Great Spangled Weblog

コメントははてなにログインすると可能になります(SPAM対策です)

大量絶滅がもたらす進化

大量絶滅がもたらす進化 (サイエンス・アイ新書)

大量絶滅がもたらす進化 (サイエンス・アイ新書)

進化のメカニズムを人類はまだほとんど知らない

筆頭著者は金子隆一氏だが、第1章は望獲つきよ氏が執筆している。

1〜2章は非常に面白い。遺伝子と進化の研究について新しいことが書いてあり、この手の本を読むのは久しぶりなので興奮した。とくにここが印象に残った(P.70)。

<略>2003年にはヒトゲノムの99.99%が解読されてしまった。しかしそれは、たんにわれわれがゲノムというものについて、いかになにも知らなかったかを思い知らせる結果となった。

進化について、遺伝子からのミクロなアプローチも、「突然変異と自然選択」というダーウィンの進化論からのアプローチも、いずれも未だ謎を解き明かすには至っていない。「自然選択」にしても、本当にそれだけで進化を説明できるのか分からないという。

「自然選択」が理屈として正しそうに見えて、でもやはり他にプラスαがありそうな気がする事例としては、「擬態」が挙げられると思う。コノハチョウの見事に枯葉そっくりの翅など、それが偶発的な突然変異と自然選択だけで完成されたとはにわかに信じ難い。ある程度色や質感が枯葉に似ていればカモフラージュには十分のはずなのに、形があそこまで葉っぱそっくりになる必要があるのか。虫食い跡の有無なんて、生存競争に決定的な違いをもたらすほどの淘汰圧になるのだろうか。

ただ、マクロに見ると以下は確かなようだ。

大量絶滅などにより生態系が一掃されると、地質学的に見て長くない時間で生物は進化し、適応放散をとげて各々の生態的地位を埋め、いつしか新しい生態系を作り上げる。そして、環境が激変しないかぎり、生物相はほとんど変化しない。

生きた化石」と呼ばれる生き物も、その生物が生息するところに限って環境が安定しているからこそ、姿を変えずに今日まで生きてこられたという(たとえばシーラカンスが棲む深海など)。「生物は環境と遺伝子の合作である」(P.170)。

恐竜絶滅論争

恐竜の絶滅に関しては、新しい展開があるかと思って期待して読んでみたが、さほど目新しいことはなかった。

この本は2010年2月25日発行で、前に金子氏が書いた『大絶滅』から10年以上過ぎている。

が、白亜紀末の恐竜絶滅については、金子氏の見解はまったくぶれていない。デカントラップを形成したマントル・プリュームによる、大規模な火山活動がもたらした環境悪化が主原因であり、隕石は最後のとどめに過ぎないという。

間が悪いことに、この本が出たすぐ後に、複数の研究者が共同で、隕石説が正しいらしいという発表を行っているのだが…。

http://www.yamaguchi.net/archives/006910.html

これ以前にも、北村雄一氏が『ありえない!?生物進化論』という本で、マントル・プリューム説(または火山説)に逐一反論し、隕石説の確からしさを説明している。

しかし、本書は北村氏の本を参照していないため、それを無視する形で議論を展開している。かつて共同で本を出した仲であるし、同じサイエンズ・アイ新書であるのに、これは残念に思った。論争勃発かと思ったのにしょんぼり。

まず、白亜紀末に向かって恐竜が衰退しつつあったという話が164ページから出ている。

 しかし、恐竜の絶滅の実態は、これとは大きくかけ離れている。恐竜は、白亜紀後期カンパニア期にその発展のピークを迎え、科、属の多様性において、空前の繁栄を見せていた。カナダでは、カンパニア期後期の同じ地層から30属以上の恐竜が発見されており、これは恐竜の全歴史を通じて最高記録である。しかし、これ以降恐竜はその多様性においても個体数においても漸減傾向に移り、マーストリヒト期後期の最後の200万年には、北米で発見される恐竜は全部で7属にまで減ってしまう。さらに、白亜紀末の30万年で個体数も急減し、そのまま絶滅に至る。

しかしこれは、「シニョール・リップス効果」による見かけ上の現象ではないかと北村雄一氏は先に挙げた本で説明している。この効果は化石が少ない生物で起きやすいというが、金子氏自身も本書の94ページで恐竜の化石は数が少ないと書いている。

北村氏は同時期の数が多い化石としてアンモナイトや植物を挙げ、白亜紀末までそれらが衰退していないことを説明し、恐竜も北米で白亜紀末でも多数の化石が発見されたと書いている。

