えらい時間が空いたけど色塗りの話。
前回は色相。
今回は明度について。
人の網膜には光を感じる細胞が2種類ある。
1つは色を感じる錐体細胞。もう1つは明るさだけを感じる桿体細胞。
錐体細胞は色は分かるけど感度が弱く、また、明るさの強弱もつかみずらい。
一方、桿体細胞は色が分からない代わりに感度が高く、明るさの微妙な違いも分かる。
両者の違いが分かるのは暗い夜道を歩くときなどで、暗がりでは色の違いはほとんど分からないが、目が慣れてくれば物の形は見えてくる。これは桿体細胞は暗さに強く陰影を把握できるが、錐体細胞は弱い光の下ではほとんど動作しないため。
網膜では、桿体細胞は広く分布するが、錐体細胞は中心に集まっているという。なので、網膜はこんなふうに景色をとらえているらしい。
「いや、視界の中心だけでなく、その周りもすべてが色があるはずだ」
というのは別に間違っていなくて、これは、桿体細胞と錐体細胞が協働して視界を構成するからで、いわばニューラルネットワークで白黒画像に彩色するような処理を脳が行っている。結果として色鮮やかな景色の中に自分がいるという認識になるるらしい。
人は物を見ているようで見ていない。脳が処理したデータを見ている。
と実感するのはこういう情報に触れた時。
画像の明るさの強弱に関する尺度が明度。
白黒画像で言えば明度が低ければ黒く、明度が高ければ白く、中間はグレー。
写真が発明されたころはカラー写真は撮れなかったから、写真と言えば白黒だった。グレーの濃淡だけで表された画像はそれでも高い芸術性を発揮し、今も白黒写真にこだわる写真家が少なくない。
というか鉛筆画、木炭画、水墨画、ペン画。こういったものももっぱら白黒で色情報を持たない。絵具だってモノトーンの絵を描ける。漫画もカラーは特別な場合でふつうは白黒だ。
これでも十分芸術作品を作れるから、色の明るい暗いという情報が実は人にとって非常に意味の大きいものだと思う。
イラスト講座みたいなWEBページで見かけたのが、「色塗りでうまくいかない場合一度白黒画像に変換して、それで違和感があったら見直しの余地がある」というもの。
ああ、そんなチェック方法があるのかと思った。
他に、グリザイユ画法というのもある。まず白黒、というかグレーの濃淡で色を塗り、それから、グレーの時の明暗を維持しながら色をつけていくというもの。
これはニューラルネットワークで白黒画像に色をつける作業を人力でやるようなもの。ニューラルネットワークが人の脳を模したアーキテクチャなら、これも人の直感に沿ったやり方なのかもしれない。
自分はグリザイユ画法は使ったことはないが、白黒にして絵が成立するかは気になったので、pixivにアップした絵を何枚か白黒にしてみた。
ひどく破綻はしていないように思うがどうだろう。
色塗りをする場合、「どの色を選ぶか」と同じか、あるいはそれ以上に、その部分の「明るさをどうするか」というのは重要だというのが、グレースケールの彩色チェックやグリザイユ画法などから見えてくる。
明度を意識しながら色を塗ることはとても重要で、その技術はエンピツや木炭でデッサンする場合の塗り方の延長にある。また、画面全体で明るさをどういう配分にするかも絵の印象に大きく影響する。
絵具は白い紙を黒いトーンに塗り込むのがけっこう大変だったけど、デジタルは簡単にダークな絵が描ける。
デジタルの時代だからこそ、どんどん色を塗ろう。