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ぬか床再起動

2021年にぬか床に挑戦し、ある程度美味しい漬物を味わうことができたが、年末にはぬか床が耐えがたい臭いになったので廃棄した。

glemaker.hatenablog.com

それから2年ほどぬか床のない生活をしていたわけだが、他の漬物、ザワークラウト、梅干し、白菜のお新香は順調に成功し持続して作っているので、ぬか床も再挑戦してみたくなった。そして、生ハムの原木コピペを見ては「俺だってうちに帰ればぬか床がある生活があってもいい」と感じていた。

そこで昨年の年末に再挑戦することにした。

冬だから失敗の要素が少ないであろう、というのと、毎日かき混ぜなくてもいいので楽というので冬に始動した。冬に成功するなら夏には冷蔵庫に入れれば同じだ。

2021年の教訓を様々に活かした。

まず、前回の2Lのプラ容器はぬか床による浸食が激しいので使わず、新たに4Lのホーロー容器を入手した。化学的な耐性は梅干しにも使えるタフさがある。四角い容器は寸法的には2Lに対してせいぜい3割増しなので冷蔵庫に収納可能。

4Lの容器であれば、1kgのぬかと1Lの水と漬け込む野菜を入れてもまだ余裕がある。

ぬかの入手ルートも複数確認した。下記3通りある。

  1. JA直売所で500g10円、あるいは1kg50円等で購入する
  2. JA直売所が「ご自由にどうぞ、ただし1人1袋」と配布しているものをもらってくる
  3. JA直売所併設のコイン精米機に「ぬかはご自由におもちください」とあるのでそれをいただく

「街の米屋」は地方都市ではほぼなくなって、JA直売所がその代わりになっている。ここでは玄米を都度精米して販売しているので、ぬかは廃棄物として常時出てくる。無料配布と言っても移動のコストがかかるので無料ではないが、どのルートも格安なので、漬ける野菜と同時に入手可能。

「炒りぬか」を商品として売っていることもあるが、これはめったに見かけない(近所のドラッグストアで普通に売ってました。500gで98円)。ぬか床の元を買ってくるのもいい。自分は単に自作PCのノリで素材から作っているだけ。

marron-dietrecipe.com

作り方はまた上記サイトを参考にした。他の情報も参照して塩水を沸騰させる工程は略して、塩と電子レンジで加熱したぬかを混ぜて水で練った。冬でも2週間ぐらいでぬか床が完成し、大根やカブといった冬野菜を美味しく漬けることができた。

そして、改めて見て、前のぬか床が悪臭を放っていた理由に気付いた。手本ではだしパックに煮干し類を入れている。これだ!

煮干しをそのままぬか床に入れたところ、程なく煮干しが崩れてぬかと一体化した。やがて魚のタンパク質は変性して悪臭を放つようになった。このシナリオの蓋然性が高い。

だしパックに入れて定期的に交換する場合、だしパックからぬか床には水溶性の成分だけが出ていく。要するにアミノ酸かペプチドに分解された分だけが出ていってぬか床にうま味を加える。分解されなかったタンパク質はだしパックごと取り出される。この理屈だと将来的にも悪臭は出ないはずだ。

「だしパック」はなかなか手に入らないので「お茶パック」を使っている。

写真は一週間漬けた大根と2か月漬けておいたニンニク。

前回の大事な教訓はもう一つある。塩加減の調整だ。野菜を漬けると浸透圧で水分が出てくるから、ぬか床は水っぽくなり、塩分濃度も下がる。

水については、最初の写真のように隅に穴をあけておくとそこに水がしみ出すから、スポイトで除くことでぬか床の固さを維持できる。

しかし、それだけだと塩分がどんどん減って、やがてセメダイン臭がしてくる。前回は産膜酵母で真っ白になったこともあった。

塩をこまめに加えて塩分濃度を維持しないといけない。しかし、現在の塩分濃度も、望ましい塩分濃度も分からない中で細かく調整することは不可能だ。

ようやくこういう問題意識を持つに至り、改めて調べて塩分濃度計が安価に手に入ることを知り、5%まで計れる製品を買った。

A&D 防水型デジタル塩分計 AD-4723

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上記などで望ましい塩分濃度は5%前後だというのを把握。

ぬか床の隅に溜まった水の濃度を塩分計で測り、5%を下回っていたら5%になるように塩を加えれば、5%までしか測れない塩分計で十分にぬか床を管理できる。

で測ってみると、セメダイン臭対策で大量に塩を入れたはずなのに4%以下の数字が頻発した。全体で2.5kgほどのぬか床なら25g塩を入れれば5%に戻せる計算だ。塩分計のおかげで簡単に塩加減を調整できる態勢ができた。

もう春なので、新たに直売所に並ぶ春野菜を漬ける楽しみができた。

なお、自分にとって漬物は完全に科学の領域。材料を計って処理すると野菜の微生物が活動して漬物ができる。ワクワクする体験でしかも漬物が美味しい。

一方で漬物自作勢にはオカルト的な言説もはびこっており、こういう勢力とは距離を置きたいと思う。オカルトとフードファディズムは現代人を蝕む悪しき領域。健康管理と美味しい料理はほぼ100%科学の領域で、科学的知見や伝統的文化を超えた過剰な意味づけは不要(特に食べ物を善悪に分けることは完全に無用)。

現代は不寛容の時代で、誰もが失敗を恐れている。イラストもそうで、驚くほど線が少ないラフ画をネットで見かける。ラフ画はラフなんだから、無駄な線、失敗した線がいくらあってもいい。間違った線を大量に引くからこそ、正しい線が見える。しかし、そういった間違いだらけの線の入ったラフはなかなか公開されない。しかし、北沢志保が歌うように「間違いの先に正解がある」のもまたこの世界の真実。重要なのは単に失敗しないことではなく、失敗とどう向き合うかだ。

こうして、「まあ家に帰ればぬか床あるしな」という生活が新たにスタートした。