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うつ病新時代

2010年出版の新しい本。タイトルに偽りなく、10年代に相応しいうつ病の解説書だと思う。

内容はうつ病が増えている、うつ病がどのような病気なのか、原因や治療法は、回復プロセスはどうか、自殺を防ぐには、うつ病の予防はどうすべきか、といったもので、包括的なものとなっている。

新しいと思うのは、「うつ病」のサブタイプを詳しく書いているところ。新型うつ病人格障害にともなううつ病適応障害などについても書かれている。

確証はないが自分は適応障害からうつ病に移行したタイプだと思うので、108ページからの当該の部分は興味深く読んだ。うつ病に至ってしまった場合はほかの場合と同様に薬が必要。そうでなければ、うつ病に至る前に対処するのが大切。医師やカウンセラーの助けを借りてストレス状況を改善し、若干の薬の助けも受ける。ともかく「不調が長引く場合は放置しない方がよい」(110ページ)とある。

今は「うつ病」の状態からは抜けていると思うので、上記を参考に体調を崩さないよう気をつけて働いていきたい。

「新型うつ」は本質的にはうつ病であるというのがこの本の立場。「それ故、排除ではなく、治療やケアを考えないといけない」(102ページ)。

では治療やケアは何かというと、やはり当人の成長を促すことが必要、ということで、この部分に他の医師と見解の違いはない。

抗うつ薬については、第一の選択肢がSSRIである、と明確に書いてある。

もちろん著者は製薬会社の宣伝活動と啓発活動による「SSRI現象」は知らないわけではないが、冨高辰一郎氏によるこの言葉を紹介しつつ、現代のうつ病患者の増加はではこれだけでは説明がつかないと若干の反論を述べている。

著者のSSRIに関する見解は以下のようなもの(35ページ)。

 SSRI現象とは、SSRIという薬が、うつ病に罹る人を増やすという意味ではないので、くれぐれも誤解のないように願いたい。

 SSRIは、非常に有用性の高い薬であり、うつ病治療の第一選択薬である。製薬会社の宣伝効果だけで、これだけ世界に広まるはずがない。効果が乏しかったり、危ない薬であるなら、どれだけ上手に宣伝しようが、二〇年以上の年月の間に廃れていたであろう。

ならSSRIは万能かというと、そんなわけもない。これまた本書に書かれている。

SSRIが第一の選択肢だが、これによる「ヒット率は三〇パーセント程度である」(128ページ)とのこと。

当然、SSRIでうまく行かなかった7割の人は第二、第三の選択肢に進んでいくことになる。

この部分を読んでいくと、他の治療薬・治療法も寛解率が2〜3割といったところで、必ずうまくいく単一の治療法というのはうつ病には存在しないことが分かる。

治療法の中には認知行動療法も含まれていて、これが抗うつ薬と同等の治療効果を発揮するようなのだが、他の治療法より抜群に優れているわけでもない。

認知療法薬物療法と併用する場合としない場合の比較も行われていて、両者に有意な違いはないという。とはいえ、薬を併用するグループの方が早期に寛解に達する傾向が見られたというので、薬物療法が否定されるわけでもない。

SSRIだけに頼るような治療は現代では考えられず、ことさら危険だのなんだのと言ってSSRIを排除しようとすることは誤りであり適切な医療批判にもなっていない。認知行動療法には効果があるが、これも万能ではなく、薬物療法を否定するものでもない。風説に惑わされないようにしたいところ。

最後に、222ページの図が印象に残った。うつ病の人と正常レベルの人の分布のイメージとして、「正しいイメージ」は、その2者が一つの集団をなしている。そこに1本の線が引いてあり、病気としての一線を超えた人がうつ病を発症する。線より手前の人もうつ病の人と連続していて、線の位置が上下すればこれまで正常だった人もうつ病に罹患するかもしれない。うつ病と正常の間はなだらかにつながっていて、うつ病の人は正常な人とまったく違う特性を有しているわけではない。

そしてキャプションにこう書かれている(222ページ)。

うつ病レベルと正常レベルは連続体であり、うつ病の人が増えると集団全体の「うつ病度」が増す。

うつ病対策は単にうつ病に罹った人を助けるということだけでなく、集団全体の快適さを向上させるものでもある。これは他人事ではなく、自分自身にも益があるものだということが示されている。こういったイメージを持つことは確かに大事だと思う。