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P12プリメーラについて追記

P12プリメーラについて、もう少し書く。

P12のデザインは当時ニッサン・デザイン・ヨーロッパ社にいたステファン・シュバルツ氏のスケッチがスタートとされる。

response.jp

検索したら当時のインタビュー記事があった。

シュバルツ氏によると最大の特徴は「雪に覆われたセダン」のようなかたまり感を持った「モノフォルムシルエット」。クルマのコアであるキャビンが流れるようにボンネット、トランクまで一体となって大きなマスとなっている。この大きなボリューム感は写真よりも生で見たほうがより実感できる。発表会でも長野チーフデザイナーが「写真映り悪いのかな?」と気にしていた。

「雪に覆われたセダン」というフレーズは確かに当時聞いた。

サイドウインドウの前後に斜め下に伸びる折れ線が、雪とクルマの境目となって、上のようなイメージとなる。

これだけ聞くと、「いや雪積もったクルマで走らないからw」となるが、何も好き好んでボディを雪の分だけ厚くしたわけではないと今なら分かる。

20世紀の間は、ボンネットはシリンダーヘッドのすぐ上まで下げてよかった。ボンネットが薄ければクルマ全体がロー・ワイドになり、たとえ幅が1700mm未満の5ナンバーでもかっこいいセダンをデザインできる。

ところが、シリンダーヘッドに人の頭がぶつかると死亡するリスクがかなり高い。人の命がかかわってくるとなると、歩行者保護の機能まで包含したデザインをしなければいけない。

「ボンネットを持ち上げてデザインするとなると、どんなイメージで考えれば……、そうだ、雪が積もったクルマだ!」というのがおそらくシュバルツ氏の発想。

ボンネットを高く、強い傾斜をつけるとなると、Aピラーを前進させ、ルーフをアーチ状にし、トランクは後ろ下がりにする。そうやって分度器みたいなモノフォルムにデザインすると案外悪くない、となったようだ。

Aピラーは前進するだけでなく、かなり太くなっている。これはクルマのキャビンが潰れないようにという別の衝突安全性の要求による。このため運転席からはフロントウィンドウが遠く、太い左右のピラーが視界を狭めるという事態になる。ダッシュボードの上には広大な平面が出現し、このスペースを有効活用するためにセンターメーターを置くことにした。ボンネットは運転席からまったく見えなくなった。

P12はこういうデザインの嚆矢だったのでとやかく言われたが、気付いてみればいまどきのクルマはみんなこういうフロントウィンドウとAピラーをしている。Aピラーはさらに前進して前に三角窓が作られることも多い。

いつかやらないといけないデザイン変更だったにしても、なにもプリメーラでやらなくても、と考えないでもないが、欧州で売る主力製品が衝突安全性で後れを取ることはあってはならないだろう。むしろ日産はこのデザインにもっと自信を持ち、10年ぐらい製造する覚悟があってもよかったかもしれない。潰れかかってルノーに助けてもらうような状況ではそれもムリか。

やがてP12は販売終了となりプリメーラというクルマは過去のものになった。

しかし、私は気づいてしまった。ベンツのセダンのルーフが優雅なアーチを描いているのを。

2005年登場のメルセデスベンツSクラスの5代目、W221。M 93氏撮影。wikipediaより。

そして2013年には、4ドアクーペとも呼ばれるスタイリッシュなセダン、CLAが登場する。M 93氏撮影。wikipediaより。

この四隅が見えない車両感覚をつかみにくいデザインも、ベンツなら許されるということであろうか。

ベンツがP12のデザインを模倣した、というつもりはない。しかし、P12がセダンのデザインについて何らかのインスピレーションを与えた可能性は否定できないと思う。サイドウインドウの下端部からプレスラインが前後に伸びるというデザインは、P12という前例がなかったら独自に考え出されただろうか。垂れ下がったトランクが容易に採用されただろうか。

AクラスをベースにしているCLAは前輪駆動で、寸法もP12に近く、もうCLAが事実上のP12の後継モデルということでいいのではないかとさえ思う。

街頭で屋根が丸いベンツを見かけては、P12のデザインは無駄ではなかったといつも思っている。