- 作者: 上野玲
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/05
- メディア: 新書
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SSRI現象
「第二章 もしかしてうつ? さてどうするか」は特にツッコむところはない。
「第三章 知らないと危険! 抗うつ薬の真実」がこの本のハイライト。
1999年、日本でSSRIが認可されてからうつ病患者が急増した。その背景には製薬会社のセールスプロモーションがあった! ということを書いているが、基本的にこの部分は、上野氏の独創ではなく、冨高辰一郎:『なぜうつ病の人が増えたのか』という本の内容の紹介。
上野氏が独自に追加したのはこれぐらい(P.121, P.122)。
ある精神科医はこんなことを言っていました。
「反社会性人格障害、という疾病がありますが、これは昔なら単なる『非行』ですよ。このように、人間の感情があるところ、あまねく疾病有り、というのがDSMの操作的判断基準です。精神疾患の国際基準を作って、治療の効果を上げるというのが、DSMを細分化する理由づけになっていますが、疾病が増えれば、それに対処する薬が必要になる。つまり、DSMの細分化は、製薬会社とそれにつるんでいる医師のメリットでしかないのではないでしょうか」
薬を売るには病気を作れ。これが製薬会社のセールスプロモーションに隠された本当の目的です。<略>
効かない薬も、疾病がある限り、投与される。むしろ、効かないほうが、長期の服用が続いて、売り上げは伸びる。
こんなことが許されていいのでしょうか。
人格障害を簡単に「疾病」と言い切っているので、上野氏が取材した医師についてあまりいい印象は持てない。「病的な個性」と「病気」とは同一とは言えないだろう。もし当該の人が犯罪を犯した場合、反社会性人格障害は心神喪失とか心神耗弱とかの対象にはならなかったと記憶している。
とはいえ、「非行」とか、色々困った人格を「障害」と呼ぶのは別に薬が売りたいどうこう以前に、医療の現場で障害の改善が見込めるような状況になってきていることを表しているように思う。薬で改善できるなら薬を使うだろうし、他にも色々なアプローチがある。新書レベルだが岡田尊司氏のパーソナリティ障害の本を読むと、医師の立場から人格障害は克服できるものだと書かれている(どれくらいの率で成功するかは書かれていないが)。
人格障害の概念と診断基準の成立をもって「製薬会社とそれにつるんでいる医師のメリットでしかない」と言い切るのはかなり乱暴だと思う。
「効かない薬」というのは抗うつ薬のことのようだが、参照している『なぜうつ病の人が増えたのか』には「効かない」とまでは書いていないし、再発防止に効果があるのではとも書かれている。だいたい当人が116ページで書いたこととも整合してない。
うつの症状が重症で、<略>の患者には、それなりの効果があると認められるが、現代社会で問題になっている、「これってうつかな?」程度の人には、抗うつ薬は意味がないということになります。
医師は、最初から症状が軽い人、症状が軽くなってきた人には、抗うつ薬の投与をやめるようにすれば、上野氏も「こんなことが許されていいのでしょうか」とは言わないということだろう。軽症の人にもだらだらと抗うつ薬を処方することを批判しているわけだが、だからといって何の前置きもなく「効かない薬」と言い切るのは乱暴だ。
製薬会社が患者会を支援
これも上野氏独自の部分か(P.98)。
私は「うつコミュニティ」といううつ患者と家族の自助グループの企画・運営支援をしていますが、常日頃、新聞や雑誌、あるいは単行本で抗うつ薬の批判をしているので、ついぞ製薬会社からお金をもらったことはありません。しかし、他の患者会と称しているものの中には、製薬会社が湯水のようにお金をばらまいているものもあるそうです。
「うつコミュニティ」も設立当時製薬会社の支援を期待していたことは華麗にスルー。
609 :608続き:03/09/27 00:20 ID:/rpZqIKN
なまえ:うつコミュニティ事務局 2003/9/26<金> 09:17:43/性 別/年 齢うつコミュニティの活動には資金が必要です。そのために私たちは製薬会社
http://mimizun.com/log/2ch/utu/1050159016/
(例えばグラクソ・スミスクライン、藤沢薬品、ヤンセンファーマ)に
協賛金の御願いをしています。
しかし、それがそんなにいけないことなのでしょうか。
私は私費を300万円以上、投じています。なおかつ、4月の活動開始以来、
無給です。それはすべて協賛金を得られた時に精算する予定があるから
できることで、なにも私は大金持ちではないし、むしろ経済的には厳しい状況
にあります。それでも私たちにはお金を得てはいけないのでしょうか。
製薬会社はいろいろと協賛金の話を先延ばしにして、
払ってくれる様子があまり見られません。
つまり、抗うつ薬を飲みましょうと私たちが訴えても、
薬を売って儲けるのは製薬会社で、製薬会社は私たちが財政的に破綻しても
知らんぷりをするつもりなのでしょうか。
そうなればせっかくここまで育ってきたうつ病患者と家族の会がまた日本から
なくなってしまいます。
それでも製薬会社は構わないと考えているのでしょうか。
どうか、うつコムを本当に必要とされている方がいらっしゃったら、
上記の製薬会社にうつコムが必要であることを
メールでアピールしていただけないでしょうか。
はっきり言って、私の貯金ももうありません。
うつコムを続けていくためには、
私が死んで生命保険で充当すべきとお考えですか?
