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美少女を嫌いなこれだけの理由

美少女を嫌いなこれだけの理由 (このライトノベルがすごい!文庫)

美少女を嫌いなこれだけの理由 (このライトノベルがすごい!文庫)

ネタバレあり。

遠藤浅蜊という作家は『魔法少女育成計画』シリーズで一気に有名になった。

しかしあの小説も完全に無から湧いてきたわけではない。

デビュー作の本小説にその原型を見ることができる。

というわけで『育成計画』をよりよく理解しようという観点からの、この小説の見所をいくつか。

両方読んでいる人はお分かりかと思うが、『育成計画』の「魔法少女」は本作の「美少女」と非常によく似ている。

一番似ていると思ったのは、どちらも見た目は美少女だが、中身が必ずしもそうではない、というところ。育成計画も中身が中学生男子だったりしたが、こちらの美少女は、主人公と同居している2人が性別「男」、年齢はおっさんとジジイというめちゃくちゃな設定。慣れればば美少女の性別はすぐ分かるそうで。男の美少女と人間の女性が結婚して子供ができたりするから気が遠くなる(子供は人間になるそうで)。

まあそういうわけなので、魔法少女が、変身すると見た目がまるっきり変わってしまうクリーミーマミタイプであるのは、作者的には自然な流れ。変身しても人物は変わらないまどマギとはここが違う。

あと美少女は魔法少女と同じく肉体的に強い。そして、美少女は属性によって持てる特殊能力が限定されていて、魔法が一種類に限定されている魔法少女の設定と通じるものがある。

美少女が頑健で優れた運動能力を持つ、という性質をなぜ作者が思いついたのかは謎だが、ともかく、その結果として美少女は美少女どうして壮絶なバトルを演じる。

人間とも戦ったりするが、それはそれとして、なんだかわからないけど美少女美少女言っている間にストーリーは異能バトルものに進んでいってしまうという無茶な小説がこれ。作者はバトル好きにも程がある。

魔法少女が戦い合うのもまたこの作者にして必然というところだろう。

編集者は作者のそういった嗜好をとてもうまく育てたからこそ、『育成計画』シリーズを成功させられたのだと思う。

一方、男の目から美しい少女をいとおしく愛でる、という感性がいまひとつ感じられない。『育成計画』の方はrestartに進んでゆくと、そういうところもフォローしようという意図が感じられる。しかし、本作の段階では、美少女への目線は、どうにも同性のそれという感じ(作者は推測するに女性)。

作者が『魔法少女まどか☆マギカ』を知っているのは、この小説で言及しているので事実だ(41ページ)。『育成計画』シリーズがまどマギの影響を受けているのも間違いないだろう。

しかし、『育成計画』の鬱展開は女性ならではの感性を強く感じることができる。女子中学生のドラマなのにどこかに男気を感じてしまうまどマギとは、やはり違った個性がある。

それにしてもこの小説は破天荒だ。『僕の妹は漢字が読める』以来、マジキチなライトノベルを探索しているのだが、これもそこそこの位置にランク付けすることができる。

第2回『このライトノベルがすごい!』大賞の応募作で、多数のライバルを抜いて入賞。というだけで十分すごいが、受けた賞が「栗山千明賞」というのが、普通の大賞よりはるかにユニークですごい。

つまり多くの人にまんべんなく受けるのではなく、一部の人に鋭く刺さる作品であると。じっさい私も、ここはちょっとアレだなあとか思いつつ(ラーメンでニンニク使ってないとかありえん)、トータルではかなり面白がって読んだ。

そして『魔法少女育成計画』では、実力のある作家が、編集と力を合わせて創作にとりかかると、いかにすごいことが起こるか、ということの証しとなりつつある。

実力のない作家が編集といい関係を築けずにアレな作品を作りやがて消えていってという現実を見たこともあるだけに、今輝いて熱を放っている作家と編集者のタッグを応援せずにはいられない。