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水彩画メイキング

イラストはデジタルだと道具を洗ったり片づけたりの手間がなく、何度でもやり直しが効くので便利。しかし、何度でもやり直しが効く分何が正解か分からなくなったり、また、デバイスの使い勝手で思うように線が引けなかったりということが起きる。色を塗る場合はレイヤー設計という目に見えない手間も出てくる。

そんなとき気分転換になるのがアナログ。

特に水彩画は、道具はそんなにいらないし、手間もかからず、簡単に彩色したイラストを完成させられる。

こんな絵なら下絵30分、色塗り30分の1時間程度で完成する。最初は時間がかかるかもしれないが、1時間もあれば相当塗れる。

具体的にどうやるか。

まずは下絵。どんな絵を描くかをクロッキー帳やコピーの裏紙などにラフを描いて考える。

ラフなので細かいことは考えず、短時間でざっくり書く。沢山描けば次々アイデアが出てくると思うので、ネタがなくなるまで描き続けるといい。絵のそばに描いた年月日を記入しておくと、いつごろのアイデアか分かり何年かして見返すとき便利。

次に紙を用意する。お薦めはワトソン紙。この紙は丈夫で、消しゴムをかけて何回も修正しても表面が荒れない。表面の凹凸が絵にいい風合いを与えてくれる。若干色がついている普通のワトソン紙と、真っ白いホワイトワトソン紙がある。気分で使い分ければいい。

サンプルはホワイトワトソン紙。SMというサイズで小さくてすぐ描ける。大作もいいけど小さい紙に沢山描くのが特に練習になる。

鉛筆に修正の跡が見える通り、消しゴムで消しては描きを繰り返している。消しゴムは普通のプラスティック消しゴムのほかに、練り消しも併用している。練り消しは紙が痛まず、全体を薄く消せる。

別の絵だけどペン入れのサンプル。ペンは「ミリペン」と呼ばれるペンがいい。すぐ乾いて水に溶けない。色は黒が多いけど、コピックからはマルチライナーという色付きのミリペンが出ている。ブラウンやセピアを使うと人の肌がやわらかい風合いになる。ペン入れしたら消しゴムで消す。ミリペンは線の幅がほぼ一定なので、後から描き足して線に強弱をつけるのもいい。もっとも、この絵で顔の輪郭を修正したのは、後々になっても気になっている(笑)。

ミリペンはすぐ乾くのですぐ塗れる(そもそも消しゴムをかける時点で乾いていないといけないし、すぐ消しゴムをかけられる)。

絵具はホルベイン透明水彩絵の具を使っている。若い頃30色セットを買ったのがまだほとんど残っているせい。30色セットは多すぎるけど、絵具としてはホルベインを買っておけば間違いはない。

色塗りは混ぜて色を作って、水で好みの濃さにして塗る。一番色が濃い部分から塗り、乾かして少し濃い領域を塗り、次にもう少し薄い領域を塗る、とやると、最初に塗ったところは3回の塗り重ねになるので影のグラデーションができる。透明水彩の塗り方は基本こう。

また、肌色(ペールオレンジ)のように他の色と混じるとおかしい色になる場合は、先に塗る。乾けば他の絵具がにじんでこない。

なので、まずは顎の下など、肌の一番濃いところから塗り始めて、様子を見ながら他のところに塗りを進めていく。

失敗が怖いかもしれないけど、水彩は案外なんとかなる。塗り過ぎたら水分を拭きとった筆を置けば色を吸い取ることができる。筆は色を塗ることと余分な絵の具を吸い取ることの2つの働きを同時にしてくれる。

筆は中くらいの平筆と、細い丸筆でだいたいなんとかなる。面相筆があれば細かいところをもっと塗れる。平筆は広いところも狭いところも塗れて便利。なお、デジタルでは軸回りの回転の自由度がないので平筆は思うように使えない。

サンプルで分かる通り、絵具は全体に塗る必要はない。部分的に塗れば、人の目の方が勝手にそのものの色を推定してくれる。ポイントとなるところだけさっと塗ればいい。デジタルでは影やハイライトの計算が大変だけど、絵具は勘で筆を動かせばいいので、楽かどうかはさておき、短時間で終わる。

色のはみ出しも気にしなくていい。塗ってすぐならティッシュなどで吸い取って目立たなくできる。ペン入れしてあれば線画の方を正しい線と脳が認識するので色にじみは気にならない。多少のにじみや塗り残しはむしろ水彩画の味と割り切った方がいい。

肌色(ペールオレンジ)は、カドミウムイエローとクリムゾンレーキを混ぜて水で薄めたもの。この2色で簡単に作れる。もっと複雑だったら水彩画はやめていたかもしれない。

黒は黒の絵具があるけど、昔読んだ本にバーントアンバーとウルトラマリンを混ぜて作る方がいいとあったので、おおむねそうしてる。サンプルで制服の上着が緑っぽいのは、黒をバーントシェンナーとコバルトブルーとクリムゾンレーキで作ろうとして緑に傾いてしまったもの。反省してスカートや靴下はバーントアンバーとウルトラマリンの合成の黒の濃度を調整して使っている。

背景の草の葉はグリーン系の絵具と茶色系を混ぜて彩度を落とした緑。アナログとはいえ色を作る基本はデジタルと同じ。HSVの色空間を意識して、狙った色になるように絵具を選定して混ぜる。

顔料を使った透明水彩絵の具は中間色が豊富で、絵具をそのまま塗れる場合も少なくない。かなり派手な色も薄めれば彩度が落ちるのでそのまま塗れる。あと、色合いが気になる場合は乾いたら違う色を重ねられる。例えば瞳など、茶色系でベースを塗ってから、瞳孔などの色が濃い部分を青系で塗るという方法もある。青と茶色は補色なので黒っぽくできる。

水彩絵の具は白の絵具で白いところを作るのは大変なので、白い場所は基本、紙の色を塗り残して表す。瞳のハイライトなんかもそう。不思議なもので、色がついているワトソン紙でも、周囲の色の加減で塗り残したところが真っ白に見える。こういう錯覚を利用した表現は面白い。

で完成。劣化を防ぐため裏表に定着液を吹いてます。

水で絵の具をにじませるとか、赤のスカーフは黄色を下地に塗っているとか細かいテクニックはともかく、彩色は30分ほどで完成した。デジタルでもここまで短時間というのはそうそう無理。モニターばかり見ていてつらいときはぜひアナログへ!

なお、ホワイトワトソン紙は今回使い切ったので、真っ白い紙は水彩画専用の紙を買ってある。どんな絵になるか楽しみ。