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アカルイつうつ生活(その5)

アカルイうつうつ生活   「うつ」と上手に付き合う40の知恵 (知恵の森文庫)

アカルイうつうつ生活 「うつ」と上手に付き合う40の知恵 (知恵の森文庫)

はじめに

3ページ。

 私はうつを食いモノにしている。

そう指摘されて著者は落ち込んだそうだが、ライターなんだから自分の体験をテーマにして書かないわけにもいかない。そう開き直ってうつをテーマに本を書いているという。

2004年の時点では日本でSSRIが認可されてうつ病患者がどっと増えはじめた初期の頃なので、この時点でうつ病をテーマに本を書いて売っていこうと考えたのは、実は先見の明があったと言える。

そして、上野玲氏は著作だけでなく、患者会まで設立してしまった(P.5)。

 おまけに平成一五年からはNPO「うつコミュニティ」という、うつの患者会まではじめてしまった。平成一五年の夏から冬にかけて全国二二ヵ所を回り、延べにして二五〇〇名近くの参加者を得ることができた。利用料を払えば掲示板に書き込んだり、チャットができるインターネットのホームページも平成十九年秋で四九万アクセスを超えている。
 こうした活動の根幹にあるものは、やはりうつを医師や製薬会社の声だけではなく、患者の声も交えて世間に知ってもらいたい、もっともっとうつに対する理解を深めて、依然として根強い偏見や誤解を解きたいからだ。

NPO」というのは執筆時には本当で、2003年10月に東京都から認可された。

東京都内NPO法人情報 No. 3694

定款に記載された目的 この法人は、広く一般市民を対象に、社会の種々の要因によって「うつ」状態にある人達に、うつの正しい理解とその対応策を認知させ、悩みを相談する場を提供、同じ立場の人とのコミュニケーションを通じ、生きる勇気と希望をもたらすコミュニティを創造することにより、健全な社会生活環境の実現に寄与する事を目的とする。
活動分野 保健・医療・福祉、社会教育、国際協力、子ども、NPO支援
認証年月日・所轄庁 2003年10月23日 ・ 東京都
主たる事務所の所在地 世田谷区宮坂一丁目**番**号
代表者 上野 玲
認定NPO法人の認定 --
備考
http://www.tvac.or.jp/eh/each.cgi?id=100432

うつコミュニティのURLはこちら(現在デッドリンク)。

http://www.utsucom.net/

したたかなのは、「利用料を払えば掲示板に書き込んだり、チャットができる」という部分。有料サイトだったのだ。本の印税のほか、こうして収入を得ようとしていた。

患者会を純粋に立ち上げたいのであれば、サイトを設立して掲示板やチャットを無料開放すればそれでいいように思う。本でURLを紹介すれば人は集まってくるだろうし、サイトで本の宣伝するぐらいのこともかまわないだろう。

本でサイトを紹介→人が集まる→サイトで本を紹介→参加者が買う→本が増刷されて読者が増える→本のURLを見て人が集まる→…

こんないいループが成立していたかもしれない。

2008年出版の『日本人だからうつになる』にもうつコミュニティの紹介があり、私も2009年に読んでさっそくアクセスした。有料サイトだったので、2chメンヘル板で満足していた私は入会せず、単に書評にURLを記すだけにとどめた。

有料だから悪いとか言うつもりはないが、「NPO代表」という肩書きは出版社に本を売り込んだり講演会を開くのには有利だろうから、それに利用するにとどめて、サイトは無料開放でもよかったのではないかと思う(ところで上野氏の多数の著作のほとんどが出版社が別々なのはなぜなんだろう…)。

サイトは独自ドメインなどとらず、各地で患者や家族を集めたオフ会を時々やって(実際やっていた)、そこでは実費を徴収すれば活動は赤字にはならないだろう。サイトの運営費は自著やうつ病関連書籍のアフィリエイトでもある程度回収できたかもしれない。

匿名掲示板情報では、上野氏はサイトを無料開放する気持ちは十分あったらしい。ただ、支援者が見つからず、NPO設立時に投入した私費が回収できる見込みがなかったので、結局有料にしたようだ。

http://mimizun.com/log/2ch/utu/1050159016/

の#609や#620を参照されたい。

http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20101107/p1

にも引用してある。

うつ友になりませんか?

