精神科医は腹の底で何を考えているか

精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)

精神科医は腹の底で何を考えているか (幻冬舎新書)

精神科医として飾らない本音をあれこれあらわにした本。精神科医の診察を受けている方なら面白く読めると思う。

統合失調症を中心に精神疾患とはどのようなものか。また、精神科医はどのように病気を診断し治療に当たるのか、そして何を期待すべきか(すべきでないか)、といったことも大まかに知ることができる。

精神科医はもっぱらDSMに準拠して診断をしているのかと思っていたがさにあらず。春日氏はDSMで「神経症」がなくなったことに懐疑的で、今でも神経症の診断を出しているとのこと。DSMの使用に関して次のように釘をさしている(P.81-82)。

つまり一見したところは平易で具体的だが、実は臨床経験を積み疾患の本質を十分に理解しておかなければ使いこなせないマニュアルなのである。

86ページからの「診断の基本はパターンを見抜くこと」では、実際の精神科医の診断の方法が書かれている。「医師はいちいちチェックリストに丸をつけたりスコアを計算して診断しているのではない」として、例えばうつ病には「うつ病らしさ」のパターンがあり、それを見抜いて診断する、「類型診断」を行うという。そしてこうまとめる(P.87)。

(Dr.39―患者が抑うつ気分を全く訴えなくとも、それがうつ病である可能性をきちんと思い描ける医師)

私も最初に心療内科にかかったとき、特に憂鬱だとは訴えなかったが(普段は平気で、調子が悪い時だけ泣きたくなる、といった具合)、うつ病の診断が出た。それもこのようにある種のパターンを医師が感じ取ったのだと思う。

精神疾患が「治る」とはどのようなことか、が6章、7章で書かれている。病気が「治る」ことには「風邪タイプ・大怪我タイプ・高血圧タイプの三つが大別される」(P.176-177)とある。風邪タイプとは後遺症もなく完全に病気以前の状態に戻ること、大怪我タイプとは傷痕や後遺症やトラウマが残るもの、高血圧タイプとは薬を服用するなどしてつきあってゆかなくてはならないが、「状態をコントロールし安定させ安心できるといった点からは、広義の「治る」に相当するのではないか」(P.176)というもの。そして、このように書いている(P.178)。

 精神科領域の疾患における治り方の多くは、大怪我タイプと高血圧タイプの中間ないし混合のようである。

そして、7章の前半で統合失調症を例に「治る」あり方について語ってている。

例外的に、うつ病は風邪タイプのように治るという(P.180)。

 うつ病の場合。内因性うつ病と称される典型的タイプでは、抗うつ薬で奇麗に治る。風邪が治るのに近い形で治る(たまには難治性のものもあるが)。これは精神科において珍しい。もっとも、うつ病の発症には性格や体質的なものが大きく関与するから、治ってもいずれ再発する可能性はある。ただし一年間に風邪を二度引いたからといって風邪が再発したと言う人はいないのであり(風邪を引きやすい人は確かにいるが)、同じ論法ですっきりと「治った」と言って差し支えあるまい。

 ところが、ことに最近は、こうした純系のうつ病は少ない。むしろパーソナリティ障害と見るべきであったり、途中から神経症に移行したりと、どうも医者として困惑させられるケースが目立つ。したがってきわめて治りが悪く、あるいは治ったのだか治っていないのか判然としないまま遷移していくことが珍しくない。

後半の治りにくい今風のうつ病は、気分変調症みたいなものだろうか。

自分の実感としては、寝込むような急性の不調は休養と投薬で確かにおさまり、普通に生活できるようになるので、ここにあるように「治る」と断言できるのも分からないでもない。しかし、病気になる前と同じことをすれば簡単に再発してしまう。風邪と違って、一度かかったらかかり易くなってしまうものだと思う。だから「治った」後も注意して生活しなければならない。ということは、うつ病についても高血圧タイプに近い治り方ではないだろうか。

まだ服薬しているので「あなたはまだ治ってないですよ」と言われればそうかもしれないが。であればすっかり「治る」ことも期待していいのだろうか。ここはうつ病についてもっと真面目に書いたものを参考にした方がいいのかもしれない。ちなみに『こころの科学』2009年1月号では、<うつ病は高血圧や糖尿病のような慢性疾患ととらえるべきでは>といったようなことが書かれていた。