Great Spangled Weblog

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模写をしよう(その2)

前回に続いて写真の人物を模写する話。

glemaker.hatenablog.com

最近描いたものがあるので工程を前よりもう少し具体的に書ける。

まずは見本と模写の写真。道具は「大人の鉛筆」と消しゴム。あとクロッキー帳。

見本と比べると誤差が多くて見せるのをやめたくなるがそこをぐっとこらえる。

絵の大きさはこの通りで、だいたい20分ぐらいで描くのであまり大きくしない。

クロッキー帳はマルマンのLS-02というもので、大きさはA4より二回り大きい。

スキャナーで読めるサイズがA4までなのでそれに余裕を見込むとこのサイズがちょうどいい。1ランク小さいのも使ってみたが狭くて描きずらかった。一方このサイズだとたびたび端の方がA4からはみ出すのでスキャンしてからデジタルで描き足すことになる。

大人の鉛筆は削らなくても芯だけ繰り出すことができるエコな鉛筆。これを使うと不思議と絵が上手くなったような気がする。

シャーペンに比べると線が太いことと、筆圧により濃淡をつける程度が大きくなるのが多分その理由。特に線が太いことは重要で、太い線で描けばその中に正解の線がある確率が高く、目で見るときは太い線の中から正解の線を補完して見ることになるので上手く描けたような気になる。

消しゴムは学用品として売っている普通のプラスティック消しゴム。

さて、見本と道具が揃ったら始める。

まず輪郭を描く。

中身の人間をちゃんと描こうと思ったら、輪郭が正確でないといけない。正確な輪郭であれば中にまともに人を描ける可能性があるが、逆はない。

という話とは別に、人の脳の情報処理の話もあり、顔に注目して描こうとすると顔を記号として脳が処理するため、各要素の二次元座標を忠実に拾うのが難しくなる。

だいぶ前から経験的にそれが分かっていたのだけど、前に言及した『脳の右側で描け』という本はそこを「Lモード」、「Rモード」という言葉で分かりやすく説明している。

もっとも40年も前の科学的知見に基づく本だから今では厳密にはあまり正しくないかもしれない。しかし、実感として、脳の情報処理モードに「Lモード」と「Rモード」の2通りがあるのはなんとなく分かる。

輪郭については、とにかく背景と人物の境界に着目し、まず両肩の幅を抑え、次にそれを底辺として、頭の位置がどのあたりかというのを抑える。幅と高さが掴めればプロポーションが大まかに分かる。あとは左右の境界線の微妙な凹凸を目で追い描いてゆく。

もちろんXYプロッタのように正確になぞるのは無理。場所を把握できた点を紙に打って、さらに違う場所を把握して、を繰り返して輪郭を描いてゆく。

アウトラインができたら中を埋めていく。

服の袖の皺などは位置をつかみやすいので早めに描いていく。帽子もアウトラインがつかめれば、相対的に内側の境界線も見えてくるのでそれを描く。

髪の毛はアウトラインを構成する部分を先に描いて、次に肩に落ちるところを描いていく。肩のどの位置に髪がかかっているのかをできるだけ正確に抑える。帽子と髪の間に顔があるので、これらが正確なら顔も正確に描ける。

帽子のテクスチャを書き込んだり服のニットの線を入れたりして適度に頭を休めつつ、髪の毛を細かく描いていく。

前髪の下端と、左右の顔との境界は顔の輪郭に対して「ネガのスペース」なので、髪の形をじっくりみてできるだけ正確に描く。

「ネガのスペース」とは、『脳の右側で描け』でベティ・エドワーズ氏が使っている言葉で、「ポジのフォルム」の補集合。顔本体が描こうとするもの=ポジであり、そのフォルムを描くのだけど、「ポジのフォルム」の境界は補集合である「ネガのスペース」の境界と等しいというのがこの本の主張。

補集合を押さえれば残りが集合なわけで数学的にも正しい。

ということで、図のように、前髪の下端と、髪の左右の形を正確に把握して描いてゆくと徐々に顔の輪郭が形成されてゆく。

左右の端部ができると、顎がどの位置かも見えてくるので描く。この際は襟との間に描かれる首の形が見本に似るようにする。首もまた顔に対する「ネガのスペース」として機能する。

顔の輪郭ができたら、あとは見本を見ながら目鼻を描いていけばできあがり。

ネガのスペースを形作っていく間に輪郭が正確になり、絵の中で顔がどのように位置しどこを向いているのかがつかめてくるので、顔のパーツはあるべき位置に自然と収まる。

とはいえ、「あるべき位置」が見えるようになるには経験が要ると思うので、輪郭ができたら眉の位置を抑え、口の位置にあたりをつけ、上瞼の線をじっくり見て同じになるように描き、というふうにパーツの細部ごとに描いていくのが初歩の練習だと思う。

なお、写真にもあるように、この大きさの顔だと顔パーツは「大人の鉛筆」の芯の下にかくれてしまう。なので、顔パーツをらしく描いていくのは本当に経験と勘の世界。唇の間から覗く歯、瞳の上のハイライトなども、芯の下で見えないところに力加減で描いていく。

もちろん、慣れない人は、鉛筆の芯を研いでシャープな状態で描くことをお勧めする。

芯が丸い状態で力加減だけで描くというのは研ぐ手間を惜しんでいるにすぎず別に偉くない。

なお、実はビギナーに特に難しいのは鼻ではないかと思っている。鼻は顔の真ん中で盛り上がっているし、下に穴が2つある。ところが、鼻の立体感を鉛筆で書き込んでいくと、特に若い女性の顔は容易に破綻してしまう。

鼻の立体感を意識しながら、写真で見える鼻の穴をピピっと描いて、端の谷の線をちょっと足して、目の間に鼻筋を少し描いて、それ以上描かない、というのがこの絵で発揮した鼻スキル。

リアル人間は参考とすべき写真があるからいいが、二次元の美少女の鼻はどうあるべきか、は非常に難しい。「忘れ鼻」という、見た後に印象が残らないのが美人の鼻であると昔から言われる。しかし、目鼻立ちが整っていることが美女の条件であるなら、鼻の描写から逃げるわけにもいかない。二次元美少女の鼻はずっと取り組んでいる答えが見えない課題。

現代は写真が容易に手に入る。美術の先生は立体物のデッサンを勧めるかもしれないけど、目標が2次元美少女なら立体を直接見て絵にすることにさほどこだわることもないかと思う。もちろん機会があれば立体のデッサンに取り組むのもいいけど、アトリエに行く機会がないような場合は、手近な写真を模写する方が、何もしないよりずっといいと思う。

デッサンについて話せることは以上。

なお、自分はきれな線は描けないので、イラストや漫画の「ペン入れ」に関することはお話しできない。次にイラストについて語るとしたら多分彩色のことになると思う。

(その後液晶タブレットを導入して、ようやく普通に線が描けるようになった。板タブは手元が見えないので線が伸びる方向が分からず、きれいに線が引けなかったと判明。ただし、今も線はそれほど得意ではなく、ほぼソフトの手振れ補正に頼っている。とはいえ、「長い曲線は一度に引かず継ぎ足して引く」等のノウハウは持っているので線のブレが目立たないようにはしている。いずれにしても自分の絵では「きれいな線」の優先度は低いので解説記事は書く予定はない)