患者同士でコミュニケーションをはかることを薦める節。

当然にして患者会のひとつとしてうつコミュニティを紹介している(P.135)。

 うつ友の見つけ方は様々だが、病院単位、地域単位で行われている患者会などに参加して、身近に話ができる相手を見つけるのが望ましいだろう。

 あるいは、「うつコミュニティ」のホームページですでに行われているが、インターネットを通じて、日本各地のうつ患者同士がつらさを吐き出し、それに対してアドバイスや励ましを行う、といったIT時代にふさわしいうつ友の作り方もある。

 現状でもホームページの掲示板には様々な悩みが書き込まれ、それに対して立場も年齢も性別も違う人からレスポンスがあり、おおいに治療の励みになっていると思う。

多少の会費はかかるとはいえ、これはなかなか魅力的に見える。しかし、そんなにいいことばかりではない(P.136)。

 ただし、注意しなければいけないのは、マイナスの方向に連携しないことだ。

<略>

 インターネットも広く多くの人が匿名で気軽に利用できる、という利点はあるが、中には落ち込んでいる人を攻撃してますます落ち込ませたり、医師でもないのにあの薬は飲んだらダメだとか、こんな治療法はムダだなどと半可通な医学知識をひけらかす輩がいるから困ったものだ。

 一番懸念されるのは、リストカットやOD(医師から処方された薬を大量に飲むこと)などの自傷行為自慢をしている連中だ。

 これは言ってみれば「見捨てられ感」の裏返しで、「構って欲しい」という気持ちの表れなのだが、それを見ていると自分も自傷行為をしたくなってしまう。その挙げ句、

「一緒に死のう」

 そう誘うヤツも出てきて、実際にインターネットで知り合っただけの若い男女が集団自殺するという社会問題にもなっているのは記憶に新しい。

 うつ友は決してマイナスの方向にベクトルを向けてはいけない。

 よくなろう、楽になろう、そのために情報交換や励まし合いをしよう。

 そうしたプラス思考を前提にしたつきあいこそが、うつ友のふさわしい姿だと思う。

ネットは確かに、匿名でいいかげんなことや過激なことを言う人が少なくないが、一方では、そういう声には積極的に反論したり、荒らしをスルーしたりする知恵もある。

ネット以外の書物の世界で、実名であってさえ、「医師でもないのにあの薬は飲んだらダメだとか、こんな治療法はムダだなどと半可通な医学知識をひけらかす輩が」いるのは、紙の本だと信じてしまう人がまだ多いことと、反論の場が限られるので、むしろその方がやっかいかもしれない。

具体的には抗うつ薬の危険性について一方的な否定的情報のみ掲載し、薬物療法だけではうつは治らない、精神医療ではうつは完治しないと書いた。薬は「飲んだらダメ」とは書いてないが、普通こういう本を信じれば飲む気がなくなるし、本人は薬をやめた。なお、こんな本を書く人の科学リテラシーはこの程度。

http://togetter.com/li/55225

書物にODの経験を書く人もいる。ODを自慢はしてないが、「死ぬのは簡単である」と自殺方法の具体的な記述があるのはいかがなものか。

こう考えると、掲示板など「所詮は匿名のネットの書き込み」であり、真に受ける人は書物より少ないのではないか。要はネットというのは世間の延長で、現実から離れた楽園でも地獄でもない。

しかし、うつコミュニティの代表ないしは運営者一堂は、掲示板に「うつ友のふさわしい姿」を求めすぎた。「楽園」を求めて、掲示板を開設して程なく、強権を発動しはじめた。

ここにはその顛末が色々書き込まれている。

http://mimizun.com/log/2ch/utu/1050159016/

まずは掲示板で不適切と判断された書き込みが次々と削除された。「うつ」にとってマイナスな書き込みだけではない。運営に対する批判までも削除の対象になった。そういう行為は匿名掲示板の人たちにとってこの上ないご馳走なので、上記のログが盛り上がることになる。

そして、掲示板には厳格な使用ルールが定められた。

475 :優しい名無しさん:03/09/14 03:27 id:b6b69Ayi
うつコムの掲示板、再開されてますね。
ルールが明文化されたそうです。

掲示板利用について
*特定の個人、あるいは参加者に対する悪口、揶揄、揚げ足取り、誹謗中傷等、相手が不快と感じることを書くことは禁止します。
*薬の処方、病状の診断などは誤った治療の原因になりますので、禁止します。
*リストカット、OD等、自傷行為の促し、強要はもちろんのこと、肯定的な書き込みも禁止します。
*掲示板内のメールアドレス機能以外で本人はもとより他者が特定の人物のアドレス、連絡先を書くことを禁止します。
*うつコミュニティに対するご意見はメールで承ります。ただし、名前が実名でないもの、Hotmail等、簡易アドレスのものは受け付けません。
*掲示板はあくまでみなさんの交流を目的にしています。うつコミュニティの運営について是非を論ずる場ではありません。掲示板内において匿名、もしくは簡易アドレスでうつコミュニティに対する意見は交流の妨げになると事務局は判断しますので、削除します。
*以上の利用条件を守れない書き込みは、事務局が発見次第、削除します。また、そうした書き込みにはレスをつけないでください。
*尚、掲示板、チャット内において生じた個人的なトラブルには事務局は関知しませんのであしからずご了承ください。

