今回の車の買い替えは月給生活時代の最後の機会になりそうなので、妥協せずノートオーラを選んだ。
同じぐらい思い切って買ったクルマがある。2001年に購入したP12プリメーラだ。
それまでP11という「普通」のクルマだったところに、斬新なデザインになったので、思い切って買い替えた。
思い切ったといってもセダン20Lの希望価格は226万円。2LのDセグメントのセダンでナビつきでこれはむしろ安い。今はノートのXが229.9万円なのでほぼ同じ。クルマは高くなった……。
なお、2001年から2%のインフレが23年続くと値段は1.58倍になるので、自動車の価格はそういう上がり方。問題は日本国内の賃金が年2%で上がらなかったこと。今クルマ離れとか言われているのはクルマが高機能化して原価が上がってる分もあるが、多分に世界の経済成長との差分がある。
デザインは見ての通り、ルーフを頂点とするアーチをベースにサイドのフォルムを作り、そこに少ない折れ線を入れてクルマとしての形を仕上げている。
細かい細部に視線を集めるのではなく、シンプルにまとめてフォルムで見せるデザイン。セダンのリアのまとまりはかなりいい。欧州で売っていた5ドアもいい。
デザインは今見ても古びていないと思う。
内装もこんな具合(カタログより)。センターメーターとその下に液晶モニター、その下にシンプルな制御卓。このため純正ナビが標準になっていて、モニターを見ながら操作するあたりで「ITドライビング」というキャッチコピーがあった。
これだけこだわりのデザインでしかも安かったが、ボディが3ナンバーで一回り大きくなっていて、運転も車両感覚が掴みにくく、販売はぱっとしなかった。月2000台という控えめな目標を1度もクリアできなかった。
P12がP10やP11から大幅にデザインを変えた背景には、衝突安全性の問題がある。万一歩行者をはねた場合の頭部保護のために、ボンネット高さを増してシリンダーヘッドとの間に空間を設け、さらにフロントガラスとなだらかにつながった面で身体を受け止める。当然フロントガラスは柔軟な樹脂を挟んだ合わせガラス。
この変更に合わせて車高を高くし、腰高感を減らすため幅を増やし、全体のフォルムの形を整えてあのデザインになったと推測される。「歩行者保護」を一言も言わないせいで、無駄にでかくなったと批判され不人気車に。しかし、今のクルマはどれも歩行者保護の要件に合わせてデザインされていて、こここにP12が混じっても古さを感じさせない。
P12はB15サニーのプラットフォームを改造して作られている。前サスは従前のマルチリンクを使えなかったようだが、ストラットサスとほぼ同じスペースに入るマルチリンクサスを採用している(カタログより)。リアはP11で採用したマルチリンクビームの改良版。
こういったメカニズムのおかげか、運転して楽しいクルマだったのは間違いない。P11は状況によって後輪が滑る傾向があったがP12はそういうこともなかった。
こんなP12だが、2005年に突然盗難にあい、以後C11ティーダ、E12ノートと乗り継いでいる。
そしてFE13。P12よりよほど売れている。
P12とFE13の諸元を比較するとこう。
P12 | FE13 | |
全長 | 4565mm | 4045mm |
全幅 | 1760mm | 1735mm |
全高 | 1480mm | 1525mm |
ホイールベース | 2680mm | 2580mm |
車両重量 | 1300kg | 1270kg |
タイヤ | 195/65R15 | 205/50R17 |
エンジン | QR20DE | HR12DE |
最高出力 | 110kW | 60kW |
最大トルク | 200N・m | 103N・m |
モーター出力 | 100kW | |
モータートルク | 300N・m | |
モード燃費 | 10・15モード13.0km/L | WLTCモード27.2km/L |
ノートオーラを「帰ってきたP12」と感じるのは車両重量1270kg、モーターの出力100kWがP12に近いこと。特にICEの110kW(150馬力)はモーターの100kW(136馬力)と同等かやや下回るパワーと考えられ、動力性能ではオーラの方が高い。
ICEの最大出力はQR20DEなら6000rpmで得られる値。現実にはCVTがこの回転数まで回さないので150馬力で加速しつづけることはない。一方電気モーターはいかなる回転数でも136馬力を出せる。実際運転していて「オーラは速い」と感じるのはこの違いのせい。
なお、トルクはモーターが300N・mで圧勝だが、これはあまり意味はなく、電気モーターは回転数が低いとトルクが高くなる。だからといってトルクを制限しないと低回転数(低速)時に大電流を要求されるので、電流に制限を設け、低速側の最大トルクを300N・mに制限している。
オーラはサスペンション型式こそストラット/トーションビームで平凡だが、P12に比べて特に劣るようには感じられない。プリメーラのマルチリンクがフェードアウトしたのは、ストラットでもがんばれば同等にできるというような違いだったようだ。
全長はオーラの方が50cmも短い。とはいえ、室内はオーラも十分広いので、短いことはむしろ歓迎。P12以来、自動車は「小さくてよかった」と思うことはあっても「大きくてよかった」と思ったことは全くなく、必要性がなければ短い方がいい。ちなみにR32スカイラインのセダンは全長4580mmだからP12と15mmしか違わない。P12は直6搭載のセダン並みに長かったことになる。
デザインは、P12と比べるとシンプルさではちょっと負ける。細部がちょっと複雑になってる。
しかし、LED多灯の細目のランプはP12のギョロっとしたランプより見た目の違和感がない。だいたいP12は顔がゴーンに似すぎていた。また、フロントを遠方から見るとボンネットの上面がやたら広く見えて違和感があった(ウインググリルがバンパーに食い込んでいたのがこれを助長していた)。いまどきのクルマは正面遠方のフォルムだけはP12より進歩している。
で、オーラのマイナーチェンジの前後に対しては、赤や青といった原色系では前期型の方がシンプルでいいかもしれない。しかし、ステルスグレーの場合は前期型はおとなしすぎると思う。もともとステルスグレーしか眼中になかったので、この色に限ってはマイチェン後でも全く問題ない。
オーラはインパネが全面的に液晶になり、飛行機でいうグラスコクピットになった。「ITドライビング」が実は操作性があまりよくなかったというところもずいぶん改善されている(P12はナビがタッチパネルじゃなかった!)。P12にもレーダーを使ったオートクルーズがオプションであったが、プロパイロットははるかに高機能になっている。
「ITドライビング」は当時「IT」という言葉が流行ったこともあって出てきたコピーだが、やはり時代を10年は先取りしていた(技術が追いついてなかった)と思う。クルマの電脳化はとどまるところを知らず、今や「ITドライビング」ができることはノートでも楽勝でできる。
いったい20年後の自動車はどうなっているのか(多分その頃は免許返上してるw)。