幕張メッセで開催中の「ギガ恐竜展2017」に行ってきた。
前回幕張の恐竜展に行ったのは2012年なので5年ぶり。
前回会場は国際展示場9-11ホールを全部、または10と11ホールをつなげて使っていたが、今回は展示ホール11のみ。
恐竜ルネサンスが一気に広まった映画『ジュラシックパーク』の公開からかなり経つのでもう盛り上がりはこんなものかと最初は思ったものの。
展示内容のガチさに評価高止まり。
主な客層は夏休み中の小中学生だろうけれど、「恐竜とは」という基本的な説明から、最新の知見の紹介と、最近発見された貴重な標本の実物の展示を惜しみなく行い、非常に充実した展示内容だった。
基本からさらに上のレベルまでバランスよく配置し、面白く展示するというのは、きっと見に来た子供たちに忘れがたい知的な刺激をもたらしたと思う。
以下当日の写真。写真はストロボを使わなければ撮影自由(ただし著作権の関係から動画の動画撮影はNG)。
まずは「恐竜とは?」の基本的な説明ブース。直立歩行する爬虫類、という定義や、起源は古生代にさかのぼるとされる最新の知見、初期の恐竜とその時代に生きていた・または近縁の他の生物の化石。
写真は「最初の恐竜」として知られるエオラプトル。
他に翼竜、首長竜、カメなどの化石もあった。
そして恐竜の部類に関する最新の学説の紹介!
以下はそのNatureの論文の紹介記事。
http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/pr-highlights/11754
100年以上前に骨盤の形が「鳥っぽい」、「トカゲっぽい」という理由で大きく2分されてきた恐竜の分類が大きく変わるかも、という話。
この新しい分類図を見て心の中がかなりすっきりしたのでこの学説がさらに深く検証されるといいと思う。
何がすっきりって、ティラノサウルス等の獣脚類とカミナリ竜の竜脚形類が、恥骨が前向き、という理由だけで同じ「竜盤類」に分類されていたのが、もっと系統が遠いだろうと分けられたこと。そして獣脚類は鳥盤類とまとめて鳥肢類の分類へ。ティラノサウルスがイグアノドンやトリケラトプスの方に近いというのはけっこう納得できる。そして鳥が鳥っぽいグループから出現したというのも納得度高い。
堅頭竜類の化石3種。置物にしたい造形美。ファンタジーの創作物ではなく実際に生きていた生物の化石というのがもうね。
今回展示の目玉、日本初公開のルヤンゴサウルス。
長い。
頭は小さく、非常に軽量化されている。首は頸肋骨が長く伸びて、「南京玉すだれ」の原理で首を支えたとされる。背中からは腱が伸びて首を吊って支えた。腱は尻尾も支え、首の重さを長い尾でバランスさせた。
こうすることで巨大な胴体はあまり動かすことなく、広い範囲の植物を食べることができ、そういった効率的な体はより恐竜の体を大きくしたという。
哺乳類だとゾウが体を大きくし、鼻を伸ばしてエサを採る効率を高めているが、頭そのものを前に出してついでに軽量化するのが恐竜のスタイル。
首が長すぎると呼吸しても新しい空気が肺に入らないのでは、という謎もあるけれど、鳥と同じ気嚢システムがその辺を補っているらしい。
剣竜の展示。写真はトゥオジャンゴサウルス・マルチビナス。
背中の骨板は体温調節のためというのが定説になっているようだ。
恐竜の復元イメージがこう変わった、という展示。まず従来の羽毛なし復元模型。
そして最近の羽毛あり復元模型。
ほぼ鳥。まあ鳥を参考にしてるから似てるのは当然かもしんないけど、それにしてもこれを見るとダチョウやエミューが恐竜そのものということが分かってくる。ヒクイドリとかヘビクイワシも恐竜でなかったら何なのかという。
「恐竜の内部を探る」ブースの展示もすごかったけどネタバレになるので省略。卵化石、内臓の印象が残る化石、ミイラ化石、孵化前のホビロン状態化石など貴重な展示多数。
カミナリ竜の頭骨いろいろ。軽量化されていること、歯が単純で咀嚼など不可能なことが分かる。餌の植物をこの歯でもぎ取って、丸飲みにし、咀嚼は胃石の方で行う。あとは腸内の細菌を活用して消化。
竜盤類の恐竜化石。左の小さいのがモノニクス。ティラノサウルスの前脚が2本指なのは知られているけど、1本指まで減ったのがこれ。こんなに小さい恐竜だったとは。
ちなみに骨盤から下に出てる恥骨が前に出てるのが竜盤類。
ドロマエオサウルス。
恥骨が後ろに曲がっているけれど、系統的に「竜盤類」とされる。
きわめて鳥に近いグループで、鳥っぽい骨盤はここですでに出来上がっている(したがって鳥盤類が鳥に進化したわけではない)。
先に示した新知見では、骨盤の恥骨の向きがどうこうは恐竜の大きい分類にはあまり関係なくなったので、「ドロマエオサウルス類は2次的に骨盤が鳥っぽくなり」、という余計な説明も今後は要らなくなるかもしれない。
後足の親指に発達したカギ爪があり、これを武器にしたとされる。映画『ジュラシックパーク』で大活躍したヴェロキラプトルもこの仲間。足跡化石からも後脚の2本指で歩いていたことが分かっていて、親指は大事に上に曲げた状態にされていた。その分鋭かったのだろうと推測される。普段収納しているネコの爪みたいに。
角竜の様々な頭骨。最新の学説で、角は身を守る武器というより大人と子供を見分ける目印というのが紹介されていた。写真のような多様な角の形は繁殖のためのアピールポイントとして進化したということに。
その辺、哺乳類でもシカの角とかそうなってる。
進化は環境に適応するために起きる、とはよく知られていることだけど、それとは別に、子孫を増やすのに有利な形質も、時には生存に不利な要素だとしても、広まってしまうというのもまた進化でよくある現象。
中生代も、「異性にもてる」というだけで恐竜の見た目が多様になり、さぞ面白かったのだろうと思う。
最後の方の展示。K-Pg境界層の標本。いわゆるK-T境界層。
ここを境に恐竜の化石がさっぱり出なくなる。それだけではなく、海にやたらと沢山いたアンモナイトもいなくなる。アンモナイトは数が多いだけにここで化石が断絶するというのはより印象的。
この層は世界中にあって、地球外由来と考えられる高濃度のイリジウムが検出されることから、直径10kmクラスの隕石が落下したことにより形成されたとされる。
恐竜の絶滅が隕石の落下によるというのは、ルイス・アルヴァレスとウォルター・アルヴァレスの父子により1980年に発表された説。
(wikipedia情報に1980年とある。サイエンス誌の論文掲載は1982年のようだ。
Iridium Anomaly Approximately Synchronous with Terminal Eocene Extinctions | Science
)
もう40年近いわけだが、この説はその後確度が高まる一方で、恐竜絶滅に関する最も主要な説となっている。
ということで、恐竜の起源から絶滅まで、一通りの知識を得られるまとまったいい展示だった。
いや違う。恐竜の起源から、鳥として現在に至るまでの、一通りの知識だ。
9月3日まで開催。