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U2の'ONE'の和訳と解説

通勤途中でふと思いついてU2のアルバム、"Achtung Baby"を聞いた。久しぶりにきくとしみじみいいアルバムだと分かる。

3曲目の'One'はとりわけよく知られた曲。oneは1つという意味と同時に、人間を意味する言葉でもある。oneという言葉の多重な意味に思いをめぐらした歌詞と、悲し気なメロディがいい。PVは↓。

www.youtube.com

歌詞は、30年前に聞いたころはよく理解できなかったが、最近検索して再確認して、基本どういう受け取り方をしてもいいのだけど、「父親と、HIVに感染した同性愛者の息子の会話」というのがボノが歌詞で描いた世界だという。

しかし、この情報だけではなかなかこの曲を十分に理解することができなかった。特に不可解なのは、前半では上から目線で語りかけているのに、途中から被害者目線に変わるところ。息子に「愛は聖域、愛こそ超越的な法」と説教される父親というのがどうもイメージできない。

あらためて情報に当たり、「会話」という部分を見落としていたことに気付いた。つまり歌詞は一人の言葉ではない。

これに気付くと、歌詞は前半と後半ではっきりと話者が違うのが分かった。であればこの歌詞に不可解な部分はない。前半は父親で、後半は息子の言葉。もしかしたら、この歌詞の前に激しく口論をしたのかもしれない。あるいは、言葉を多く費やさなくてもいろいろと分かってしまう状況だったのかもしれない。

'One'という曲は"We’re one, but we’re not the same"というフレーズが知られる。「私たちは一つだが、同じではない」。だから何の努力もしなければ一つでい続けることはできない。あるいは無理に一つであろうとして不幸を招いてしまう。

歌の構造もまた、一つの曲だが、同じではない二人の立場の言葉が綴られていたという。気付いてみれば単純なことだが、なかなかに粋なことだ。

Is it getting better
Or do you feel the same?
Will it make it easier on you, now
You got someone to blame?

少しは具合よくなったかい?
それとも変わらないかな?
誰かのせいにできて
いくらか楽になったかい?

父親パートの出だし。家を出て、病をわずらって、それからようやく息子と話ができるようになったのだと思う。「誰かのせいにできて」というところは、歌の前に口論があって父親がさんざん責められた、という状況なのかもしれない。

You say one love, one life
When it’s one need in the night
One love, we get to share it
Leaves you, baby, if you don’t care for it

そうだよ、一つの愛、一つの命
夜を過ごすのに人が必要とするものだ
一つの愛を、私たちは分け合う
大事にしないと、なくなってしまう

ここの'you say'は息子が話した、というより、世間一般でそう言われる、という慣用句だろう。2行目の'one'は人という意味。

Did I disappoint you
Or leave a bad taste in your mouth?
You act like you never had love
And you want me to go without

がっかりさせたかい?
後味の悪い想いをさせただろうか?
お前は愛されたことなどなかったようにふるまい
私に愛を返すこともなかった

最後の1行は意訳。二人の間の距離の遠さが書かれている。

Well, it’s too late tonight
To drag the past out into the light
We’re one, but we’re not the same
We get to carry each other, carry each other
One

今夜ではもう遅いんだろう
過去を取り繕うとしても
私たちは一つ、だけど同じではない
私たちはお互いを支えあわなければいけない
お互いに

父親パートはここまで。息子に詫びるポーズをとっているが、上から目線で、最後にやっぱり説教しようとしている。

最後の'one'を「一つになる」とした訳も見かけたが、ここは'carry each other one'とひとつながりの英文ともとれる。支えあうことで一つになるのではなく、「同じではない」二人だからこそ、支えあわなければいけない、ということを強調しているのだと思う。

Have you come here for forgiveness?
Have you come to raise the dead?
Have you come here to play Jesus
To the lepers in your head?

あなたはここに許しを請いに来たのですか?
それとも死人を蘇えらせるためですか?
頭の中の「病人」のために
キリストを演じるために来たのですか?