金子氏はアンモナイトや植物の化石について言及していない。数が少ない恐竜化石だけで200万年とかの時間スパンの環境悪化や恐竜の衰退を導くのは、根拠が弱いと思う。

次に、隕石説を否定する根拠の一つに、新生代に入っても生き延びた恐竜がいたことを書いている(P.164-166)。

 さらにいえば、これは北米の話であり、世界のほかの場所ではこれと異なった絶滅パターンが見られる。南フランスでは、新生代暁新世に入ってから200万年後の地層からも、ティタノサウルス類のカミナリ竜ヒプセロサウルスの化石や卵の入った巣が発見されており、一部の恐竜はK-T境界層を越えて生き延びたらしい。

これは本書で知った新事実。ネットで検索しても同様の話が見つかる。

しかし、話をややこしくしているのはこの最期の恐竜達の化石がK/T境界線をこえた新生代:暁新世からも見つかるのだ。これは白亜紀の化石が新生代の地層に紛れ込んだだけだという反論があるが、実はヨーロッパではK/T境界線から200万年後の6300万年の新生代:暁新世の地層から竜脚類:ヒプセロサウルスの骨と卵化石が見つかったという。このほか中国広東省の南雄(ナンシュン)盆地でも同じように暁新世の化石が見つかっているという。

つまり、K/T境界線を乗り越えて生き残った恐竜がいるようなのである。

このことは仮に隕石衝突があったとしても、その影響は我々が考えるほどたいしたものではなく、恐竜を絶滅させるようなものではなかったのではないかと言うことを示している。

つまり恐竜を滅ぼしたのは隕石衝突による天変地異ではなく、地球の環境を徐々に悪化させた何か、もっとも有力な説として火山の爆発による環境悪化ではないかと言うことになるのである。

結局、新生代まで生き残った恐竜も絶滅への道を引き返すことができなかったというわけである。

http://www5f.biglobe.ne.jp/~takaki1/TEREX/jpdino/jpdino006.htm

恐らく、鳥は、隕石衝突後も、空を飛んで環境のいい場所に逃げることで、絶滅を免れたのだと思う。なので、最初から環境悪化のひどくなかった場所にいた恐竜は、絶滅しないで済んだのかもしれない。それでも、新生代に入って程なく絶滅したわけだが。

また、新生代の恐竜の卵についてはこのような反論がある。

 それでは本文のほうのツッコミを。まず「新生代に恐竜は存在した!」。初出は2009年8月号。これは、以前からよく言われていたことで、局地的に残存していたということは、可能性としてはあり得るとは思います。この記事がムー的でないのは、新生代に恐竜が生きていたからといって、恐竜が現代まで生き残っているということではないと切り捨てていること。これってムーの存在価値を否定していないかい。

 恐竜が新生代まで生きていたという傍証に挙げられているヒプセロサウルスの卵だけど、これはヒプセロサウルスのものと確証されているものではないです。ヒプセロサウルスの卵に限らず、卵の親が確定しているものは、ごく僅かです。孵化直前のものなら、胚(胎児)の骨格が残るケースもあるでしょうが、そうでなければ、卵の中味は黄身と白身ですから、なにも分かりません。それでは、なぜヒプセロサウルスの卵と言われるのかというと、同じ地層から発見されたからです。たぶんこの恐竜の卵だろうと推定しているに過ぎないのです。

 オヴィラプトルという恐竜がいます。この恐竜は当時、プロトケラトプスのものと考えられていた卵のそばで発見されたため、プロトケラトプスの卵を盗んで食べようとしていたに違いないと思われ、卵泥棒を意味するオヴィラプトルという名前をつけられました。ところが、後年、プロトケラトプスのものと思われていた卵の中から、孵化寸前のオヴィラプトルの胚(胎児)の骨格が見つかったり、オヴィラプトルが巣に覆いかぶさった状態の化石が発見され、オヴィラプトルは抱卵していたのではないかと言われるようになりました。

 同様に、ヒプセロサウルスの卵というものも別の生物の卵と言う可能性もあります。ヒプセロサウルスの卵ですが、割れたかけらの状態のものが、数多く出回っていて、比較的安価で入手出来ます。恐竜の卵の化石といえば、まずこれです。

http://raptor.blog2.fc2.com/blog-entry-451.html

177ページでは、隕石衝突はK-T境界層の形成より30万年ほど早かったのではないか、という研究を紹介している。これもネットで確認できる。

http://scienceplus.blog20.fc2.com/blog-entry-44.html

しかし、地質学というのは6500万年前の出来事を「30万年」という精度で確定できるのだろうか。この研究発表からは1年以上たつが、ネット上では、隕石説への反論としてはあまり重視されていないように見える。

177〜178ページで、火山噴出物にイリジウムが含まれることを示し、K-T境界層のイリジウムが隕石起源とは限らないとしている。

しかし、そうだとすると、デカントラップよりはるかに大規模な火山活動があったペルム紀末のP-T境界層からは、相当大量のイリジウムが検出されていてもいいはず。しかし、そのような話はない。

