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プラスティック・メモリーズ#13

プラスティック・メモリーズ』#13「いつかまた巡り会えますように」

ストーリー

アイラを回収する日の朝がきた…

視聴コメント

  • 深刻なアイラロス

解説

「大切な人と、いつかまた巡り会えますように」

12話ラストでアイラが囁いた言葉。この作品の鍵となる大切な願い。

アイラの、そしてこの作品の死生観が輪廻転生であることが明らかにされた。ふり返ると2話以降かかっていたOP曲も「いつかまた巡り会える日まで」と結んである。「Ring of Fortune」をフルコーラスで聞くとこの思想はもっとはっきり分かる。

輪廻転生という死生観は日本人の多くが共感できるものだと思う。避けられない誰かとの死別のとき、魂が転生して、いつかまた巡り会うことができる。そう信じることは、逝く者も残る者も、どちらにとっても救いになるはずだ。

放送が終わってから少しして8月。放送終了直後の喪失感がいくらか癒えて、帰省したとき「ああ、今年はアイラちゃんの新盆だなあ」などと考えた。

そのときはネタのつもりだったが、『〜電気羊〜』の書評で「特定の元ネタというのはないはずだ」と書いてみて、その後やっぱり気になったので調べた。

仏教だった。

も少し調べた。がっつり仏教だった。

死が身近だった昔は、仏教は死後の救済としての意義がきわめて大きかったたのだろう。そのため多くの日本人に受け入れられ、もはや宗教と意識されないほど心に深く根付いている。仏教的な死生観を作品に取り入れることはとても自然だ。

それだけではないと分かるのは、最後にツカサのモノローグで綴られる、1話冒頭の問いに対する答え。それこそアイラがこの世に残していったもの。

その結論もまた、仏教的な思想に沿っている。

昔に比べて死が遠くなり、人生がおおむね長くなった現代では、ツカサの言葉こそ意味があるのだと思う。

洗練された形で取り込んであるので気づきにくいが、実はこの作品は仏教を、現代に通じる形にアップデートする試みだという見方もできる。

改めて言い直せばこの作品のテーマは愛別離苦。結論は「縁」。

これだけシンプルで力強い骨格を持っているのだから、強く印象に残るのも理解できる。

私の中では、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』以来の仏教アニメの秀作。ただ、検索して気づいたが『あの花』自体が仏教アニメという認識があまりされていなくて(お盆に帰ってきためんまが仏壇拝んでるのに!)、作品がヒットしたから思想背景が多くの人に共有されているのは間違いないのだけど、それが伝統的な日本の宗教観である、ということ自体は現在もあまり認識されていないのだなと実感する。あんまり仏教仏教言わないほうがこの作品のためにはいいのかもしれない。

だから、作品に宗教観が深くかかわっているといっても、堅苦しい話をするのもよくないかと思う。

そこで、読者が引かないであろう範囲で、この作品に思想的に影響しただろうという過去の創作物を紹介してみる。

宮沢賢治:『銀河鉄道の夜』。汽車のボックスシートでジョバンニは親友カムパネルラと旅をする。旅をしながら多くの死者が列車に乗り、降りてゆくのを見送る。

「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」

http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/456_15050.html

しかし気がつくと、向かいの席にいたはずのカムパネルラがいない…

この作品のジョバンニの言葉は、最後のツカサのモノローグとそんなには違わないと思うがどうだろう。

そしてここまで来て思うと、もしかしたらこの作品は『ブレードランナー』と『銀河鉄道の夜』のハイブリッドなのかもしれない。宮沢賢治に寄せたら仏教的な死生観が自然に現れてきた。そんな気がする。

Angel Beats!』など、生まれ変わりをモチーフにした作品は少なくないが、そういう作品はえてして次の生まれ変わりで二人が再会、となりがち。この作品は「いつ出会うか」までは示していない。もしかしたら何百年、何千年も先かもしれない。その辺にあまり俗っぽさが出てなくていい。

ところでCパート。ツカサの次のパートナーがまた美少女らしいのはどういうことですかね。なお、彼女がアイラちゃんのOS入れ替え後とか、魂が転生した人だとかいうことは、まずない。二人が出会うとしてもツカサの来世の話。

「また美少女かよコノヤロー」をオチにしようかと思っていたが、作品を見なおしてみたら1話冒頭とか色々な場面が違って見えてきたので、作品の思想を理解しようと調べてみるのは悪くないなあとなって、また話がまとまらなくなってきた。

話をちょっと変えてみる。本作がディストピアだという批判記事が今年になって出てきた。でもそんなことは放送中に分かること。元ネタの『ブレードランナー』も『〜電気羊〜』も舞台はろくな世界じゃないし、参考にしたであろう80年台後半のアンドロイド・サイボーグ映画『ターミネーター』、『ロボコップ』も同様。むしろダークな世界観に気づくからこそ、アイラちゃんの清浄さが引き立つのである。という信者的な賞賛の言葉を綴る機会を得ることができてディストピア云々の批評には感謝している。

これで話をまとめることができた。なお、六道にアンドロイ道が加わってどうこうとかあれこの作品の死生観て魂のPDCAサイクルかなとか思いついたけど流れ的に入れられなかった。

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