塩の街

塩の街

塩の街

有川浩氏の小説を初めて読んだ。甘い。恋愛要素がかくも濃いとは。レムの後に読んだだけにその差が激しい。

小説のネタ的にもレムだったらどうするだろう、などと考えてしまった。あらゆる分析を拒む不可解極まりない塩の結晶。法則性などまるでないかのような人の塩化現象の数々。主人公はついにこの現象は理解し得ないものと悟る。しかし意外な糸口から謎が解明されるのだった…。ちなみにキャラクターは科学者のおっさんが3人ぐらい。

それはそれとして。自衛隊三部作のうち「陸」の部とされる。荒廃した都心から、立川駐屯地に舞台が映った途端、突然回復する秩序。このコントラストがはげしい。作者の自衛隊に寄せる信頼の厚さが感じられた。

それにしても、あの立川駐屯地が舞台になるとは。防災航空祭に行ったらその辺に塩化した死体が隠されているのか詮索したくなるな。写真は立川駐屯地に展示されるアパッチ。

話としては、厚木基地襲撃が必然性があったのかどうかが悩みどころ。しかし順調に自衛隊の任務として百里基地から出撃、では盛り上がりに欠けるだろうし。映画化とかアニメ化とかするならこの辺は脚本家が腕を見せるところになるのではなかろうか。

荒廃した世界を描いているのだが、電気と水道は生きている。本格的なサバイバルものにはしたくないという意思だろうか。『マッドマックス2』みたいな世界では女子高生とパイロットの恋愛小説は成り立たないだろう。でも、これがためにちょっとばかり、「世界の終わり」という緊迫感は薄いように思えた。

戦災を体験した作家なら遠慮なく文明が荒廃し尽くした世界を描くだろうか、と思う。いつだったかの『アニメージュ』誌でその辺について安彦良和氏が世代間の感性の違いを指摘していたい。世の終わりなのにスーパーマーケットに食品が溢れている作品があるとかどうとか。この作品に私も、作者の若さと世の中の豊かさを感じた。「衣食住を保証されたサバイバル」の『ビューティフル・ドリーマー』あたりも豊かな時代を繁栄した作品と言えるだろう。