先の大戦をどう呼ぶか

「太平洋戦争」は敵性語だから使うなという主張がある。


 大東亜戦争を太平洋戦争に言いかえさせたのは占領軍アメリカ。日本人は、それを喜々として受け入れ、「日本はアメリカ(+イギリスなど)と戦い負けた(日本は中国と戦っていたんですかあ〜〜?)」という認識を成立させた。「太平洋戦争」のことなど知る必要はない。太平洋戦争ではなく、アジア太平洋戦争あるいは括弧付きの「大東亜戦争」だったのだ、と知ることからしか何も始まらない。

左の人が軍事を語ると右端に突っ走ってゆく現象はよくあるが(非武装中立をかかげる人が国防の必要性に気付くと徴兵制を主張するようになる)、これもそういったことの一つだろうか。「日本は先の戦争でどの国もやらないような凄まじく悪いことをしました」というのは偏狭なナショナリズムの一形態なので不自然なことではない。

私は学校で「太平洋戦争」として教わったが、その際、戦勝国中華民国が入っていることも教えられた。呼称にどういう意図があろうと、あの戦争で中国戦線を隠蔽するようなことは特段行われていないはずだ。

逆に、日米が戦ったことも知らないようなら「大東亜戦争」という言葉を教えてもそれで急に中国戦線に思いをいたすこともそうそうなかろう。

また、「大東亜戦争」が中国戦線も含む概念だとしても、依然として「日華事変」とは別の戦争だ。「大東亜戦争」に含まれる中国との戦いは真珠湾攻撃以降の分だけであるから、「大東亜戦争」という用語を使っても日本と中国の戦争の全てを表すことにはならない。

一方、「太平洋戦争」は英語の「Pacific War」の和訳であると同時に、日本海軍が提唱した呼称でもある。そして、日本が戦争計画に基づいて真珠湾に先制奇襲攻撃を行い始まったこと、苛烈な戦場が主に西太平洋だったことをよく表している。

このため、私は「太平洋戦争」という呼称を使うことにしている。「大東亜戦争」では事実としての戦いの様相よりも、政治的意図に重みがありすぎる。多分に別宮暖郎氏の影響も受けてのことでもあるが。


また太平洋戦争は海軍を中心とした作戦計画の発動で開始された。誤った同盟観に従った日本側の予防戦争すなわち侵略戦争である。

<略>

また陸軍の主張により日華事変を含む太平洋戦争を大東亜戦争と呼ぶことが政府決定されたが、太平洋戦争は誤った同盟観に基づいて第2次大戦の一部として開始されたもので、これによって日本がヨーロッパ戦争を世界戦争にしたものである。日華事変とは直接の関係を有しない。従って被侵略国のアメリカ・イギリスの呼称太平洋戦争がより正しい響きをもつ。真珠湾以降決戦は全て太平洋のうち、または縁辺部で戦われた。

上記引用文の原典にもあるように、日華事変は、中華民国が戦争計画に基づいて日本軍を攻撃した第二次上海事変から始まった。通説のように盧溝橋事件が発端だとしても、銃撃したのは共産党だというのが今では知られている。いずれにしても、日本が中国の戦争に巻き込まれたというものなので、日本がしかけた侵略戦争である太平洋戦争とはまったく性格の異なる戦争である。

日華事変と太平洋戦争は分かち難い縁で結ばれているが、決して同じ戦争ではない。

一般に太平洋戦争は「第二次世界大戦」の一部と考えられているが日華事変はそうではないこと、東京裁判でも日華事変に関しては「平和に対する罪」が問われていないことなどにも、両者の違いが現れている。蒋介石の「以徳報怨」も単純な日本=加害者論では理解不能だろう。