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エガオノダイカ

2019年1月アニメで『エガオノダイカ』というのがあった。全12話。最終話が放送されたあたりからニコニコ動画を見てたら度々言及されるので、なんだろうと思いネット配信を見てみた。以下そのレビュー。ネタバレあり。

egaonodaika.com

1話のストーリーはこんな感じ。

地球からはるか遠くの移民星。そこにあるソレイユ王国の12歳のお姫様、ユウキ・ソレイユが主人公。彼女の両親である先代の国王および王妃は12年前に事故で亡くなっている。しかし、頼れる側近たちと、幼馴染で駆け出しの騎士のヨシュアがいる。12歳の誕生日を機にユウキ姫は公務に携わるようになった。まずは北に隣接するグランディーガ帝国との難しい交渉を解決しなければならない。そのためにヨシュア達騎士団を国境の州に向かわせる。

話の鍵は「クラルス・エンジン」という空間から無尽蔵に得られるクリーンエネルギーで、ソレイユ王国では「新型クラルス」を実用化し、帝国を一歩リードしている。新型クラルスはロボットに搭載され、その強力なロボットにヨシュアが乗る。

「お姫様と騎士のロボットアニメ」、こんなPV見たらハイティーン向けの作品で私らは見なくてもいいな、と普通思うよね。

www.youtube.com

で遅れて視聴したところ、とんだ詐欺アニメだった。ミリタリー大好きおじさんも大満足の迫真の戦争アニメだったという。

どこで「詐欺アニメ」と分かるかというと2話の最後。そもそもソレイユ王国と帝国は1話の時点で戦闘状態にあり、「交渉」と言って辺境に向かったヨシュアら騎士は大規模な戦闘に直面する。ボロボロになって戻ってきたロボットの母船的ホバーに「実は戦闘になってました」と明かされる姫は、「たった今息を引き取りました」というヨシュアの遺体に直面する。

1話のラストのOPで予兆があって、紅白の派手な色使いの王国側に対し、青系統で地味だけどなかなか魅力的な感じのポニーテールの女性兵士が出てくる。OPの最後の方では彼女がユウキ姫と二人ペアで登場し、どうやらこの二人のヒロインを軸に話が進むと想像される。しかし、1話時点じゃ彼女がどう描かれるのかまったく分からない。

とにかく、2話までに分かることは、ソレイユ王国は「トップに情報を上げない腐敗した国家」、お姫様は王としての資質はあるがまだお子様、「気合と根性」で力技で物事を解決しようとするイケメンだけど暑苦しい騎士はすぐ死ぬ。見た目がイケてるユニ&ルネの双子はけっこうちゃんとした騎士。あと、この星ではクラルス・エンジンが主要なエネルギー源だけど、それをもってしても空を飛べない。

そして3話。視点がグランディーガ帝国になる。なんと戦争が先に進んでて北の国境は既に帝国に破られ、場面は帝国に占領されたソレイユ王国。そこでまだ占領が終わっていない地区にある新型クラルスの動力炉を奪取せよ、という命令が、青髪ポニテお姉さんのいる分隊に下る。分隊はロボットとトラックで敵地に潜入し、ポニテお姉さんは分隊長らと市民に扮して状況を探る。

なんとマジな戦争もの。もちろんアニメだから若年層向けのアレンジはしてあるが。何か裏がありそうな女性兵士のステラ、顔に大きい傷のある、これまた裏がありそうなおっさんの分隊長、とってもかわいいリリィちゃん、他にいかにも戦地にいそうな若者の兵士たち。

潜入工作は普通に戦争ドラマで、作戦は遂行するが、その際被害に合わないように、そこで知り合った孤児たちを分隊は市街地の外に脱出させる。とはいえ、孤児たちにとって彼らは親の敵であり、銃で脅されて移送されたこともあり、子供らは捨て台詞を吐いて分隊から立ち去る。

作戦は成功して、分隊は無事1日を終え、次の朝が来た。

ちょっと待って。ソレイユ王国が完全に「敵」扱いで、お姫様とか一切出ない件。

これは戦争ものとしてスタッフがこだわった演出。以後ほぼ1話ごとに交互に王国と帝国の視点で描かれ、その際敵の登場は本当に「敵」として描かれる。戦争ではときに主人公が正義で敵が悪であるという単純な図式に落とし込むことがあるが、この作品は徹底してソレイユ王国の王女とグランディーガ帝国の女性兵士を「平等」に描いている。

話が進むごとにソレイユ王国は負けが込んできて、ついに首都を放棄して後方の都市に王室を逃亡させる。一方帝国はソレイユ王国を次々と攻略し、ついに王宮で宴会までやるほどに。「主人公」だったはずの側がここまで負け続けるというのは珍しいと思う。

ガンダムは序盤ホワイトベースが避難船になるが、ガンダム等のモビルスーツという超兵器があった。この作品では王国のロボットは「ちょっと強い」程度。しかも王国は「王女の戦闘指揮が誤っていた」、「側近が王女を欺いて首都を脱出させた」という徹底したダメな負けぶり。「王女が勉強してまともな指揮ができるようなったが物量に圧倒されゲリラ的に戦うしかできない」という頑張りも見せるが、既に戦力差はどうにもならず。

むしろ、帝国の分隊の方が人間味があり、どうしてもこっちに感情移入してしまう。

PVではまさか敵の方が親しみが持てる連中とか思わないわけで、全く本当に詐欺アニメ。

王国と帝国を交互に描いて話が進むうち、今の大変な状況を一変させ、戦争を終わらせる手段をユウキ姫はついに手にする。そして話はクライマックスへ。

この最後の最後でようやく、ユウキ姫と帝国の兵士、ステラが出会い、戦いを終わらせるためにともに手を取って行動する。

この辺が割りと超展開ぽいので評判が悪かったのもあるかもしれない。

話の解決策は、クラルス・エンジンは使えば使うほど惑星の環境を悪化させる、という真相の発見が決め手となる。便利なクラルス・エンジンはこの惑星の居住可能性とトレードオフだった。

そしてクラルス・エンジンを放棄したところ、緑だった空が清々しい青空になり、空に鳥が舞い、作物も育つようになって、争いの手段も原因も取り除けました、というまとめ。ユウキ姫とステラは深い友達に。

ここは、かなり意図的に、クラルス・エンジンを強制停止させた後の惑星の状況の、「いい所」だけを切り取って見せている。ステラがクラルス・エンジンを捨てたら争いが終わったとしても、人はまともに暮らせないと訴える。実際、いろいろなところで悲しいことが起きていたはずだ。現代人が電力を放棄するのに等しいことだから。

しかし、ステラのセリフを忘れないで注意して見れば場面の取捨選択も分かるし、戦争の実態も、全12話に入るように大幅に省略して描かれているのだと想像もできる。

ということで、詐欺アニメというイロモノ要素はあるものの、実は割りとちゃんとした戦争アニメで、普遍的なメッセージも込められているのが分かる。この作品は「成功した作品」であり、作者が意図したものを描けていない、あるいは作者がまともな意図を持っていない、といった「駄作」ではない。

ただ、どうも全般的に地味で、華がない。あとときどき作画がおかしい。何年か経ってもまだ語り継ぐ人がいる、という作品にはなりそうにない。

でも、私個人としては、こういうろくに話題にもならない作品が実は見るべきものがあったというのは大好きなので、こうしてブログをまとめる気になった。

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次こそミリオンの話します。

エガオノカナタ

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