こんなログがずっと残っているのだから、ネットというのは怖いなあ(棒)。
SSRIの副作用
SSRIの恐るべき副作用は、主に以下の二人が情報源になっている。
- 青森の薬剤師の石田悟氏(本人に会って取材)
- デイヴィッド・ヒーリー氏(著作を参照)
さすがに生田哲氏のように「凶悪事件の犯人がSSRIを服用→SSRIは危険だ!」という短絡はない。
基本的には、石田氏の考えをそのまま文章にしているようだ。
これに加えて、著者本人の経験として、こんなことを書いている(P.105-106)。
私もかつてはSSRIを飲んでいました。石田さんの取材をした後、自分の過去を振り返ってみると、そういえば、と思い当たる点がいくつもあります。
ある時、突然、怒りがこみ上げてきて、電話で怒鳴りつけるといった蛮行をしたこともあります。また、衝動的に買い物をしてしまい、月末に支払いで困って後悔することが何度もありました。時間が経ってみれば、別に急いで買う必要のない物だったにも拘わらず、買わないといてもたてもいられない焦燥感に耐えられなかったのです。その時は、自分の乱暴さに呆れるだけでしたが、こうした過去の自分を思い出してみると、「なんで?」と自分自身、理解できないのです。
以来、SSRIは怖いと思って、主治医に相談した上で、投与をやめてもらいました。そのおかげかどうか、最近はカッとなって暴力的になったり、衝動的になったりすることがほとんどなくなったように思えます(もちろん、腹を立てることはあります。<略>)。
突然ジャーナリストをやめると言い出して熊本に働きに行ったり、一月ほどで帰ってきてやっぱり本出すとあれこれ企画出したり、取材になかなか応じない看護師をtwitterで侮辱したり、amazonほかネット上の自著の批判に攻撃的にコメントを書いたり、twitterで死ぬ死ぬ詐欺やったり。で、最後の方で残したつぶやきがこれ。
utsunekotei「うつ認定看護師」たちによって、今夜、うつ患者(正確には元・うつ患者と現在うつ患者)が二人、自殺未遂をします。それが「うつ認定看護師」及びその認定資格を出している協会の「究極の使命」なのでしょう。いかにうつ患者を殺すか。この研鑽を日々、彼らはしているのかもしれない。
http://viratter.jp/utsunekotei?max_id=28995679581&page=2
10/10/28 18:36
意味不明だが一種の脅迫とも読める。
SSRIをやめても、この人の行動はあまり改善されていないように見えるが、本当に薬の副作用だったのだろうか。
なお、私を診てくれている先生は「とりあえずSSRI」ではなく、診療開始から一ヶ月様子を見てからSNRIを処方してくれた。そして、半年ほど後に、「頻脈」の副作用があるのを気にしてSNRIの処方をとりやめた(あとは副作用は軽い便秘ぐらいで、怒りっぽくなるとか心理面の副作用はなかった)。その後は四環系抗うつ薬のルジオミールが処方された。世の中、SSRIやSNRIをとにかくやたら処方する医師ばかりではないことを記しておきたい。