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ノートe-POWER

はじめに

E12ノートが大規模なマイナーチェンジを受け、ハイブリッドのe-POWERが追加された。これがものすごく好評で、発表のあった2016年11月に販売台数全国1位を記録。B12<トラッド>サニー(1986年9月)以来30年ぶりの快挙。

2012年発表の車がマイナーチェンジでこんなに売れるとは驚き。しかし、試乗して見積りをもらったら、まだ車検も来てない新しいノートユーザーの自分でもくらっと来たので、これは売れるのは間違いないと思った。

シリーズハイブリッド

ノートe-POWERシリーズハイブリッドで、市販の乗用車ではこれが初ではあるが、仕組みとしては昔からあるもの。エンジンで発電機を回し、その電気で走行用モーターを回す。エンジンと駆動輪の間に複雑なトランスミッションやプロペラシャフトなどが要らなくなるという利点がある。『ガールズ&パンツァー』に出たポルシェティーガーや、南極観測船「しらせ」など、乗用車以外では多く用いられている。

プリウスはじめ乗用車のハイブリッド車は、エンジンと電気モーターを機械的に結合して両方の動力で駆動輪を回す方式が一般的だった。とりわけ、プリウスの電気式CVTを応用した動力分割機構は巧妙で、日産もトヨタから導入してアルティマなどに乗せたほど。

これはエンジンでの走行が有利なときはエンジンで走り、不利な時はモーターで走り、中間のときは両者を使い分けるというもので、エンジンが効率よく使えて燃費がよくなる。最高出力はエンジン+モーターとなって動力性能も高められる(あるいは同じ動力性能ならエンジンを小さくできる)。

シリーズハイブリッドはどうあがいても走行用モーターの駆動力より大きい力は出せないから、動力性能の面では不利といえば不利。

しかし、エンジンと駆動輪を切り離せるので、走行速度に関係なくエンジンの回転数を停止から最高出力時まで自由に選択できるというのが利点。

自動車が街乗りでは燃費が悪く、高速道路を走ると燃費がよくなることは皆さんご存知の通り。高速走行時は抵抗が増えるから本当はエネルギーが多く必要だが、レシプロエンジンはある程度回転数を上げて負荷をかけて走った方が効率がよく、高速道路を100km/hで巡行するような状況では抵抗が増えるよりエンジンの効率アップの方が効果が高い。結果として燃費がよくなる。

シリーズハイブリッドの場合は、例えば100kmの下道を移動する場合、エンジンはバーチャルな高速道路を1時間走ってもらい、100kmはリアルの下道ではだいたい3時間ちょっとかかるから、残り2時間何分かはバッテリーに蓄えた電気で電気自動車として走る。こうすれば、理論上は、下道でも高速道路と同じ燃費で走ることができる。

ノートe-POWERの燃費低減策は大雑把に言うとこういうもの。ハイブリッド車の思想はどれも大きくは変わらないが、ノートはそれをより純粋なものとしている。

技術バカの日産

日産の魅力は何かというと、一つは、エンジニアの権限が強く、時に「技術バカ」と形容したくなる無茶なクルマを出すところ。レース車のベース車に直6のDOHCを採用するのはあるとして、それを4バルブのS20にする、という初代スカイラインGT-Rしかり。グループAのレギュレーションを研究して純粋にレースに勝つために投入したR32GT-Rしかり。重量配分に配慮してトランスアクスルを採用しながら、やっぱり前輪も駆動しようというので後ろから前に2本目のプロペラシャフトが出てるR35GT-Rしかり。

ノートe-POEWRがシリーズハイブリッドであること自体はまあ分かる。電気自動車の技術があるから、これに発電機を載せれば高くて重いバッテリーを減らし、安いハイブリッド車を出して販売台数をテコ入れできる。

