それは、「うつ病」ではありません!

それは、うつ病ではありません!  (宝島社新書)

それは、うつ病ではありません! (宝島社新書)

近年増加しつつあるうつ病について、その一部はうつ病とは言えないのではないかと疑問を投げかけ、うつ病の定義がやたらと拡散されてしまうのを批判している。

うつ病」と言えないうつ病は、おおむね野村総一郎氏の『うつ病をなおす』(http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20090210/p1)で書かれている「非定型うつ病」が該当するのではないかと思う。

著者が「擬態うつ病」と呼ぶそのうつ病らしからぬうつ病は、この本では「気分障害」と呼ぶべきとしている。通常のうつ病気分障害の一つではあるが、両者の関係は以下のようにまとめられる(P.218)。

うつ病=本物のうつ病。つまり脳の病気
気分障害うつ病に似ているがうつ病でないものすべて

これは、インフルエンザと風邪の関係に似ているという。今やインフルエンザはただの風邪として軽く見ていい病気ではなく、「うつ病」と気分障害との関係も同様にとらえるべきとし、本書をこうまとめている。

こころの風邪は、うつ病ではない。

本書のなかで、2箇所ほど首をかしげたところがある。

まず、ストレスとうつ病の関係(P.133)。

友人B「仕事のストレスでうつ病になる人が多い」

 よく聞く話です。わかりやすい話です。でもこれは、誤りです。

 ストレスで気分が落ち込むのは、人間として自然な反応です。それが病気のはずがありません。それなのにこの誤った話が信じられている。なぜ? わかりやすいからです。真実か否かにかかわらず、わかりやすい話、もっともらしい話は受け入れやすいのです。うつ病の情報が社会にマッチしている理由その二がこれです。わかりやすさは、情報の強さです。あまり自分で深く考えずにわかりやすい答えを求めるのが現代の社会、などというつもりはありませんが……。

ストレスがうつ病の原因であるという話を「誤りです」と言い切るのは無理があるのではないだろうか。

野村総一郎:『うつ病をなおす』(http://d.hatena.ne.jp/spanglemaker/20090323/p1)では、最近の研究ではうつ病は脳がストレスで損傷を受けて発症するというのが明らかになりつつあると書かれている。

経験的にも、自分がうつ病を発症したのは仕事の負荷が高かった時期を経た後で、特に「原因不明」(当時)の体調不良に見舞われたのは客先との打合せだとか学会発表の直前、または仕事で特に無理をした後など、ストレスと強い関係があるように思えた。治療を開始してからも、再発するのは概ね仕事で無理をしたり強いストレスを経たあとだった。

現役の精神科医がストレスとうつ病の関係を完全否定するのはどうかと思ったが、著者のWEBサイトでは以下のように書かれている。

うつ病はストレスによって起こると考えている方が多いようです。確かにそういうこともありますが、なんのきっかけもなくうつ病になることもあります。うつ病に限らず、こころの病気の原因をつきとめることはとても難しいものです。安易にストレスなどに結びつけることは、病気の本質を見失ってかえってよくないことが多いです。このあたりのことについては、書斎の中の、「原因不明の誠実」をお読みください。

http://kokoro.squares.net/dep0h.html

ストレスとうつ病の関係を完全否定してはいないと分かった。本の書き方がまずかったのではないかと思う。

次に、昆虫の擬態の話(P.115)。

 擬態は、自然界にはありふれた現象です。一つは、強い者に似せる(「標識的擬態」といいます)。スズメバチという強い虫がいます。虫も、鳥も、人も、刺されたら大変だから近づかないようにする。スズメバチ自身、黒と黄色の縞々の目立つ警戒色で、特権を主張している。

 そしてスズメバチに似た虫に、ハナアブがあります。ハナアブは刺すこともなく、安全な虫です。でもスズメバチに似た、黒と黄色の警戒色をしている。ハナアブがぶんぶん飛んでくると、刺されるような気がしてなんだか怖い。だから避ける。擬態によって、スズメバチと同じ特権が主張されているんです。

そして、次のページにハナアブの写真が掲載されている。

私の印象としても、また、写真そのものを見ても、ハナアブが似てるのはスズメバチというより、ミツバチだろう。ハナアブスズメバチに擬態しているというのはかなり無理がある。

ハナアブは、ミツバチに比べて体がやや太く、色がやや赤っぽく、翅が2枚で、背中の黒い縞がミツバチの平衡線「=」に対して最初の一対が「エ」の字になっているので見分けがつく。ハナアブは、捕まえても確かに刺されることはない(ミツバチを捕まえたら本当に刺された)。

http://sake-life.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-7740.html

スズメバチに擬態しているというなら、トラフカミキリあたりを出すべきだろう。

http://contents.kids.yahoo.co.jp/zukan/insects/card/0151.html

ハナアブでも、スズキナガハナアブというのはスズメバチに似ている。

http://www.h3.dion.ne.jp/~moth2001/5-205.html

スズメバチとその擬態というなら、単なるハナアブとするのではなくスズキナガハナアブとするか、いっそトラフカミキリを例に出すべきだったろう。ハナアブを擬態の例とするならハチはミツバチとすべきだったと考える。