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自動運転バスに乗ってきた

茨城県境町は2020年から自動運転バスを試験運行している。

www.town.ibaraki-sakai.lg.jp

当初は平日のみであった上に、新型コロナウイルスの時期であり、地元民以外の乗車は予約が必要となって、なかなか乗ってみる機会がなかった。

正月休みなら平日にも休みをとってあったので行ってこようと思った。実は昨年から土日の運行も始まっていたとは知らなかった。

www.itmedia.co.jp

詳細は例えば上記などが詳しい。

自動運転バスは羽田の方で敷地内の運行が始まっているが、一般道を走る自動運転バスの定期運行はこれが日本初。試験運用なので無料で乗れるが、今後も無料で続けられるようビジネスモデルを検討しているという。

まさかそんな尖ったプロジェクトがうちの近くで進められていたとは。道の駅さかいが当初トイレと小規模な売店だけだったのが、いつの間にか人がたくさん来る観光地になった。新鮮で安い野菜を売るだけではなく、地ビールや沖縄の物産も売っている。境町はただの地方都市と何かが違う、という予感はあるにはあった。しかしまさかここまでやるとは。

とにもかくにも道の駅さかいへ。

大通りを市街地の方に歩き、反対側の駐車場まで行くとバスの発着場。自動運転では大通りに出るのが難しいので、こちらから交通量の少ない道に出ていく。

自動車の自動運転は、決まったコースを走る、障害物をよける、車庫入れをする、という程度のことは今や楽勝でできる。問題はレベル3以上の自動運転を社会に受け入れるための法律の整備やシステムの構築。そういったものを実現して自動運転バスを「当たり前」にするためには、実証実験をどこかで誰かが行わなければならない。

境町では、今のところ、職員が必ず1人以上乗車して運行している。上記記事にあるが、信号にシステムを組み込む余裕がないため、信号の停止・発進は人力でやっている。運転席でもあるのかと思ったらそうではなく、写真にあるゲームパッドで操作していた。操舵は完全に車任せということになる。

車両は基地から常時遠隔モニターされていて、そこには二種免許を持った責任者がいる。車両の方の人は二種免許は不要と思われ、仮に、「職員が同乗していなければならない」というルールに落ち着いたとしても、有人バスよりもずっと人員を確保しやすくなる。当面は、完全無人より誰かがいた方が利用者も安心できるかもしれない。

車内はこんな感じ。前後に対面で4席、4席、壁にジャンプシート3席の11人乗り。このうち1人か2人が職員なので乗客は9~10人。座席は後ろ向きの場合はベルトなし。前向き、横向きの座席はシートベルト必須。最高速度20km/hにもかかわらずそれだけ安全に念を入れている。

車内はキャビンをまたぐ太い鉄パイプがむき出しになっている。ソフトパッドで覆っていないのは車が低速だからだろう。

ここで気がついたが車体はモノコックではない。おそらく電池とモーターと足回りが組み込んである台車の上に鉄パイプのアーチを渡し、自動運転と空調の機器を納めた箱が屋根として乗っている。鉄パイプはキャビンを守る役割もできる。そういう構造。

20分ほどで終点シンパシーホールに到着。

バスと、降りて待機所に戻る職員。

車両はフランス製のナヴィヤ・アルマ。自動運転を前提とした電気自動車。

www.macnica.co.jp

本物を見て気がついたのは路面電車のような前後対称のデザイン。その気になれば前進・後進を柔軟に切り替えられるのかもしれない。また、前後対称であれば左側通行にも右側通行にも簡単に対応できる。出入り口を歩道側に設定してから前後を決めればいい。

前後対称ではあるが、駆動輪がどちらかはよく分からない。確認できたのは4輪操舵だったこと。

自動運転か、手動でもゲームパッドで運転するので、ドライバーには車体の操安性をハンドルで確認する機会はない。サスペンションは乗り心地だけを考えればよく、直進安定性などその気になればプログラムでどうにでもなる(実際にどういう設計になっているかは不明)。自動運転の自動車は人が運転する自動車とは根本的に違う乗り物になりつつある。

シンパシーホールの停車時間は数分で、すぐに折り返しになった。乗客はわずかで、興味本位で試乗することは特に問題ない感じ。むしろ歓迎されていて、ピンバッジとシールをいただいた。

そして、川岸の駅さかいバス停でもうひとつの路線の自動運転バスと遭遇。

道の駅さかいに到着。テールランプが作りつけなのでこちらを前には変更できない。

こちらが前側。何もかも自動なようでいて、窓の中の行き先を示すボードは手作業で交換していた。社内の装備品も手作り感があった。こういったところはまだまだ試作品。

環境問題などから電気自動車が注目されているが、電気自動車と自動運転が進歩した先には、MaaSの普及により人が自動車を保有しなくなるという未来まで見通せる。個人が自家用車を保有するということそのものが環境に対する大きい負荷で、動力が化石燃料か電気かというのはそれに比べると大した違いではない。電力が火力発電だったりしたらなおさら。そんなに環境に負荷をかけなくても、人はいつでも、好きな場所に、簡単に行ける世界が来るはずだ。

そんな未来の入り口がちょっとだけ見える試みが、この自動運転バス。