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弧状列島はなぜ弧を描くのか

アリューシャン列島や千島列島、沖縄諸島など、大陸の縁にある列島は弧を描いていることが多い。日本列島が曲がっているのもこれと同様。

それがなぜなのか特に気にすることもなかったのだけど、『日本列島100万年史』という本を読んだら以下のようにあった(位置No.148)。

 プレートは球面上の湾曲した板(求殻)ですが、この板が面積を変えずに、そして、裂けたり割れたりせずに地球の中に沈み込にでいくためには、沈み込み口の平面形は弧状にならざるをえないのです。

もう一つ違う理由も書かれているがそれは省略。これが一番納得がいった。

そう、地球は丸い。丸い面は曲がりにくい。平らな紙はヘナヘナだけど湾曲させるとしっかりする。地球のプレートも同様。海洋プレートが薄いといっても簡単に曲がるものではない。

球面の地球とはいえ、プレートの沈み込む部分では円筒で近似できる。沈み込み口=海溝やその上の弧状列島が弧を描く理由は、以下のように図で示すことができる。

平面なら端部のABCと中心のA'B'C'の長さはどう曲げても等しい。しかし、断面が円弧になっているとそうはいかない。角度θで沈み込むためには、長さABC=A'B'C'となる折れ線は図の赤い線しかない。紙テープを湾曲させて曲げようとすれば確認できる。折れ線は曲面の曲がりより顕著に曲がった線になる。

で、なんとなく、列島の長さLと沈み込む角度θが分かれば、地球の半径は決まった値なので、列島の円弧の高さHは計算できそうな気がする。

これを真横から見るとこうなる。ABC=A'B'C'となるための弧の高さHを出すためには、水色で示した範囲だけ着目すればよさそうだ。

地殻の円弧の高さhの差があるとき、角度θで曲がった線が平らな線と同じ長さHとなるためには、B'から角度θ/2で伸ばした線の先にBがないといけない。なので、H×tan(θ/2)=hという式でHとhとθの関係をまとめられる。

hは列島の長さLの中心角L/R(弧度法)と地球の半径Rから以下の式で表せる。

h=R(1-cos(L/2R))

つまり、LとθとHの式は地球の半径Rとからめてこうなる。

H×tan(θ/2)=R(1-cos(L/2R))

地球儀を見ると列島の長さLと弧の高さHが簡単に計測できる。そこで、LとHと地球の半径Rからプレートの沈み込む角度θを出してみる。

対象は以下の4つの列島にしてみる。長さはGoogle Earthによる概算値。

アリューシャン列島。L=2300km, H=600km。

千島列島(カムチャッカ半島も含む)。L=1800km, H=200km。

本州(太平洋プレートとフィリピン海プレートの2つのプレートがあるが単一のプレートとして算出する)。L=1100km, H=300km。

琉球列島。L=1100km, H=220km。

θを算出した結果は;

列島 L(km) H(km) R(km) θ(°)
アリューシャン列島 2300 600 6371 20°
千島列島 1800 200 6371 35°
本州 1100 300 6371
琉球列島 1100 220 6371 12°

本州の9°から千島列島の35°まで、意外に角度にばらつきがあった。

本州は本来は太平洋プレートとフィリピン海プレートを別々に出すべき話。火山フロントが東北では海溝から300km、中国地方では海溝から400kmということで、火山フロントが海洋プレートが深さ100kmまで沈んだところにできるとすると、それぞれプレートの沈み込む角度は18°と14°になる。本州で誤差が大きいのは、本州のどこをとったら正しいカーブを把握できるのかという話でもありそう。

アリューシャン列島の20°や琉球列島の12°はいい感じの角度だと思う。千島列島の35°は深すぎる気がする。プレートが斜めに沈み込んでるという話なのでそれで弧がゆるくなってるのかもしれない。

いずれにしても、列島の背面は海洋プレートに引きずられて沈み込む傾向がある上に、折れ線が前にせり出して弧を描くことから、必然的にくぼ地=海になることが分かる。Wikipediaには「このように形成された島弧の多くが弧状をなすのは背面側に背弧海盆が発達しているからであり」と海盆があるから弧状になるみたいに書いてあるけれど、列島が弧状になることの方が海盆ができる理由となる。

ja.wikipedia.org

弧状列島の曲がり具合がこんな幾何学的な話だったというのは新鮮だった。