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生命大躍進−脊椎動物のたどった道−

国立科学博物館の標記特別展を見学した。10月4日の日曜日。最終日である上に晴天の快適な天気で入場に30分ほど並んだ。

この特別展はNHKスペシャルの『生命大躍進』との連動企画で、この番組は色々問題があったので特別展の方には積極的に行く気はなかったのだけど、「バージェスモンスター」をまとまって見られる貴重なチャンスなのでやっぱり行くことにした。

で、行った感想としては、さすが国立科学博物館。展示内容こそNHKとの協議で決まったようなちょっとまとまりにかけたところはあったものの、展示物も解説も立派なもので、結果として行ってよかった。また、NHKスペシャルがどうしてああなってしまったのかもある程度理解できた。

以下当日の写真とコメント。

エディアカラ動物群の実物化石。もうこれだけで入場料の元をとったと思った。

ここからバージェス頁岩から見つかったカンブリア時代の生物化石まではものすごい混雑でとても最前列では見られなかった。子供や女性との身長差を利用して上から覗いて見学。また、写真もカメラをぬっと出して撮影。

ここで来場者の人から「ここは撮影禁止だと思いますよ」と注意され、「すみません」といったんカメラを引っ込めた。実際には、この特別展も国立科学博物館の他の特別展同様、動画などの他に著作権のある物以外は、フラッシュを焚かない条件で撮影可能なのだから言葉をその通り受け取れば謝るところじゃないのだが、注意した人の本心は「あんたのカメラが邪魔なんだよ!」のはずなので気分を害したことに対して素直に詫びた。

閑話休題。ハルキゲニアとかヨーホイアとか懐かしの『ワンダフルライフ』で読んだ生き物の化石の本物が見られたのは感激。そしてどれも小さい。ほとんどはマッチ箱に収まるぐらい。

その中で異彩を放っているのがアノマロカリス。でかい。写真の一番左は口の部分だけど、口だけでこの大きさとは本体はどれほどでかかったのか。まさにカンブリア時代の海の覇者。

なお、アノマロカリス以降化石の前に多少隙間ができるようになった。アノマロカリス人気ないの?

NHKスペシャルで「脊椎動物の祖先はピカイアじゃない」とか「ハイコウイクチス」が既に脊椎動物とか指摘されていたが、この特別展では澄江動物群の化石も展示されていた。さすがぬかりはない。人気はバージェスモンスターにはるか及ばず。その分ゆっくり見られた。

ダンクルオステウスの模型。顎を獲得した魚。科学博物館に展示されていた化石が模型になって元の姿を見せていた。かっこいい。

脊椎動物が陸に上がるあたりの展示からは人が少なくて本当にゆっくり見られた。

写真はきわめて両生類に近いとされる魚、ユーステノプテロン。頭以外は本物。

両生類の足跡化石。

正直どれが足跡かよく分からなかったのだが、それはそれとして。

この化石は元は海岸だったという。そこから、脊椎動物が海から上陸した可能性も考えられるという説明があった。

これを受けて、NHKスペシャルでは海から両生類が陸に上がるイメージ画像を流してしまったらしい。

たった一つのキャッチーな事例から本流を見失ってしまう素人的な発想の例。

魚類から両生類に至る様々な化石はほぼ全て淡水の水系で発見されているので、海岸で足跡が見つかった事例ひとつぐらいで、両生類は淡水で進化した、という通説がひっくり返るわけはない。

イクチオステガ等初期の両生類の頭部の化石。概ね実物。まだこれらの両生類は水中で生活していたと推測される。

ディメトロドンの模型。

NHKスペシャルではディメトロドンの体表に分泌腺があって、そこからリゾチームを含む液体を分泌して卵を除菌していた可能性がある、と説明されていたが、この展示でそのようなことに関するものは私が見たところなかった。

そりゃまあ、哺乳類は体表の分泌腺が乳腺に進化して「哺乳類」になったんだけど、ディメトロドンは見た目ほとんどトカゲだし変温動物だからこそ背中に帆があると考えられているので、皮膚に何らかの分泌腺があったとはちょっと考えがたい。

個人的に気になったので写しておいた写真。哺乳類の分岐図。

左から時計回りに高等な生物になる、という単純な物言いをするなら、現存する最も進化した動物は鯨偶蹄目ということになる。子供が生まれたときから立って歩いたり泳いだりできるとか、胃が四つあるとか、鯨として海中で最大の動物であるとか、確かに優れた形質を持っている。

まあ、何が高等で何が下等かなどと生き物を上下で区別するのはあまり意味のないことなのだけど。原始的な形質をどれだけ残していようと、どの時代もそこで生きている生物は環境に十分適応して生きているのだから、上も下もありはしない。

で、最新の知見が反映されたと思われるこの図でも、霊長類はげっ歯類に比較的近いグループとされている。人間は知能の発達が特異的に優れた形質だが、指が手足に5本ずつ揃っているなど原始的な形質も残している。

これらの哺乳類の大まかな分岐は、恐竜がまだいた白亜紀には完了していたことが興味深い。恐竜絶滅後の哺乳類の適応放散は、中生代のうちに既に準備が進んでいたことになる。「恐竜におびえながら細々と生きながらえてきた」という哺乳類のイメージは、最近ではあまり妥当ではないらしい。