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軍隊を災害救助隊にという幻想

自衛隊の災害救助について江畑謙介氏の言葉を紹介したい.

江畑謙介:『こうも使える自衛隊の装備』(ISBN:4890631054).


 よく自衛隊を災害支援専門部隊に改編しろとか、平和維持活動専門組織にせよという主張がある。これは世界の現実から見て、間違っていると断言できる。

<略>

 もし、陸上自衛隊を土木建築を専門とする組織に改編したらどうなるだろうか。このような組織は、その技術を維持し、隊員を訓練しておくために、常に何らかの土木建築作業を行なっていなければならない。それは民間土木建築産業を圧迫するだけではなく、その能力が必要な場合は、ただちにそれまで行なってきた作業を中止して、いつ戻れるか分からないままに、災害地や平和復興を必要としている場所に派遣されてしまう。道路を造っていたら、その工事は中止になったままである。逆に堤防工事を行なっている時には、すぐに別の場所に行けと言われても、ある程度作業を完成させなければ、その場所が洪水の危険に見舞われる場合もあるだろう。そのような部隊を保有するのは不可能である。

<略>およそあらゆる非常事態を予想して、それに対応できる能力を持っているのは軍隊であり、そのような組織を「実際に使わないために」平時から維持するのが正当化されるのは、国防軍だけである。

「実際に使わないため」が基本的役割であっても、必要な時には使える能力がない限り、抑止力は生まれない。それゆえ、突発する災害や平和維持活動のような任務にも対応できる能力がある。

 だから平和維持活動には、各国が、その軍隊から、国家安全保障が大きく阻害されない範囲で供出するのであって、軍隊を廃止して平和維持活動専門の部隊や、災害派遣専門組織にした国は、世界のどこにもない。にもかかわらず、日本では災害救援専門部隊だの、平和維持活動専門部隊だのの構想が、何の疑問も持たれず、あたかも現実的な案のように論じられてきた。

1999年時点でこれだけのことが言われているというのに,自衛隊を災害救助隊にせよというたぐいの主張でこれを論駁しているものをいまだに見たことがない.彼らは自説を論理的に説明したいのではなく,単に自衛隊が,軍隊が嫌いだという感情に動かされているに過ぎないのではないかと思う.

(2004.12.11.追記)

こうも使える自衛隊の装備

こうも使える自衛隊の装備