DCレンズは話題になることは少なくないと思うが、実際に持っている人は少ないと思う。135mmの単焦点レンズの需要はあまり高くない。値段が同じなら80-200mm f/2.8を選ぶのが普通だ。
80-200mmは需要に応じてモデルチェンジを繰り返し、70-200mm f/2.8になってZ用のレンズも出て値段は30万円コースにまで高くなったが、それでもこっちが数多く売れている。
DC135mmは少し前までカタログに載っていて、Gタイプより前のニッコールレンズが一斉にカタログ落ちしたときに旧製品になった。フィルムカメラの時代のレンズがデジカメの時代までこんなに長く生き残るとは思わなかった。
ここまで長寿モデルになるという予測はなく、ただ、80-200mm f/2.8よりちょっと安くて、それなのにf/2と明るく、ボケ味コントロールという機能も面白そうだったので、1996年にこのレンズを購入した。
https://www.nikon-image.com/products/nikkor/fmount/ai_af_dc-nikkor_135mm_f2d/
レンズの断面図が特徴的なので、これもこのレンズを選んだ決め手の一つ。ガウス変形タイプ。ツァイスならプラナーと名付けるようなレンズ。
詳しいことは下記に書かれている。
望遠レンズで二線傾向の固いボケを改善する方法は2通りあって、1つは、アポダイゼーションフィルタで外側を通る光を削る方法。ミノルタ(ソニー)とキヤノンが採用。もう一つがニコンの球面収差を可変とする方法。おそらく知的財産権の関係でこちらに追従者はいない(知的財産権の期限が切れたようなタイミングでキヤノンがSAコントロールリングを備えたRF100mm F2.8 L MACRO IS USMを発売)。
ニコン方式の利点は多く、まず、開放f/2の明るさをそのまま使える。ボケも小さくならない。ボケ味の調整は可変にできる。球面収差の調整を過剰に行うと像がにじむため、ソフトレンズとしても使うことができる。
欠点はDCリングを調整するとピントが移動するので、最適なピントはAF任せではなく微妙に調整する必要がある。一眼レフではボケの調整結果はファインダーでは分からないので、効果は試し撮りで確認しなければならない(そうでない場合は勘でやるしかない)。
もっとも、DCリング中立の状態でボケ味に問題がなく、DCリングを積極的に使おうというモチベーションが出てこないところが一番の問題かもしれない。
ニッコールレンズで開放f/2は珍しくないが、望遠レンズはテレセントリック性が高いので、後玉の枠はギリギリまで厚みを削ってある。CPUレンズなので接点の分だけは厚みが残っているが、これがボケの形に悪影響を及ぼすことはない。
なお、一番最後のガラスはレンズではなく保護フィルター。
防湿庫を入手するより15年も前に買ったので、不覚にもレンズにケナガコナダニが入り込み盛大にカビが生えるということがあった。メーカーに清掃してもらったが、しばらくしてまたカビが生えてしまい、その結果がこれ。ボケに微妙に穴ができてしまった。
再度カビ清掃を依頼してその結果がこれ。ボケの穴はふさがった。
カビは焦点にある画像にはほとんど影響しないが、ボケなど微妙なところで悪さをする。非球面レンズも、表面の加工精度が悪いとボケを形成する光があらぬ方向に飛んでしまいタマネギボケを生じさせる。ボケまで含めて写真表現なので、レンズの品質は解像度だけでは語れずとても奥深い。
ボケの輪郭が青っぽくなっているのは、このレンズがEDレンズなどを使っていないため。フィルム時代はこれでOKだったが、デジタルの時代には厳しい。使いようによってはパープルフリンジが出る。
このレンズの最大の用途はモデル撮影会なのだけど、ニッコールクラブの撮影会で撮影したモデルさんの写真はネットに上げることができないので、それ以外の写真を作例で出すことにする。
35mmではこんな何でもない風景も、明るい望遠レンズで撮ると;
こんな感じ。f/2.8は大三元ズームだと開放だが、このレンズは1段絞ってあるので、周辺光量落ちやぐるぐるボケは目立たない。
開放でDCリングを目いっぱい回してソフトフォーカス化した写真。後ボケが2線化してるのでF側に回したのだと思う。
人物を撮ったらどうなるかはこういった写真で想像してください。
望遠レンズは不要なものはどんどん切り落とせるので、スナップが楽しいのは確か。
なんでもないものからも意味ありげな写真を切り取ることができる。
単焦点の望遠レンズを買ったことはとてもよかったと思う。安いレンズではないが25年も使ったら高いも安いもない。そして今後もまだまだ使えると思う。