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アカルイつうつ生活(その2)

アカルイうつうつ生活   「うつ」と上手に付き合う40の知恵 (知恵の森文庫)

アカルイうつうつ生活 「うつ」と上手に付き合う40の知恵 (知恵の森文庫)

抗うつ薬って効くの?

81ページから上記の節がある。薬に関することが書かれているわけだが、微妙におかしい。

83ページ。

 ただし……抗うつ薬には大きなネックがある。

 抗うつ効果よりも先に副作用が出てしまうのだ。

まあこれは正しい。でもこれはおかしい。83〜84ページ。

「うつうつのつらさが取れないところに持ってきて、副作用でもって一層、つらさが増すなんて冗談じゃない!」

 ということで、本来の抗うつ効果が出る前に服用をやめてしまう人もいる。

 これではせっかく治療を開始しても、足踏み状態だ。

 うつうつは治らないし、副作用の余波で体調は悪いしで、踏んだり蹴ったり。

 そこで副作用がひどい時はすぐに主治医に相談することが大切だ。漢方薬など副作用を抑える薬を出してもらい、急場をしのぐことができる。それでもやっぱり副作用はついてまわるので、最後は我慢、我慢なのである。

「我慢、我慢」などと何を患者に無理を強いているのか。

副作用がつらかったらすぐに主治医に相談する。それは正しい。そして、主治医には副作用を抑える新たな薬を追加するしか能がないわけではない。副作用がひどすぎる場合は、その人にその薬は合わないのだから、普通の医師は抗うつ薬そのものを別の薬に変えるはずだ。

例えば心療内科の医師の著作、筒井末春:『うつと自殺』の43ページにはこうある。

 <略>医師はこうした副作用を考慮して、服用開始当初は、少ない量で副作用の出方を確認する。少量でも副作用がかなり強い場合は、その患者さんにその薬が合っていないことになるので、薬の種類を変えることになる。少量でそれほど副作用が出なければ、徐々に薬の量を増やし、さらに副作用の出方をみながら、最終的に必要な量へもっていく。

 しかし、こうした不快な副作用があってのむのがつらい場合でも、服用を勝手にやめるのではなく、医師に相談することが大切である。副作用がつらいことを率直に言うべきで、それに対する医師の説明が不十分な場合は、納得するまで確かめるべきである。副作用の少ない薬が開発され、徐々に日本でも使えるようになってきており、必ず自分に合った薬がみつかるはずなのだから。

医師が我慢せずに納得いくまで相談してくれと言ってるのに、「我慢、我慢」と言ってのけるジャーナリストはいったい何なのか。患者が自分に合った薬にたどり着くのを邪魔してどうする。

この節はまとめもおかしい。85ページ。

 しかし、繰り返すが、抗うつ薬はうつの特効薬ではない。

 抗うつ薬だけで治る人もいるだけに効果は認められるが、大半の人は薬だけでは完全にうつを治すことはできないと考えたほうがいい。認知療法などの心理療法や生き方、価値観の再認識など、薬以外の自助努力なしにはうつうつは晴れない。

 藁にもすがる思いのうつ患者にとっては、抗うつ薬は救いの神だ。それでも抗うつ薬だけ飲んでいれば十分、ではないと心得ておいたほうがいいだろう。

うつ病の入門書をもう一回読み直せと言いたい。

うつ病治療の基本は「服薬」と「休養」。認知療法云々はある程度以上「うつ」が改善してから取り組むべきもので、急性期の重いうつ病の症状を緩和するには何よりもまず休養が必要であり、同時に抗うつ薬などの薬を処方する。休養と服薬を続けていれば、多くの場合は「月」の単位の日々を過ごすうちに気分が改善され、「うつ」に苦しむことは少なくなるはずだ。

前述の『うつと自殺』では、25ページに、「うつ傾向」の診断書を医師から出されたにもかかわらず、教育委員会から休職が認められなかったため、休養に入れず、ついに自殺してしまった学校の校長のエピソードが出ている。休養させずに、抗うつ薬の処方だけで「うつ」を改善させるのは非常に難しい。

少なくとも、私は「抗うつ薬だけで治る人もいる」という例を知らない。

症状が軽くなってきた後は、抗うつ薬は「症状の緩和」のためというより、再発防止のために処方される。仕事に復帰できるようになっても、抗うつ薬の処方は数年に及ぶ場合がある。

この状況をもって、「薬だけでは完全にうつを治すことはできない」と認識すべきだろうか? そもそも「うつ病が治る」とはどういうことか。「うつうつ」が晴れ、笑ったり喜びを感じられるようになればいいのか。以前と同じように仕事をバリバリできるようになるまで「治った」とは言えないのか。非常に難しい問題ではなかろうか。それを議論することなく、簡単に「薬だけでは治らない」などと結論づけるべきではないだろう。

そして、治りたいと願って医師やカウンセラーに休養、服薬、仕事の進め方や生活習慣、認知の癖の改善などの指導を受けている人が、「抗うつ薬だけ飲んでいれば十分」などと考えているだろうか。この節で上野氏が想定している読者は、うつ病患者の中核をなす人々ではないように思える。

なお、最近の研究では、薬でセロトニンなどのモノアミンの増強を図ると、脳の神経細胞の突起の再生をうながす効果があるのではないかと言われている。これが事実なら、抗うつ薬は対処療法というより、うつ病の原因である脳の障害を改善する、根本的な治療薬と言えるかもしれない。

奇妙なのは、「抗うつ薬って効くの?」の次の節が「休めといわれても休めない理由」であること。86ページ。

 どのうつに関する本を読んでも、あるいは医師からのアドバイスでも、うつの治療では抗うつ薬の服用と休養が基本、ということになっている。

実は分かってるじゃないですか。

この本では上野氏は、「抗うつ薬だけ飲んでいれば十分」、「うつは薬で治る」と考えている、存在しない敵を勝手にでっちあげ、それを否定してみせる形で、「抗うつ薬って効くの?」という節を書いていたことになる。

これは藁人形論法と言い、あまり褒められたやり方ではない。

後に上野氏は『うつは薬では治らない』を書くことになる。「うつ病が薬だけで治るわけないだろう、何を今更」と、買うとき率直に思った。

続きます。