液冷戦闘機「飛燕」

渡辺洋二氏のドキュメント。何度か形を変えて出版され、今度の版は文春文庫から。そのたびに改稿され、内容が充実してきているとのこと。特に本書では「飛燕」と五式戦の戦いぶりが詳しく記されている。

逆に、メカに関する描写は少しあっさり。

あっさりなのはかまわないが、少し妙なところがあるので2点ほど指摘したい。

まず液冷エンジンの冷却について(P.11)。

 そこで、二つの冷却方式が考えられた。一つは、エンジンの気筒を飛行時の高速の空気(プロペラ後流を含む)に当てて冷やす、空冷方式。もう一つは、気筒を液体で冷やし、過熱によって蒸気化したその液体を、ふたたび外気で冷やすために、別に冷却器を設ける、という液冷方式である。

液冷エンジンは普通、冷却液は沸騰させない。液体の状態でエンジンを通して温度を上げ、その熱を冷却器で空気に伝えて冷却する。なお、液冷エンジンの冷却液は特別な液体ではなく、水に不凍液としてエチレングリコールを混ぜたもの。今の自動車の水冷エンジンの冷却液と基本的に同じ。なので、「液冷」は「水冷」と言っても差し支えない。そして、「飛燕」は普通の水冷エンジンなので、冷却液は沸騰させない。

冷却液を沸騰させ、蒸気を主翼の表面などで冷やして水に戻すという形式は特殊なもので、川崎では後に開発したキ64試作戦闘機で採用している。

次に冷却器について(P.68-70)。

 まず、キ六〇で問題になった機首下面の滑油冷却器を、水冷却器と同じ拡散型(吸入した空気をそのまま後方へ排出する)とし、水冷却器と一体にして胴体下部中央に置くことにした。左右に水冷却器を置いて滑油冷却器をはさむ形になったが、これは寒冷地対策のためだ。すなわち、エンジン始動には滑油が暖まっている状態が必要で、それを左右の水冷却器の温度で得ようとしたわけである。

括弧でくくられた拡散型冷却器の説明がこれではなんだかよく分からない。

キ61の冷却器は、吸入口の後ろで急に流路の面積が拡大され、最大面積のところに冷却器があり、その後また面積を絞って、狭い排気口に続いている。排気口は面積が調整できるようになっている。冷却用の空気が吸入後「拡散」するので拡散型冷却器。

時間あたり同じ量の空気を冷却器に通す場合、狭い面積に高速で通すより、広い面積に低速で通した方が抵抗が少ない。そこで、吸入した空気を拡散させて速度を落とし、冷却器に当てるようにしている。これが拡散型冷却器の理屈の大まかな説明。

土井武夫氏の『飛行機設計50年の回想』(ISBN:487357014X)には、単位放熱量当たりの摩擦抵抗を低減するための工夫であることが、数式とともにより詳しく書かれている。