Great Spangled Weblog

コメントははてなにログインすると可能になります(SPAM対策です)

うつ病になっても会社は辞めるな

タイトル通り、勤め人がうつ病になった場合に、仕事にうまく復帰できるようにすることを目的として書かれた本。

読んでみて、2点自分にとって得るものがあった。ひとつは、自分がかかったうつ病のタイプがどうやらこれらしい、というのが分かったこと。もうひとつは、抗うつ薬に関する分かりやすい解説。

まずうつ病のタイプについて。

本書の冒頭で3人の症例が出てくるのだが、この3人に対する診断がいずれもうつ病ではなく、適応障害と気分変調症と持続性気分障害になっている。

一口に「うつ病」と言っても、様々な精神の不調の形があり、その中でうつ状態が持続するものを「うつ病」と呼ぶものらしい。それに至らなければ、個別に上記のように診断が分けられる。そして、適切な治療法はそれぞれのタイプで違ってくるという。

ここでハッとしたのだが、自分の症状は冒頭のA氏にとてもよく似ているということ。

会社に出かけようとして吐き気と気分の落ち込みに襲われ、やむなく会社を休む。午後になると少し持ち直すが、翌日の朝また同じような状態になる。数日休むとなんとか仕事に行けるようになるが、一ヶ月もしない間にまた同様の症状が現れる。夜もよく眠れない。気がつけば調子が悪い時は気分も落ち込んで泣いて過ごすときもある。

こんな状態でまともに就業できなくなり、内科医にかかっても異常がみつからず、心療内科を勧められて受診したら「うつ病」の病名とともに長期療養すべしとの診断書をもらった。

自分のこの経緯が、どうもA氏に似ているというので、これは自分は「うつ病」というよりむしろ「適応障害」なのかもしれない、と思った。

言われてみれば、自分は学生の頃からストレスに弱くて旅行などが苦手で、会社でも無理が続くと調子が悪くなることがあり、うつ病の診断が出たあとも休んでいたらほどなく気分の落ち込みは感じなくなった。

これは自分が、典型的なうつ病なのではなく、適応障害が悪化してうつ病というべき状態にまで至ってしまったというのが真相に近いのかもしれない。今はまた適応障害に戻ったというところ。

一方で、うつ病の症状のうち身体症状が主で、気分の落ち込みなどが目立たない「仮面うつ病」についても本書では割と多く書かれている。

自分はこれも該当するかとも思ったが、その中で言及される「発達障害」はちょっと違うかなという気がした。

いずれにしても、一口に「うつ病」と言って誰もが同じだとするのではなく、人によりタイプが違うということに重点を置いて書かれていることは本書の新しいところだと感じた。

ちなみに19ページ。

「新型うつ」や「現代型うつ病」という診断名は存在しません。

ということで、この方面のことにも、本書にはやや詳しく書かれている。興味のある方はご覧願いたい。

双極性障害についても言及されている。

続いて抗うつ薬の話。182ページ。

 うつ病の薬物治療では、抗うつ薬を使用します。また、気分変調症や適応障害でもうつ症状が出ているときは(基本的な治療ではカウンセリングを導入していきますが)、抗うつ薬を処方します。

 ところが、最近、薬の内服を嫌がる人が多くなりました。「うつ病の薬には依存性がある」「副作用でおかしくなってしまう」などと誤解して、内服を勝手に止めてしまう人も少なくありません。それは、インターネットなどで流されている一面的な報道や過激な意見に左右されているのではないかと思われます。

ということで、まずは薬について冷静に受け止めてほしいという話ではじまる。私もそう思う。

もっとも、うつ病の薬の中で抗不安薬はそれなりに依存性があるとは経験的に考えている。抗不安薬については処方を慎重にという医師もいるのでこれについては多くの情報を待ちたい。

そして薬は人によって合う合わないがあるという話(184ページ)。

 薬にはその人に「合う合わない」があって、それは残念ながら現在のところ予測できません。薬が「合わない」とは、身体がだるくなったり、日中眠くなったりなどの症状が出る場合です。そうなれば、継続的に飲めないし、有効量を飲めないので、ほかの薬に変える必要があります。

ネットの情報などにあまり惑わされないようにし、飲んだ薬の作用の出方を慎重に見極めて、効果に疑問があったり不具合が出ていたりしたら、率直に医師に言うべき。その人に合う薬が一発で見つかるような技術は現代でも存在しない。

まとめとして、ある程度飲み続けないと効き目が現れないこと、薬が合う場合でも有効量を出すまでに四週間ぐらいはかかることが書かれている。

合う薬を見つけるまでの期間もあるから、薬物療法は有効な薬の種類と量に至るのにけっこうな時間がかかるというのは、うつ病治療の現実と言わざるを得ない。

本書の最後の方には、復職のためのリワークプログラムが紹介されている。著者のクリニックも紹介されているが、それだけを受けよ、という本ではないので安心して読める。

最後の最後はうつ病の人に対し「周りの人ができること」をまとめている。簡潔なまとめなので役に立つものではないかと思う。

私自身は合計で2年近く仕事ができない時期があったが、なんとか会社を辞めずにやってきた。今はストレス過多に気をつけながら仕事を続けている。不調で休むのだけはなかなか減らず、毎年有給を使い切ってさらに何日か欠勤してしまう。それでもやはり、仕事を辞めることにならなくてよかったと思っている。

そういう自分が読んでみて、この本はけっこういい本ではないかと感じた。もっと早くに読みたかったが、初版が2012年だから無理な話ではある。