないか、という説には、「シニョール・リップス効果」というのを挙げて反論している。

シニョール・リップス効果とは、私もまだあまりよく理解できていないが、ランダムに起きる事象が突然中断されたとき、頻度の少ない事象は、中断時点より前に発生確率が低くなるように錯覚される、ということのようだ。

見かけ上、発見される頻度が少なくなってゆくように見える恐竜化石も、実は白亜紀末まで本当の確率は減っていなかったのではないか、という。

これを検証するには、同時期の数が多い化石を調べればいい。で、アンモナイトの化石は、白亜紀末、KT境界層のすぐ下まで繁栄していた事が分かった。植物の化石を調べても、白亜紀末まで森が豊かであったことが分かるという。

恐竜も、「北アメリカにある地層を調べると、そこからたくさんの恐竜や爬虫類の化石が見つかったのである」(P.146)とのことで、白亜紀末までに徐々に衰退していいったというのは否定できるようだ。

そして、白亜紀の豊かな生物相は、KT境界層を境に激変してしまう。

これらから、この本による隕石説の解説はかなり説得力があると感じた。

マントル・プリューム説は不利になってきた。果たしてこの状況を逆転できるだろうか。