しかし、シリーズハイブリッドは、エンジン→モーター→駆動輪という動力の流れが直列なので、どうしてもモーター以上の駆動力は出せない。

ではどうしたか。

「電気自動車リーフの動力系をそのまま載せよう!」

量産が進んでいるリーフのモーターを積めば、確かに量産効果でコストを抑えられる。

し か し。リーフって重量が1500kg近くある重量級のクルマなんですが。

しかも、その重量であってさえ、リーフは動力性能が売りで、低速でアクセルを踏み込むとびっくりするような加速をする。回転数によらずいつでも最大出力を出せる電気モーターの特性を活かして、エコカーなのに走りの楽しさも手放さないのがリーフ。

で、ノートe-POWERは燃費スペシャル(JC08モードで有利にすることだけを考えた、事実上売る気のないグレード)のSで1170kg、メダリストでは1220kgと、リーフより200kg以上軽い。

それが同じモーターというので、「2000ccのターボ車並みですよ」と自慢されるぐらいワケの分からない加速をする。試乗すると加速がすごすぎて変な笑いが出る。「これがノートかよwww」。

その後にe-POWER Xの車両本体価格が200万以下とか説明されたら思わずハンコ取りに帰ろうかと思ってしまうw

動力性能のヒミツ

シリーズハイブリッドは、エンジン→モーター→駆動輪という動力の流れが直列なので、どうしてもモーター以上の駆動力は出せない」

これをより正確に言うと、エンジンとモーターのどちらか低い方の動力で走行性能が決まってしまうのがシリーズハイブリッド。エンジンとモーターしかなかったら間違いなくそう。ノートe-POWERのエンジンは79馬力のHR12DEだから、リーフのモーターを採用しても、それだけではHR12DE以上の駆動力は得られない。

ではどうするかというと、前席下の電池から電力を供給し、エンジンの発電+電池の電力でモーターに最大出力を発揮させる。

なので、ハイブリッド車という分類がやはり正しい。

電池に余裕があるときはエンジンが止まっていて電気自動車として走る。減速するときは回生により電池を充電する。電池が足りなくなったらエンジンを動かして充電する。そして、急加速するときはエンジンと電池の両方から電力を供給する。

電池の容量は1.5kWhで、80kWのモーターを全力で駆動すると計算上1分ちょっとでなくなる。実際は55kW程度の電力しか供給できないのでもう少し長時間使えるが、いずれにしても、低速時はともかく、動力性能が必要な場面では純粋な電気自動車としてはあまり長く走れない。

エンジンが79馬力は58kWで、電池と足すと合計で113kWの出力となるが、80kWのモーターを全力で駆動するには両者ともにそれぐらいの出力が要るとのこと。

エンジンが発電専用ならもう少し小さいエンジンでもいいように思えるが、リーフのモーターを使うとなるとそうも言っていられないらしい。また、エンジンを小さくすると発電するときの回転数が高くなってしまい防音、防振で不利となる。

それでも3気筒1200ccというのは、例えばライバルのアクアが4気筒1500ccであることを考えれば、レスシリンダーの3気筒でもあるし技術的に一歩先を行っている。

電池の容量が大きくないので、エンジンはそんなには止まってない。アクセル全開にすれば即エンジンが始動するし、高速走行時もけっこうな時間エンジンは動いているだろう。

エンジンの回転数は負荷が低ければ2400rpmというので、まさに高速道路を運転しているときのような回転数。回転数がやや高めなので、トランスミッションがないことと合わせて防振の点ではいくらか有利なようだ。逆にハイブリッドならではの問題点もあるようだが。

運転していて直接エンジンの特性を感じる機会はないので、レスポンスとかなめらかな吹け上がりとかを気にする必要がなく、同じHR12DEでもNAのノートのエンジンとは違うセッティングになっている。ミラーサイクルを採用して圧縮比を12としているとのこと。燃料はレギュラーガソリン。HR12DDRはミラーサイクルによる出力低下に対応してスーパーチャージャーを採用しているが、e-POWERのHR12DEはNA。ミラーサイクルの度合いをほどほどにして、吸入する空気が減る分と圧縮比が増える分とが相殺されてNA車と同じ79馬力を確保できたらしい。NA車が6000rpmに対し、e-POWERは5400rpmとより低い回転数で最高出力を発揮する。最大トルクも3600〜5200rpmと幅広い回転数で発揮される。

