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酒の科学

著者は元サッポロビールの技術者。そのためかビールについてはかなり詳しく書いてある。一方、その他の酒については比較的あっさり書かれている。

酒造りは世界の様々な地域、文化の中で営々と行われてきたことであり、その製法には後の科学を知った目で見ても感心することが多い叡智に満ちているという。題名の「酒の科学」とは、科学により酒を新しくすることではなく、伝統的な酒の中に科学を見いだすという趣向になっている。

日本酒に関して気づいたところをメモ。

日本酒は麹による糖化と酵母によるアルコール発酵が同時に進む「並行複発酵」が特徴。これこそが20%という醸造酒としては高いアルコール濃度を実現する決め手であるという(P.94-95)。

 初めから高濃度の糖分の中で酵母を働かせると、その高濃度の糖分と生成する高濃度のアルコールのため、酵母は疲れて弱ってしまい発酵は途中で止まってしまう。しかし醪の中で徐々に澱粉を糖化させ、これを酵母によりアルコール発酵させる方法は酵母を弱らせない。このように醪の中で糖化と発酵を同時に並行して進行させる方法を「並行複発酵」と呼んでいる。醪の中で二〇パーセントものアルコールを生成することを可能とするのは、この並行複発酵という叡智のお陰なのである。

なお、市販の日本酒が普通15%程度のアルコール度数なのは、原酒に割水して出荷しているためであるが、そこまではこの本では言及していない。

よく「三段仕込」というのを聞くが、これは、酒母に麹、蒸し米、水を3回に分けて添加する製法のこと。「酵母の増殖状況に合わせて澱粉を麹とともに補充してゆくわけである」(P.95)。これにより、「つねに醪の中を酵母の圧倒的支配下に起き、雑菌の邪魔を封じ、微生物的純粋性を完全に維持することを実現した」(P.95)とのこと。「微生物学がない古い時代からこのような方式を編み出したのは驚きであり、これも叡智の発現である」(P.95)

短い間に二度も「叡智」と出てきた。かように、本書は伝統による酒造りの妙を科学的に称えるものとなっている。