  ルールを守ってこころの休まる掲示板、チャットにしましょう

…たけさんが送ったメールもなかったことにされてしまったのでしょうか?
…信用できない所に本アドでメールなんか送れません。
…気に入らない人間は徹底排除ですか。

http://mimizun.com/log/2ch/utu/1050159016/

利用者にとって薬のことや医師の診断などは特に関心があることだろうに。それを禁止するとは極端なことをする。

自殺・自傷行為の肯定、推奨や現代医療の頭ごなしの否定、代替医療の過剰な宣伝は規制する必要があるとしても。

さらに、掲示板はパスワード制に移行する。しかも、パスワードを知りたければ本名などの個人情報を運営にメールで伝えなければならない。

695 :優しい名無しさん:03/10/01 15:35 ID:0AqUxa3m
>せぶんさん
トリップのことは下記にあります。
http://www.2ch.net/guide/faq.html#C7

うつコム、見てきました。掲示板とチャットがパスワード制になりましたね。
パスワードを教えてもらうには、本名や電話番号記したメールを
送らなきゃいけないというのが、なんとも…。

鬱猫亭は自他共に認めるクレーマー。クレーム電話をあちこちに
かけまくる人だから、カキコが気に入らなかったら
電話かけてきて怒鳴られそう。

あるいは個人情報を売る気かも。うつコムの資金繰で苦しいしね。


696 :優しい名無しさん:03/10/01 16:17 id:lLJtgXtJ
精神病のサイトで実名を事務局に晒せですか<うつコミュニティ
何考えてるんだろ。ただでさえプライバシーについては、より気を遣うものなのに。
臭いものには蓋をすればいいというところだろうが、
いつになったら自分が臭いものの源であることに気づくんだろ。

http://mimizun.com/log/2ch/utu/1050159016/

匿名掲示板のログ一つだけでは捏造とか言われそうなのでもうひとつログを提示してみる。

http://mimizun.com/log/2ch/utu/1183695556/

1 :優しい名無しさん:2007/07/06(金) 13:19:16 id:EVR8B8ON
上野玲は欝のことなら何でも知っていると勘違いしているが、
まったくのえせうつジャーナリストだ。

「お悩みなんでも掲示板」で認知療法のことをかいたら、
当会では認知療法も治療法のひとつと考え、しかるべき医師の指導のもとに行うべきであると判断します。
個人的に工夫することはさしつかえありませんが、それを他者に情報提供するのは、病状の悪化を招く危険性があります。
と書いてきた そして、

大変遺憾ですが、ルールを守れない方がいましたので、当該の書き込みを削除、その方は退会していただきました。
繰り返しますが、この掲示板では医学的な治療法に関わる書き込みを禁止します。これは当会の趣旨が患者同士が生活面での智恵を出し合い、励まし合うことに重きをおいており、治療に関しては、主治医の領分であると判断しているからです。
認知療法についても、これは明らかに医学的な知識と指導がなければ、誤った方向に向かう危険性を持っています。よって、認知療法を試してみた感想を書き込む分には構いませんが、その具体的な方法まで書き込むことは当会の趣旨と反するものです。

とのこと そのやり取りの全貌を明らかにする

http://mimizun.com/log/2ch/utu/1183695556/

認知療法の話がしたいというだけで、退会までさせられるとは。しかもこれは掲示板開設4年後のこと。運営は、自分達の強権的な態度が正しいと信じて疑っていなかったようだ。

それにしても、認知療法は医師でなくてもカウンセラーでも指導できるものなのだが。自発的にやるための本まで出ている(例えば下記)。患者同士が掲示板でやりとりするのに適した前向きな話題だと思うのだが。

こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳

こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳

掲示板がこんな具合では患者会が盛り上がるはずもなく。

この本で書かれていた「講演会」については『日本人だからうつになる』では触れられていなかった。講演会は本とうつコミュニティの宣伝に役立っていたはずだ。それ以後の本ではうつコミュニティの話題は『うつは薬では治らない』に少し出るだけで、これも会員獲得に積極的な様子はなく、『都合のいい「うつ」』ではついに出なくなった。そしてとうとう、うつコミュニティは完全に解散してしまった。

うつコミュニティの終焉

ネットでは以下の2つの解散宣言が容易に見つかる。

うつコミュニティ東京、月に一度の当事者会を開催しました。参加者の皆様ありがとうございました。残念ながらうつコミュニティ東京は、参加者減少のため無期休会とさせていただきます。今までありがとうございました。

4:32 AM Sep 26th HootSuiteから

http://twitter.com/#!/Utsu_comm_Tokyo/status/25582451590

どうも、京都担当です。
諸事情により「うつコミュニティ」という任意団体は解散しました。
今後は各自担当が責任をもって運営する形となります。

http://blog.goo.ne.jp/kim1349/e/333195d0ccdef82ea31e46e8d4a9ef0b

http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20101107/p1のエントリーにいただいたコメントではもっと詳しい経緯が分かる。情報感謝。

2007年頃までには、スタッフ全員の退会があり、上野玲氏一人となりました。
都の指導で、2009年3月頃にNPOを返上します。

http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20101107/p1#c1289743086

NPOを返上していたのでは2009年以降の本でうつコミュニティの話題が出ないはずだ。また、解散時の肩書きが「任意団体」になっているのもこのためと分かる。

NPOを返上しても、うつコミュニティは全国の支部の活動に力を入れることにしたようだ。NPOを名乗れなくなった後の起死回生の一手だったのだろうか。

無名の人 2010/11/14 23:02

全国に、うつ患者会フランチャイズ展開したのが、上野玲というか、うつコミュニティの特色です。
最盛期は、2009年の8月頃です。
うつコミュニティ秋田、秋田うつ患者会
うつコミュニティ仙台(2代目)
うつコミュニティ東京
うつコミュニティ名古屋
うつコミュニティ関西
うつコミュニティ京都
うつコミュニティ関西患者会

といった患者会を全国に持っていました。
それらは、患者会として機能していましたが、
反面、上野玲氏の宣伝装置としても機能しました。

http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20101107/p1#c1289743378

しかし、「各地の患者会は、2010年の夏までに全て活動休止に陥りました」とのこと。

うつコミュニティ関西、うつコミュニティ京都、うつコミュニティ関西家族会は名前を変えて上野氏とは無関係の患者会としてやっていくらしい。

支部が破綻した理由はなんとなく想像できるが、上野氏自身本にいくらか書いているらしい。気になるので図書館でも調べてみようかと思う。

無名の人 2010/11/14 23:12

各地のうつコミュニティ患者会解散理由は、良く分かりません。
ただ、うつコミュニティ仙台(初代)の解散については、
上野玲著「行動するうつたちへ」に書かれています。
その内容の信ぴょう性は、分りません。
結局、上野玲代表と、地方患者会のスタッフの喧嘩
が多発したようです。

http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20101107/p1#c1289743931

うつコミュニティは解散したが、過去に上野氏にかかわっていたことについては誠実に向き合ってほしいと思う。具体的には、こういうコメントを無視している態度は感心できない。

上野玲さん心配ですね。 (関西無宿)

2010-10-31 08:02:48

ツイッターで看護婦は、医師の性奴隷とか言って炎上させたり、
「これから自殺未遂します」と書いて、書き込んだり。
抗うつ薬を無理に断薬した影響なんでしょうか?
だとしたら、上野玲さんの本は、間違っていた事になります。
うつコミュニティ関西さんも、上野玲さんの本の宣伝をしている以上、何かスタンスとか、
現在の上野玲さんの状況について、説明してくれないと多くの患者が不安になるかも。
上野玲さんの、うつコミュニティの一つである、「うつコミュニティ関西」なのですから。

http://blog.goo.ne.jp/kim1349/e/b6e4fe0f7d30c2114d10f00da45d56e9

まあ削除しないだけ誠実ではあるけれど。

「これから自殺未遂します」の書き込みはここに記録がある。

http://togetter.com/li/63762

サイトの運営でやってはいけないことの見本みたいな状況だったうつコミュニティは消滅した。傍で見ている分には、消えるべくして消えたとしか言いようがない。当事者の人はこれをぜひ反省して今後の活動に生かしてもらいたい。

これで私の『アカルイつうつ生活』のレビューは終わります。長々とお付き合いありがとうございました。