178ページではこう書いて隕石説を牽制している。

 さらに、スペインのカラバカで行われた、K-T境界層におけるイリジウムの含有状況の精密分析の結果、イリジウムはK-T境界層の内部に均等に混じっているのではなく、その表だけに降り積もっていることが判明した。これは、イリジウムが隕石の衝突の飛散物としてではなく、その表面にエアロゾル経由でばらまかれたことを強く示唆する。

 それにもまして重要なのは、1987年、米ダートマス大学のチャールズ・オフィサーらによって発表された次のようなデータである。彼らはボッタチオン渓谷において、K-T境界層ばかりでなく、その上下の地層の成分をも徹底的に調査してみた。その結果、驚くべきことに、イリジウムはK-T境界層をはさんでその上下に2層ずつ、計5層も濃集していることが確認されたのである。もっともこのうちの3層は、堆積後の二次移動によるものと考えられるが、だとしてもこれは確率的に1億年に1回の頻度でしか起こらないとされる巨大隕石の衝突が、ごくかぎられた時間内に2度起こった、という結論を導いてしまう。

スペインではイリジウムの濃い層は1層なので、隕石の飛来は1回だけとも導けるが。

隕石は地球に衝突後、瞬時に蒸発したとされるので、スペインに到達するのは主にエアロゾル化していたものではないかと思う。前段は隕石説と矛盾しない。

後の段落は、K-T境界層や隕石説についてネット上で調べたところでは、あまり問題視されていないようだ。地表に降り積もったイリジウムが、水の流れで運ばれ、川に集まり、海底や湖底や氾濫原に沈殿して地層を形成した。その過程で、イリジウムを凝集する機会が偶然複数あった、と解釈できなくもない。地層の形成は、多分単純ではない。

爬虫類型哺乳類?

142ページ。

 今日、爬虫類と哺乳類はともに「有羊膜類」という分類群を構成するとされるが、羊膜で包まれた卵を産む(哺乳類は二次的に胎生に移行した)という形質が、本当に共通の祖先からもたらされた真の共有派生形質なのかどうか定かではない。むしろ、この形質はそれぞれの系統において独立に獲得されたものではないかと考えられ、哺乳類は一度も爬虫類であったことはなく、両生類から独自に進化したという考え方が近年では強くなっている。

これはちょっと勇み足では? 少なくとも日本語のwikipediaでは、爬虫類と哺乳類の共通祖先に有羊膜類が位置づけられており、両生類から2つの有羊膜類が別々に進化したとは書かれていない。

wikipedia:有羊膜類

「主流」は有羊膜類が両生類から分岐したのはただ一度、そしてそのすぐ後に、哺乳類に至るグループと爬虫類−恐竜/鳥に至るグループに分かれたというものだと思う(他に早期に絶滅した枝もいくつかある)。

私も、羊膜の他に、以下の点から、有羊膜類は単系統で、哺乳類と爬虫類は有羊膜類が共通の祖先だと思う。

  • 哺乳類、爬虫類ともに相同な爪をもつ
  • 哺乳類、爬虫類ともに前肢・後肢の指は5本が基本
  • 単孔類のカモノハシの卵は有鱗目のトカゲやヘビの卵に似ている(解剖学的にどこまで似ているかは不勉強にして知らない)

この場合、哺乳類がかつて爬虫類であったかどうかは、最初の有羊膜類を爬虫類と呼ぶか哺乳類と呼ぶかだけの話になる。であれば、直立歩行や恒温性を獲得した時点をもって、一方は哺乳類、もう一方は恐竜(鳥を含む)と呼ぶことにし、それ以前から有羊膜類までの間の生き物は「爬虫類」と呼ぶということでいいように思う。いくら哺乳類の側の系列とはいえ、ディメトロドンやエダフォサウルスはやはりトカゲのたぐいとしか言いようがなく、このあたりの生き物を「哺乳類」と呼ぶのは抵抗がある。

南極のクレーター

197ページの、南極に直径450kmもある巨大クレーターがあるという話は、添付図の分かりやすさもあり面白かった。

ネットで調べると、この元になった隕石はペルム紀末の大量絶滅を誘発した可能性があるという。だとしたら、これもやっぱり、P-T境界層にもイリジウムが検出されていないとおかしいが、そういう話は聞かないので信憑性はいまひとつ。

それはそうと、リンク先のコメントの展開に笑った。

http://slashdot.jp/science/article.pl?sid=06/06/03/1511251

地球の軌道を動かしてゴラスとの衝突を避けたときの名残です。

http://slashdot.jp/science/comments.pl?sid=318823&cid=953364

そう来るか。