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中島戦闘機設計者の回想

著者の青木邦弘氏は中島飛行機で陸軍の戦闘機の開発にたずさわった技術者。

終戦間際に開発されたキ115「剣」の設計主務者であり、本書の第2部は「剣」の開発について書かれている。

「剣」というと、特攻専用の簡素に作られた飛行機というイメージがあったが、著者によると、特攻機として開発したのではなく、あくまで爆撃機(当時の陸軍の用語の爆撃機で今の用語なら攻撃機)であるという。これはここを読むまで知らなかった。

特攻機としたのはあくまで用兵上のことで、機体そのものは爆撃機として設計されている。脚は離陸後切り離すようになっているが、胴体の爆弾倉の両側はソリ状に補強されており、胴体着陸して操縦者とエンジンを回収することを考えていた。行動半径500kmという値も、攻撃後帰還することを前提としたものだという。

設計者が想定している「剣」の任務は、敵の上陸部隊を強襲し、上陸用舟艇めがけて爆弾を投下して上陸を妨害するとのこと。空母などの敵艦への攻撃は意図していない。爆撃も、とにかく上陸部隊の中に放り込めばよいということで、照準器はついていない。

国際航空宇宙展などのイベントで富士重工のブースに行くと、中島飛行機製の飛行機の模型が展示してあることがある。1式、2式、4式と陸軍の戦闘機が並ぶ横に、この「剣」の模型が展示してある。特攻機として開発された急ごしらえの飛行機をわざわざ並べなくとも、と思ったが、急ごしらえはともかく、特攻機というのは設計者の本意ではないと知り、自社の製品として「剣」の模型を展示する富士重工の気持ちが少し分かった気がした。

wikipediaの「剣」の項は本書の内容が反映されている。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%A3_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)

本書の「剣」の開発に関する部分とほぼ同じものが、下記サイトで読むことができる。

http://www.ne.jp/asahi/airplane/museum/nakajima/turugi1.html

本書は文庫化されている。