モーターの出力80kWは馬力にすると109馬力。全開にしたときの加速のすごさからすると意外に馬力自体は小さい。馬力荷重も10kgを超える。

CVTのノートはアクセルを全開にすれば高い回転数を保って加速するので、79馬力なり98馬力(HR12DDR)なりの加速をするはずなのだけど、普通は最高出力時の値まで回転数が上がらないので、額面通りの馬力は出ないということになる。電気モーターはそういうことはないので、シフトダウンのタイムラグがないことも合わせ、馬力の値以上に加速感を感じるということになるのだと思う。

小ネタ

シリーズハイブリッドなのでエンジンはバーチャルな高速道路を走っていると書いたけど、リアルに高速道路を走ると、実際にあまり燃費は伸びないらしい。空気抵抗はおおむね速度の2乗に比例するから、これが本来の燃費のあり方。低速で燃費が悪いという乗用車の常識がハイブリッド車でようやく変わりつつある。

ノートe-POWERが安いのは既存車のマイナーチェンジであることや、リーフのモーターやインバーターを流用したこと、電池の容量が(電気自動車より)少ないことなどによるけれど、ブレーキも普通のブレーキで、回生ブレーキとの協調制御を行う、ブレーキ・バイ・ワイヤではないという。

一方で、エコモードやSモードでは、アクセルをオフにしたときに回生ブレーキが強めに動作するようにしてあって、アクセルをオフにし続けると最後は止まってしまう。試乗してみるとこれが不思議な感覚で、特に止まる直前のブレーキの抜き加減が巧み。車が勝手に運転手の意思を読みとって止まってるかのような感じがする。複雑な協調ブレーキを採用しないかわりに、こういう代替案を提示してくるというのが面白い。

エンジンルームは、従来トランスミッションと鉛バッテリーのあった位置に発電機とインバーターとモーターがある。エンジンを発電専用に割り切ったので、ファンベルトがないというのは新鮮。プラグに点火するためのオルタネーターは、そもそもクランク軸で発電機を回すから不要(あとセルモーターを発電機が兼ねているはず)。水ポンプも電動になったので不要。パワステは前から電動。エアコンも電動とのこと。ミラーサイクルなのにNAと出力が同じなのは補器類の駆動ロスがないからというのもあるのかも。

駆動用の立派なリチウム電池を積んでいるが、鉛バッテリーもなぜかある。リーフも鉛バッテリーがあるから、これは容易には代えがたい部品らしい。ノートe-POWERではエンジンルームに置き場所がないので、後ろのトランク下に置いてある。R33スカイラインかと思ったが、スペアタイヤのスペースに置いてあるので荷室は圧迫していない。パンクに対しては修理キットを搭載。

車両重量はHR12DDR搭載車に対しおおむね120〜140kgの増。スーパーチャージャーインタークーラートランスミッションを外しても、発電機、インバーター、モーターでそれ以上に重くなっているらしい。フロントの軸重が90kg程度増えているのではという推算がある。さらに20kg程度が電池の重量、15kg程度が車体の補強、数kgがメダリストの防音、という重量配分だろう。

電気の駆動系はエンジンほどではないが熱が出るので水冷の冷却システムがある。冷却空気の取り入れ口はグリルの右下でHR12DDRのインタークーラーがあった場所。

動力性能からして自然な流れで、e-POWERにもニスモがある。確認したところ当然のごとくAT。というか電気モーターだからそもそも変速機がない。もはや多段式変速機を手動で操作するという時代ではないのだなあとか思った。とはいえ、「疑似的なマニュアルモードを用意したら面白いんじゃないですか?」と試乗したときに営業の人に伝えてはみた。そういう自分がCVTで満足しているので、電気駆動の車が多段変速をエミュレートすることにどれだけ需要があるのかは分からない。さすがにクラッチが欲しいという人はいないだろう。