- 作者: 加藤忠史
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/09
- メディア: 新書
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うつ病研究の最先端が分かり、知的好奇心を満たすとともに新しい治療法への希望がわいてくる。
分からないことは分からない、研究課題だとしており誠実な態度。
抗うつ薬の発見からモノアミン仮説の成立、セロトニンの不足を補うということだけでは説明できない抗うつ薬の作用、ストレスとBDNFの減少と神経細胞の突起の萎縮、などの脳の病気としてのうつ病の基本知識を知ることができる。
一方、実際にうつ病の患者に神経細胞の突起の萎縮が起きているのかどうかは確認できておらず、未知の領域の多さが伺える。
抗うつ薬の副作用の多さについて書かれているが、プラセボであっても副作用が生じることが書かれており、薬の作用・副作用を科学的に検証することの難しさが示されている。「ネガティブ・プラセボ効果」というそうだ。
うつ病の薬物療法について、セロトニンを薬で増やすとBDNFが増え、最終的に神経細胞の突起を伸ばすことになる、と推測されている。これが事実なら、抗うつ薬による薬物療法は「対症療法」ではなく、より根源的な治療法と言えるかもしれない。
ただしこれも、まだはっきりと確認されたことではない。
東大闘争が大学病院の精神病研究に30年の停滞を招いたとある。左翼の黒歴史がここにひとつ。精神病は存在しない。精神病は弱者を抑圧するために社会が作り出したシステムだというトンデモ理論がかつて横行していたことは記録しておくべき。
うつ病研究の発展には研究者の努力もさることながら、社会の要求も高まる必要があると著者は訴える。自殺者の多くが罹患しており、少なくない割合の勤労者が休職や失職に追い込まれるこの病気は、対策や救済の機運がより盛り上がってほしい。