- 作者: 岩波明
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/11
- メディア: 新書
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松沢病院など著名な病院で臨床の現場で働いてきた医師によるうつ病の啓発本。生々しい症例からうつ病が怖い病気と分かる。また、適切な治療で改善することも分かる。
ただ、近年増えている仕事のストレスによるうつ病はあまり語られず、復職のノウハウもなく、妄想を伴ったり殺傷事件を起こしたりという極端に重症な例ばかりなので(そして重症ではあるが厳密にはうつ病でない事例もある)、「休職の診断書をもらった」とかいう状態の人が読むのはちょっときついかもしれない。
高田明和氏や生田哲氏が名指しで批判されているのは笑える。
特に生田哲氏がさも怖い薬のように書いている(そしてときにメディアでも凶悪事件などとの関連性が云々される)SSRIに関しては、この本ではその副作用がどの程度のものであるか専門的な立場から解説している。副作用による自殺に関しては定量的な説明を行い、「結論からいえば、医学的な調査によれば、SSRIによる自殺関連現象の増加はごくわずかであるか、ほとんどないと言ってよい」(P.190)、「既に医学的にほぼ決着がついた問題」(P.195)としている。凶悪事件に関しては「攻撃性や衝動性に関しては現在まで信頼できる研究が報告されていない」と切って捨てている(P.189)。
彼らを支持する人からは製薬会社と結託してるのか! と言われそうだが、本書では抗うつ薬の効果がプラセボに対してそれほど高くないこと、製薬会社に不利な研究成果を発表したヒーリー氏がイーライリリー社から圧力をかけられたことなども書いてある。
余談だが、本書では、プラセボで出てくる副作用のことを「ノーシーボ効果」と呼ぶとのこと(P.82)。
副作用が多く効果が低い抗うつ薬であっても、医師が適切に使えば効果を挙げられるというのが、説得力をもって伝わってくる。うつ病バブルで世に出つつあるトンデモ系医療批判本により、医師や薬への信頼が壊れかけている方には、この本をお勧めしたい。
世相と自殺との関連の考察はそれほど傑出した感じは受けなかった。一部共感できないところもあるのでブクログでの評価は星は4つにとどめた。