帰ってきた二式大艇―海上自衛隊飛行艇開発物語 (光人社NF文庫)
- 作者: 碇義朗
- 出版社/メーカー: 光人社
- 発売日: 2010/09/30
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以前、前間孝則氏の『戦闘機屋人生』という本の書評で、防衛庁が新明和にF-104をベースとした超音速ジェット水上戦闘機の検討をさせていたことを紹介した。おかげさまでそのことについていくつかの反響をいただけた。
http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20090313/p1
本書でも、このジェット水上戦闘機について言及している。87ページから2段落ほどで、要点は以下の通り。
- 主翼、尾翼、操縦席はF-104そのまま
- 胴体を艇体に改造
- 計算上はF-104と遜色ない性能
- 模型による水槽実験が行われた
実機が完成していたらものすごく野心的な戦闘機になっていたことは間違いない。当時作られた図版が公開されるとしたらものすごく見たい。
自衛隊が水上戦闘機を模索した理由は、限られた滑走路は敵の先制攻撃で使用不能になる恐れがあり、水上戦闘機なら日本に多数ある湖沼を基地とできる利点があるため。
昭和30年代では、日本に100も空港が作られて不時着にさほど不自由しなくなるとはさすがに想像できなかっただろう。
もう一箇所、本書で目を引いたのは、中国(中華人民共和国)がUS-1飛行艇に興味をもったということ。当然中国への輸出はかなわなかったが、その代わり中国の方でUS-1そっくりな飛行艇、SH-5が開発された。
SH-5は尾翼が双垂直尾翼で、形としてはあまりUS-1に似ていないが、機体規模はほぼ同じで、波消し装置はUS-1の模倣だという。
1976年に初飛行して7機が製造され、けっきょくは実用には至らなかったらしい。1991年に中国を訪れた新明和の社員が、ダム湖で係留されている「スクラップ寸前」の2機のSH-5を目撃したと書かれており、いささか哀愁を誘う(追記:wikipedia情報によると4機が部隊配備され現在も飛行可能のようだ)。
このほか、文庫本ながら400ページを超える本書は、日本の戦後の飛行艇開発と運用について多くの情報を提供している。
この本と『世界の傑作機』のPS-1とUS-1の号があれば、国産飛行艇についてかなり詳しく知ることができるだろう。
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