ここから息子パート。父親に辛辣な言葉を浴びせる。

「病人」の部分は父親パート冒頭が病人をねぎらう言葉なので対になっているのだと思う。結局自分(息子)と向き合っていないじゃないかという指摘。

また、父親だと戦後まもなく生まれとかの年代だろうから、同性愛は治療すべき「病気」という認識だということもあり得る。HIVは病気扱いでいいが他の部分は病気じゃないぞ、という話。'dead'も父親の思い通りに生きていない自分をそう表わしているのかもしれない。

Did I ask too much? More than a lot
You gave me nothing, now it’s all I got
We’re one, but we’re not the same
Well, we hurt each other, then we do it again

いろいろと聞き過ぎて、もう答えられない?
あなたは何も答えないけれど、もう分かったよ
僕らは一つだ、だけど同じじゃない
お互いに傷付けてきたし、また傷つけあおうとしている

'then we do it again'、やり直す、というところだけど、やり直して傷つけあわないように、よりも、また傷つけあうはずだ、という方が流れとして自然かなと思った。

You say love is a temple, love a higher law
Love is a temple, love the higher law
You ask me to enter, but then you make me crawl
And I can’t be holding on to what you got
When all you got is hurt

「愛は聖域 愛は超越的な法」とあなたは言った
「愛は聖域 愛は超越的な法」
あなたは僕を招き入れる、だけど僕はそこで支配される
やってられないよ、あんたの望み通りになんか
結局あなたも苦痛しか残らなかったじゃないか

'temple'を直訳すると寺院の方がいいかもしれないが、建物としての寺院より、神の加護で守られた領域のことかなと思い、「聖域」としてみた。

そして、この部分が共感できて胸が苦しくなる。後半は逐語的ではなく、相当する口語として訳してみた。何度も聞くうちにこういうことだと思えたので。

One love, one blood
One life, you got to do what you should
One life with each other
Sisters, brothers

One life, but we’re not the same
We get to carry each other, carry each other
One
One

一つの愛、一つの血筋
一つの人生、やるべきことをしてくれよ
それぞれが持つ一つの命
姉妹たち、兄弟たち

一つの人生、だけど僕たちは同じじゃない
支えあって生きなければならないんだろう、支えあって――
お互いに
誰かを

息子パートのまとめ。'one'を連呼して、その中でまず、父親こそまずなすべきことをなせという。そして互いに支えあって、と父親パートと同じフレーズで閉める。支えあって生きなければいけないのは自分も分かってる。それにはまず、父親が誰かを支えるべきだったのでは、という問いかけに聞こえる。

言葉としては'other one'を引き延ばしているが、さらにもう一度'one'を繰り返すので、「一つ」だとか「人間」だとかの別の意味も想起されるようになっている。ここでは2番目の'one'は「誰か」にしてみた。

なお、'One life with each other Sisters, brothers'は姉妹、兄弟あわせて一つの命、という意味ではなく、それぞれの人間がもつ一つの命、つまりここでの命は複数の命をイメージしていると思う。だからこそ'but we’re not the same'につながるのではと。

Ooh-ooh-ooh
Oh-ooh
May we, may we, may we get
Higher
Oh, higher
(Ay, yeah, go) higher
(Oh) Higher

最後のこの部分は、父と子いずれかというより、もっと抽象的な言葉なのだろうと思う。歌詞の本編はどちらかというとグダグダだが、互いに支えあって生きるということを本当にやっていけるなら、より高みを目指すことができるのだろうな、というあたりを歌っているのかなと。

'Love is a temple'のあたりは最初からあまりいい意味で使われていないなと思ったが、やはりDV親の言動を示していると分かる。といっても成人した子供の人生は何もかも親のせいにはできない。子は子で至らぬところがあるのだろうなとも思う。

とはいえ、だから誰それが悪い、というまとめではなく、そんなおよそ完ぺきとは言えない人間でも、生きていく権利はあるし、できるだけ不幸にならないように努力すればもっといい、というようなことを歌っているのかなと思う。

最後に、歌詞はU2著作権があります。転記ミス、翻訳のミス等の責は当方にあります。

One by U2 (1992-07-28)

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アクトン・ベイビー

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